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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
テスト、そして夏休み
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Examiner scene1

 美術のテスト。

 何か絵を描け、と言うようなお題で赤点だけは出さないような姑息な手段を講じてみたわけだが、実際どうなるだろうか。

「せんせ、おはよー」最初の挨拶は出水、もはや恒例だな。

「おはようさん。勉強して来たか」

「ばっちりだよー。後は何が描けるかによるけど」

「ふふん、そこんとこは言えないな。頑張れ」

「チィッ」教師に舌打ちとは何事か。調子に乗るなと小突いてやる。

 ずっと心配してたが、テスト本番でもいつも通りなのか、こいつは。本当に能天気なヤツだ、テストの話をすると頭を抱えるようなキャラかと思ってた、と言うか話をした時は確かに怒ってたんだがなぁ。羨ましい事だ。能天気。

「おはようございます、秋聞先生」と、教室にもう一人の先生が現れた。この次の時間のテストは、選択授業のものだ。だから、美術と音楽で同時に行う事になっている。彼はその音楽の担当なのだ。

「おはようございます、小川先生」彼は三十代の前半と言った所か、まだまだ若い。良い男だ、と思った。なにせ、ルックスも悪くないと言うのにハッとするような魅力的な声の持ち主なのだから。舞台俳優とかやってるのかもしれないが、そう、歌劇の類を。しかしこいつは生徒にウケそうだ。背丈は俺と同じ位だが、髪は短いのでいくらか爽やかだ。俺は何となく自分のもみあげをつまんでみた。また伸びてる。

「うん。テスト日和だね、今日は」どういう日がテスト日和なのかは解らないが、「そうですね」とは答えておいた。こうしてクラスに生徒が二十人集まっているという光景は俺にとっては、またとない機会である。半数が俺にとっては見慣れない生徒と言う事だ。

「最近の生徒は声が美しい。そうは思いませんか」唐突に、小川先生は俺に聞いてきた。

「それは興味深い。僕にはあなたの声も素晴らしいものに聞こえますが」こいつは世辞ではない。だが男に良い声だ等と言われては、神妙な面持ちにもなるか。そんな変な顔をしなさんな、そりゃ女生徒に褒められるのとは違うでしょうけど。

「そ、そうか、ありがとう。今度、声楽部の練習など覗きに来てみると良い。きっと満足して頂けると思うよ」なるほど、売り込みか。

「それはそれは。文化部棟ですかね」今度は、前髪をいたずらに指に絡めてみる。すると、人差し指を二回りした。こりゃまた、だいぶ伸びてるなあ。絡まらずにするりと解けた。触り心地は悪くない。と思う。良くいじられたものだ。

「ええ、三階の角部屋です」三階か。そうだ、確か出水の言っていた、空く予定の部室は二階だったな。うん、上に昇るのは面倒くさい。多分行く事はないだろう。

「了解しました。機会があればお邪魔します」これは世辞だ。

「是非ともいらしてください」それより、テストの話をしましょうぜ、旦那。まあ、緊張はお陰でほぐれましたが、ね。

 試験監督の教師二人がテスト前だと言うのに、壇上で談笑――笑ってるのは主に彼方さんだ――してるもんだから、生徒たちは変な空気になっている。見回すとみんな机上に目を落とす。避けなくても良いだろう、別に。

 一人と目が合った。蜂須賀だ。

「久しぶり、勉強はうまくいってるのか」テスト前に先生と目が合って、話しかけられる気分はどうだ。ちょっと気分が乗って来た俺である。わざわざ蜂須賀の席の横まで移動してやった。というのもあの音楽教師から遠ざかるためでもあるが。

「な、何で私なんですか」本来であれば彼女は、出水らと騒いでいる生徒では有るが、周りを気遣ってか今は小声で会話する。場を弁える事が出来るのは素晴らしい。

「たまたま。目が合ったからだよ、他は皆勉強してるのに、俺なんかを眺めているから悪い」俺は腰を低くして、蜂須賀の座席の背もたれに手をついた。彼女は背が高いので、これくらいで俺と目線が並ぶ。

「私が見てたのは小川先生です」

「それは失礼」

「冗談です、せんせを見てました。だって、髪の毛なんていじって心ここにあらずって感じでしたから気になって」はあ、俺はため息をついてしまった。そうか、そう言うのを見ているのか。なんだかんだいってこいつも女の子だ、侮れないな。

「いや、ただな、また伸びて来たなと思ってただけだ」

「ただでさえ男の人が髪の毛いじってるなんていやらしいのに、人と会話中になんて失礼ですよ」また生徒に注意されてしまった。スポーティーな娘は礼儀を重んじるものだ。やれやれ、肩身が狭いね。俺と言うヤツは気を抜いているとすぐこれだから困る。

「わかった、気をつけるよ」

「えへへ、私も美術にすれば良かったかなー」そんな事を言いながら、開いていた楽典を閉じる蜂須賀は、どことなく寂しそうだった。週に二コマだけ仲良しの生徒と一緒に居れないくらいで、そんなに辛いのだろうか。解らないな。

「お前まで居たら五月蝿くてかなわん」うるさいが、そう、確かに声は良い。

「あ、そういう事言うんですね」音楽の授業はどんなんだろうな、と何となく考える。まず、俺の美術とは違い集団の規律というものが重要だろう。少し難しそうだ。

「さて、そろそろテスト十分前です。問題用紙を配りますので、筆記用具以外はしまってください」やけに良い声が教室に響く。こりゃ、説明とか全部彼にやってもらった方が良さそうだ。言われる前に教材をしまった蜂須賀は、もう覚悟が出来ているらしい。

「さて、俺も配らなきゃな。音楽頑張ってくれ」

「うーす」

 俺はちゃちゃっとテスト問題を全員に手渡ししたが、小川先生は列の先頭の生徒に配って回させた。そんな面倒な事をするなよ、と思うんだが。自分の生徒が誰か解ってるんならなおさら、美術組に余計な手間をかけさせたようにしか見えなかった。

 ま、邪推は禁物だがな。

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