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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
テスト、そして夏休み
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Examiner scene2

 せわしなく動き回る小川先生。じっと教壇に寄りかかる俺。全く対照的だ。

 せわしなく動き回る小川先生は、生徒たちのテストを注視している。巡回して、自分の担当する生徒たちの様子も眺めている。

 じっと教壇に寄りかかる俺は、テスト終了までライトノベルを読んでいる。ちょうどおあつらえ向きの内容だ、作者はきっと良く勉強したのだろう。音楽系の事は解らないので後で出水たちの輪に混じって、ついでに蜂須賀にでも聞いてみるとするが、他は美術や芸術に関する知識で固められている。ストーリーの軸は、言ってみればファンタジー物だが基本を構成するガジェットに西洋芸術のエッセンスが盛り込まれていて大変心が躍る。

 ううん、小川先生は、何をそんなに動き回る必要が有るのだろう。仕事熱心なのは良いが、生徒たちからしたら鬱陶しくて仕方がなかろうに。それともうろつかなければならない理由でもあるのか。ないだろう、この状況で。落ち着きのない野郎だ。全くどんどん印象が悪くなって来るな、この男は。時折こちらを見遣って来るが、気にしない。俺の視線でも感じているのだろうか。お互いに意識しているようだ。ぞっとしない。

 ――おっと、こんなところでいきなりメインキャラを殺して来るとは。復活とかないだろうなあ。残念だ。個人的に大事なシーンだと思うのだが、挿絵がないのか、何を考えている編集部。いや、それは言い過ぎだ、そうではなく作者の意向かな、キャラクターの死を無味乾燥に表現したいのかもしれない。悲劇的では有るが、何かしらの感動を誘うという意識が文章からは見られない。ここで挿絵が有ったら逆に台無しかもしれない。ライトノベルと言うのはある程度はビジュアル化を意識していなければならない。色々考える事が有るのだろうな。話の展開としては、序盤の狂言回しが死ぬのはとても面白い。

 ――このキャラが死んでしまった事は哀しいが、話としては面白い。そう言う感想は、何か違和感があるだろうか。これは、ただ視点の違いってところかな。

 夭逝したキャラクターが好きだから、もし生きていたらどうなっているか。そういう風に想像を働かせる事、これが二次創作の第一歩なのだろう。同人誌を作るヤツの気持ちが少しわかって来たかもしれない。どうしよう、このキャラクターを《描いてみたい》と言う衝動が俺の中に沸き立って来ている。ストーリーとしては独立しているが長い目で見て、たった二巻の活躍で死んでしまったキャラにスポットを当てる事。何かの使命感だろうか。キャラへの愛。わからない、わからないがこのなんとも言えない気持ちは一体。描いてみたい。なら、描けば良い。簡単な事だが、ただ描くだけじゃなくて、もっと――表現をしてみたい。

 いかん、落ち着こう、大人しく続きを読み進めるんだ。

 ――だが、くそ、人が考え事をしているのに行ったり来たりしやがって、本当に何をしているんだ、そんなに生徒のテストが気になるのか。確かにその方が、教師としては良いイメージかもしれない、だが。

 こうして生徒がテストを受けている中、俺はのんきにライトノベルなんて読んでいるのだ。褒められた物ではないだろう。しかし、俺は生徒を信じている、俺が慌てたってどうにもならない、生徒と同じだ。ただ厳粛に、結果を待つだけ。今はそれで良いんだと思っている。

 生徒を信じている、と言ったが、それはテストの内容の話だけではなく、――しかし不正行為を探しているというわけでもないだろうが、小川先生は殆ど立ち止まる事なく巡回を続けているのだ。彼が真面目なのか、それとも俺がおかしいのだろうか。別にそっちを見ているわけじゃないのに、気配が近づいて来たり離れて行ったりするのを感じるだけで、何だか集中出来なくなる。いかがわしいオーラを出しているんだろうか、小川先生は。

 もちろん、俺がじっとしている分も引き受けて巡回してくれて居るのかもしれないのだから、その点は感謝しなければならないだろう。もしかして、俺が《我慢している事》をしてくれて居るのだろうか。

 ライトノベルなんか読んでる俺の方が悪いのは誰の目から見ても明らかだ、生徒を信じているなどと言うのも、言い訳にしか聞こえないかもしれない。

 しかし、俺が生徒たちを見て回らないのには、どうしても譲れない理由がある。俺が我慢している事、それは《完成前のテスト答案を見てしまう事》だ。これはどうあっても避けたいのだ。ネタバレはダメ、ゼッタイ。

 そうだな、小川先生からしたら、全くけしからん事この上ない状況かもしれない。改めて様子を見てみると、うちの生徒たちの答案が視界に入るたびになにやら渋い表情をしている。なかなか胡散臭い作品が出来上がっているようだ。採点が楽しみである。

「秋聞先生、ちょっと」再びライトノベルを読み進めていた俺に、テスト中だと言うのに声がかかった。流石に小さな声では有るが、そんなことをする人間は、一人しかいない。小川先生だ。まさか、直で俺にお叱りとか。そう考えた拍子に思わず俺は身構えてしまった。

「な、なんでしょうか」

「すいません、トイレ行ってくるので少し、頼みます」

 トイレ我慢してたのか。


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