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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
テスト、そして夏休み
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Exit way to bus stop scene2

 こいつは前からちょくちょく、原稿を描いてるだのと言っていた。最近、俺のまわりにそういうやつが多いような気がしているのだが、――相方と、本職らしいコーヒーの人と、出水。三人いれば充分多いだろう。

 これは、部活を作りたいとか言いだしてた、いつぞやのくだりの続きである。聞いたところによると、この女学院の漫画研究部は本当に《研究》をしているので、――つまりその実態は、世界観の考察やら、自作用語集を編纂してみたり、年表などをまとめたりするのに夢中であり、漫画を描くという行為からは大きく逸脱した団体である、と言うことだ。漫画は描いていないが、看板に偽りなし。確かに、非常に生産的ではあるのだが、俺としてはあんまり近寄りたくない集団である。俺は考察したりするような楽しみ方はできないから、というのもある。だから同人が描けないのだろうか。

 そんなわけで、美術部や文芸部などもあるのに、漫画を実際に創作している部活動と言うものは、現行存在しないという事らしく、出水としてはそこんところをなんとかしたいらしい。だが、部活を作りたいという理由の裏には《部室棟の部屋を確保する》という思惑が絡んでいることを俺は知っている。なんて、その事を先に言っていたのだから特に隠しだてをしているというわけでもないが、なるべく伏せておくべき事情ではあるだろう。生徒会役員からリークされたという、部活解体のお知らせ、出水以外にも聞きつけている集団がないとも限らない。話をつけるのは早い方がいいのだが、今はテスト期間であるからそうもいかないのである。部活はすべて活動停止、生徒会も例外ではない。

 部室棟は寮からは遠くないし、夏の間に生徒が利用しているという事を考えると、確かに遊び場としては良いかもしれない。なかなかロマンがある。

「私は、うん。描いてるけど。でもさ、せんせも同人誌描いてたりするのかな」今回の美術のテスト、こいつの出来が気になる所だが、またナンセンスな質問が来たな。

「俺が。なんでそうなる」たまに鋭い出水の事だ、そのあては外れてはいるが、今日読んでいたライトノベルの展開で俺が抱いた意欲というものでも、察したとか。まさかな。

「さっき、はっちーの質問に、絵は描かないって答えてたよね。確かにそう言った。けどさ、趣味は読書で、ライトノベルも読むんだよね。そして、アニメだって見てる。それはもう私たちから見たらはっきりした事実だよ、せんせー」まだ喋っていいと言われていない妻木が、横で首を縦に振っている。同感だ、と。

「そうだなー、最近はの見てないが、確かにアニメも見るよ。それも趣味っていうのかな、この年でアニメを見たらおかしいとか、昭和じゃあるまいし、おかしな事でもないだろ」

「絵を描ける。ラノベを読む。アニメも見る。そしたら、絶対あると思うんだよ、何か、わきあがってこないのかなー」その何か、という感覚はさっきようやく体感した所だ。だが今そんな事を言っても仕方ない。

「あの、同人誌ってなんですの」口を開けない妻木と違い、微妙においてけぼりにされてしまっていた石動が率直な質問を述べた。

「あ、すいちゃんも部活には所属して無いよね、部活作ろうよ」いや、質問に答えてやれよ。やれやれといった具合に、蜂須賀が石動に簡単に説明をしてあげた。かなり世話好きなようだ。背も高いし、お姉さんっぽい。そして石動は意外と理解が早かった。

「そもそも、部活を作るには手順がいる。そうだろう」さっきの俺と同じだ。面倒な手続きが必要。指導者がいれば別だが、部活作りますはいそうですかととんとん拍子ってわけにはいくまい。活動目的とか、明確なものが必要なんだ。一般的な漫画研究会は文化祭で合同誌などを発刊するものだが、それを踏まえると、ひとまず文化祭で何かアクションを起こさなければならないだろう、当面の目標はそれと言う事になる。しかしだな、話は聞くだけ聞いてやってはいるものの、問題はその前に。

「人数は五人くらいいればよし。同好会からスタート、とか。実績があれば部にクラスチェンジできる、とかそう言う話のことかな」蜂須賀は指折り数えながら、部活発足の手順についても簡素な説明を始めようとしてくれたのだが。

「なるほど、そういうルールもあるのかここは。って、そうじゃねえよ、大事なことがあるだろう、もっと」蜂須賀は、せっかく話そうと思ったのに、という視線を向けてきた。説明してくれるのはありがたいが、個人的にはもっと大事な話なのだ。

「えっと、あの、何かあるんですの」石動は妻木に話しかけている。でも首を横に振るだけで何も言わない。どうも、黙っていろという言いつけにこだわっているようだが、――こいつもしかして、テスト失敗してるんだろうか。

「いいか、何の部活を作るにせよ、同好会にせよ、人を集める前に考えなきゃいけないことがあるだろう」四人ともが、きょとんとしている。

「何を考えるの」

「だから、顧問の先生だよ、こ・も・ん。いなきゃ承認してもらえないだろう、普通」

「せんせ、それギャグで言ってるんだよね」

「なんだ、真面目に言ってるぞ。それともなにか、顧問がいなくても部活を作ることができるとでも」

「だから、秋聞せんせが顧問なんだって」

「え、俺かよ」

「もう、くどいよ」

「すまん。でもなあ。やっぱりそういう方向で進んでるのか」

「当り前じゃない。せんせが断るって言うなら、別にいいんだけどね。無理にやってもらうつもりはないから。でも、せんせが顧問だったら良いなぁとは思います、にしし」

「そうか。しばらく考えさせてくれ」

「テスト返却の日には返事くれないと困っちゃいますのでー、よっく考えてくださいねー」

 そうなると、今週いっぱいは考える時間があるってことか。さあて、どうしたものかな。部活動の顧問は、非常勤でも成り立つものだろうか。まあ先生がいればいいんだろうから問題はないのかもしれない。コーチだとか、そういうのもいるし。

「あとそうだ、部室を手に入れたいんだよな」

「うん、できればねー。せっかく部屋が空くって教えてもらったから、部活作るなら今だもん」

「仮に同好会スタートで、すぐに部室貰えるのか」

「部活スタートだから大丈夫だよ」

「え、でもさっき蜂須賀が同好会がどうのこうのと」

「あれはただの例え話です」

「うわ、騙された」

「何ですか人聞きの悪い。ちゃんと聞いてくれなかったせんせぇが悪いです」

「そうだな、悪かった」

「あ、もうバス停だ。せんせはこれに乗ってそのままでしたよね」ああ、本当だ。話をしている間にバス停まで来てしまった。人と話しながら歩いていると時間も距離も気にならないものだな。

「そ。俺はこのままバスに乗って帰る。誰か他に乗らないのか」

「……」黙って手をあげる者が約一名。

「ああ、悪かった。喋っていいぞ妻木」

「っあぁああぁあぁしんどかった。先生、アニメ何見てますか、何が好きですか」

 妻木が降りるまで、バスでずっとアニメの話をしていた。ずっと黙っていた分溜まっていたものが吐き出せて良かったな。最近のアニメは、わからないって言ったのに。言ったのに。

『久しぶりにとてもお疲れのようですが、ここはベッドブルはいかがですか、秋聞様』

 迷うこと無く、買ってしまった。


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