Example of new texture
ついに、明日の月曜日からテスト期間がその本番を迎える。思えば長かったな、テストが有るぞと言ってからここまでが。
テスト本番のこの期間はどの学年も通常授業は無い、つまるところ俺は学園にお呼ばれしていないので、試験の監督を行う日以外は自宅でのんびり出来るというわけだ。悠々自適、晴耕雨読。俺の場合は、そうだな、晴れの日は学校で授業、雨の日は家で絵描き。晴講雨描、なんてな。ここしばらくは雨の日も学校だったが、そこは言葉のアヤというやつで、どうか。読書もしているから、言い換える必要も無いのでは有るが、外でも家でも仕事が有ると言うのは外から見ればかなりの重労働者に見えるだろう。仕事の内容が《重い》というよりは単純に《重なっている》という意味で。しかし、イラストレーターの仕事は通常であれば時間の作り方も、かなり難しいものだ。こればっかりは一朝一夕というわけにはいかないだろう。そこは経験の差とも言うべきものだ。だから、仕事の配分が今後どうなるかが重要である。
テスト期間でする事が無いとは言え、もとから、毎日が日曜日と言っても良い様な生活であった事に変わりなく、今の状況は中間テストのときと同じものだが、それを抜きにしても、いつもの生活サイクルとは少し違うわけで、なんだかふわふわした気分だった。
雨が降っていなければ暑い。それが夏の到来というものだ。家に籠っている位で丁度いい。運動不足を何とかしよう、という話は、俺の中でもう既になかった事になっている。学園散歩してるしそれでいいかもしれないな、と言い訳。
『今日は珍しいものを買いましたね』
「だってお前さん、コレをおすすめしてたじゃないか。なに意外みたいな顔してるんだ、わざとらしい」ただ、まあ本当に珍しいものをたまに仕入れてくれる自動販売機だ。
俺が買ったものは、固形ゼリー飲料。振る回数で食感が異なるものになる、というヤツだ。食感が、だ。その時点で、もう飲料とは言えない何かである気がするが、飲料と書いてあるのだからこいつは飲料なのだろう。奇妙だが。次いで言っておくと、炭酸なのだ。炭酸、だ。それ故、珍しいと言ったのだ。こういうのを眉唾物と言うのだろう、でなければおかしい、炭酸飲料なのに但し書きで振って下さいと書いてある。驚天動地、まさに。
そして、コレを飲む人間は、二種類に分けられる。恐る恐る振るヤツと、おもっくそ振るヤツだ。俺は、前者だった。いくら何でも滅茶が過ぎる、炭酸を振るなんて行為はどう有っても避けるべき事だ。炭酸飲料好きの俺が言うんだから、説得力が少しは有るかもしれない。ただ一度経験すれば、学ぶという事だ。この炭酸ゼリー飲料さんは、間違っても吹き出したりしないようになっている。計算し尽くされている。一体全体、何でこんなものを思いついたのか、頭の良い人間とは、時に面白い事をしでかしてくれるものだ。
味の方は、うん、うまい。こういうものはしばらく口にしていなかった気がする。と言うか、期間限定みたいなもんだし、久しぶりに見たのだ。とりあえず食感云々は置いといて、のどごし優先で二十回近く思いっきりシェイクしてやったので、それはもう飲料らしくなった。炭酸なのにゼリー。ああ、心地よい。ぷりぷりだ。今の時間感覚と相まって、この冷たい固形物の食感、のどごしは、小学校の土曜日に家で食べるおやつ。そんな感じだろうか。
『どうかしましたか、秋聞様』
「いや。暇だなーと思ってさ。仕事は有るっちゃ有るんだけど、先の話だからなぁ」
先達て予約が入っている件である。原画仕事の相方がここに来たら、自販機さんを目にする事になるんだろうな。それはもう、確実に。そうなったら、騒ぎ散らすに違いない、かなりのテンションで。予定を取り付けちまったからには仕方有るまい。大人しくその状況を迎える覚悟をしなくてはならない、今のうちに。そして話に有った通り、その場の思い付きだったが結果として控えている仕事のベッドシーツの原画は、俺のデザインしたヒロインと相方のデザインしたヒロインを同じ一枚に横たえる、というわけだから、ちゃんと考えて配置しないとならない。
あいつが俺の部屋で酒を飲むのは確実だとしても、それを遅らせるために一仕事誘っておいたのは正解か、否か。何事にも思惑が有っての事なのだ。避けられない事は、後回し。明日出来る事は明日やる。今日しか出来ない事は、出来るうちに済ます。可能な範囲で実行しているが、あいつが人の家に来て酒を飲まないと言う選択は無い。なぜなら、彼奴は一人で酒は飲めないという困った性分なのだ、これが。仕事が忙しく、普段飲んでいない分、缶ビールを段ボール一箱くらい持って来やがるかもしれない。せっかくだから付き合ってやろうとも思っているから、それも含めて、覚悟である。身を知らずに、前人未到の深酒になるかもしれない。そして空酒も得意中の得意ときた。シラフのうちに、一緒に何か作ろうか。
と、こんな具合で、なんだかんだで俺も楽しみにしているかもしれない。誰かがこの部屋に訪ねてくるのは初めてだしな。はてさて。そう言えば、我が鳴嶺女学院の学園長先生は、ワインを学長室に置いてあるらしい。ちょっとお邪魔して、譲ってもらうのも一興かもしれない。もしかしたら、気前よく美味そうなものをくれるかも。
休日に、リラックス。昔は試験監督のバイトだってしたというのに、それとこれは何だか次元が違う。やはりその日が来るとなるとまた緊張してしまうのだろう。だから、今は楽しい事だけ考えている。
『秋聞様、この前のコスチューム変更機能実装の申請ですが』
「ああ、あれか」
『却下されました』
「だろうな」
『というのは冗談で、月末にもシステムが構築されます。はぅ』
「そんな残念そうな顔するな。思い通りにならない事もある」




