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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
テスト、そして夏休み
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Exact leaving advice

「こんにちわっす、秋聞さん」炭酸ゼリーをじっくり味わっていたら、珍しい人物に声をかけられた。このゼリー飲料と比べたら、全然珍しくないのだが。田辺である。

「どうした、章太郎くん」何でもないような調子で、返事をする。

「いや、ひさしぶりですね、とか言おうと思っただけなんですけど。挨拶くらい返して下さいよもう」見てみると、私服姿で出て来たらしい。そりゃ、休日だから当然だが。白Yシャツに黄色いノースリーブパーカーという装いだ。なんだか、光が反射すると言うか、まぶしいな。こいつも体温調節に一枚羽織ってると言う感じだろうか。それとも単純にファッションで、なのか。

「そうか、確かに最近会っていなかったかもしれないなぁ」

「かもしれないじゃなくて会ってなかったっすよ、実際」

「そうだったかな」

「そうです」最初に本を貸した当初の出水は、もっと落ち着きの有る少女かと思っていたんだが、印象としてはこの田辺章太郎も変わらない。いつでも陽気だ。

「チャラチャラした格好しやがってまったく」偏見とまでは行かないがビビッドカラーを違和感なく着こなされると、どうもそう言う見た目判断になる。

「ええ、秋聞先生こそ先生なのにチャラチャラしてるじゃないっすか」こいつめ、俺は生徒からそう言う事を言われるのが苦手だと言う事を知らないから、言ってくれるじゃないか。こいつは俺の生徒ではないが、同じようなものだ。しかし、俺の今の装いは全然当てはまらないと思うのだが。

「……なんでYシャツ姿がチャラチャラしてる、になるんだ」

「だって、妙に小ぎれいじゃないですか。いや、悪く言ってるんじゃないですよ、清潔感が有っていいなぁとは思いますが」なぜそこで視線を合わそうとしない。

「気色悪い事を言うんじゃない。全然チャラチャラしてないじゃないか、意味が分からんぞ」適当言っただけじゃないのか。表情からはよくわからない。俺と似たような髪型だからだろうか。程よく前髪が表情に陰を差す。木漏れ日のように。

「雰囲気ですよ、雰囲気。若いからって言うのも有りますけど」

「お前に若いとか言われると腹立たしいな」

「なんでそんな刺々しいんすか、僕の相手をしているときだけ」

「お前は知らないだけだろう。俺はだれにたいしてもこうだ。愛想がないとよく言われるよ」敵意というわけではないが、こいつにたいしては少しばかり冷たくあたっているような感じはする。ただ、俺は昔から男友達と接しているときは、こんなものである。

「そうですね、なんか人に好かれようとしていないというか、色々無頓着な感じはします。でも気さくで話しやすいですよ。でなきゃ声なんてかけたりしません、おっかないですし」また失礼な講評を聞かされている気がする。逆だ、最低限悪い印象は与えないような装いを心がけているだけであって。

「おっかない、ときたか。お前は普段俺をなんだと思っているんだ、言ってみなさい」

「いえ、何かその、スタイリッシュなお兄さん……ですか」

「なぜそこで疑問系なんだ」

「なんかもうほんとすいません」

「お前もこれ、飲んだらどうだ、良いリフレッシュ飲料だぞ」そう言って手に持った缶を揺する。ちゃぷちゃぷとゼリーのはねる音が聞こえた。

「炭酸ゼリーじゃないっすか。へえ、こんなの入荷してたんですね」

『何かご入用ですか』自販機さんが会話に入って来た。俺たちは一応彼女の視界、というかセンサーの圏内に位置して居るが、節電のために黙っていたようだ。

「これいただきます」そう言って章太郎は、パネルのおすすめ欄に表示されている炭酸ゼリーを選択し、料金を画面下部のポートにカードでタッチして清算した。こいつもこれか。あの自称漫画家香芝も同じ買い方だった。なんか、データとか残ったりするんだよなアレ。購入履歴とかそういうものが。

『どうぞ。よく振ってお飲み下さい』相変わらず章太郎に対しては無表情で応対する。俺は炭酸飲料が取り出し口に落下してくる際はいつも気をつけて居るが、そういった素振りはこいつは見せない。まあ、普通はそういうモノだろうな。ほとんど気にしないだろう。

「秋聞さんは何回振ったんですか」取り出し、さっそく振りながら聞いて来た。

「二十とか、そのへん」割と大振りで二十。シェイクというよりはスイング、と言った具合だ。

「それけっこう容赦なく振ってますね。さすがに吹き出しませんか」

「こいつはこれぐらいで丁度いいんだ。考えた人には敬意を表するね」

「確かに。でも、十回振ったらもう充分ですって」実際数えていたが今の章太郎の回数は九回、だった。

「ああ、次はそれくらいにしてみる。毎回同じ回数じゃ、面白くないからな」食感を楽しむものでもある訳だし。

 自販機さんを見遣ると、スカートを持ち上げてひらひらしている。あれは、暑いからやるような動作だ、出水がよくやっている。ただ丈が長いから、ひらひらさせているようにしか見えない。ばさばさとは言い難い軽やかさだ。もしや暑いんだろうか、いっちょまえに。

「どうした」

『着替えるとしたら、どういうものが似合いますか』何だ、薮から棒に。

「うんまあ、夏だしな、涼しいようにしたらいい」

『へそは出しますか』

「何の話ですか。すごくプライベートな会話じゃないですか」

「さっきお前と話してた事と何も変わらないだろ、相手が変わっただけで」

「……はぐらかされてるみたいでずるいっすね」何言ってんだこいつは。

「そうだな、やっぱり水着とかでも良いんじゃないのか」

「スク水ですか」

『秋聞様、お連れ様がお帰りです』

「俺もそろそろお暇してもらおうかと」

 自販機さんは良く知らない人から受けるセクハラは嫌いらしい。

「ギャグで言ったのに」

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