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灯火scene5

 それは、久しぶりの再会だった。

「あ……」

 それは一つ所に感動、なんて言葉では言い尽くせない。背筋は張りつめ、怪しい汗が噴き出す。呼吸が詰まる。

 一年半ぶりに見た彼女は、とても美しい少女へと成長していた。この時期の成長は目覚ましい。だんだんと大人に近づいて行く多感な時期、これは、何と形容したら良いだろう。美しい。本当に美しい。

 聖少女。

 誰も触れてはならぬ。

 鉄の、乙女。

 誰も、触れては、ならない。

 それほどまでに、彼女は美しくなった。僕の心臓は早鐘を打ち、いまにも張り裂けんばかりだ。そんな状況を察してか、彼女の方から、静かに口を開いた。

「……変わらないね、君は」

 嬉しい再会、だった。でもでも。

 本当に変わっていないのかい、僕は。君の目に映る僕は、恐らく一回りも二回りも成長しているはずなのに、彼女は、変わっていない、と言った。

 勿論、身体的なことを言えば一目見て解るほど、変わっている。当たり前だけど、彼女も元から背は高いが、僕だって伸びたのだ。小学生のときと比べれば。だが、そういう事ではない。そう言う事ではないんだ。

 変わってない、本当にそうかい。僕は、彼女に大きくなったね、とか、久しぶりだねとか、もっと直接的な、そう、会いたかったよ、そんな優しい言葉をかけてもらいたかった訳じゃないんだ。今までの僕とは違って一人で頑張ってここまできた、内的、精神的な成長を見てほしかったのだ。彼女ならきっと、一目見て僕の成長を見抜いてくれると思ったんだ。でも。

 変わっていないと、君は言った。解っているはずなんだ、君なら。

 そんな事ばかり思って、冷静で居られなかった。心臓は、変わらずビートを刻む。周りに聞こえてしまうのではないかと、錯覚するくらい、激しく。

 人は、そんなに理想通りなものではないんだよ。わかっているだろう。それとも、わからないふりをしていたのかな。君はそうして、現実から目をそらすんだ。

 僕の脳に、彼女の声で、それらの言葉が響いた。

 そんな冷たいことを言わないで。お願いだから。

 しかし、目の前の彼女は、淋し気な微笑みを浮かべているだけで、何も言っていない。その瑞々しい唇は、何も訴えようとはしていない。ただ、僕を真っ直ぐ見据えるその透き通った瞳だけが、僕をいたたまらなくさせるのだった。 

 自分の全てを、この今のひと時のためだけに耐えて来た努力、苦労、挫折を乗り越えてここまで来たという事実、それらを察してくれた上で、優しい言葉をかけてくれる事なんて、どうして信じられただろう。

 彼女の、些細なほんの一言だけで、僕はここまで狂おしい思いに駆られる。それは、それこそは身に沁みて来た、僕そのものであり、彼女のために僕はいる、彼女のために僕はいた。そういう信仰だ。

 信仰。

 それは儚い幻想かもしれない。

「変わらない、本当に。ずっと君は、君なんだよ」

 何気ない一言かもしれないが、君を守るため、とか、そんな恥ずかしい言葉を並べて僕の事を認めてほしいなんて、そんな風に躍起になっていた僕にとって、その言葉は追い打ちになった。何の事は無い、僕を見て、変わらないと言ってくれた事は、彼女自身が変わっていないという事の証でもあったのに。

 そう言っても良かったんだ。まだ、彼女は変わっていない。この時点では。

 僕は、小学校を卒業し公立の学校へ入った。有り余る時間は、編入試験のために捧げたのだ。

 この時期の應仙学園は、外部からの編入生というものを積極的に取り入れ、学園内に新たな風を吹き入れようとしていた。歴史ある学園だからこそ、それまでの古い風習を取り払おうと考えての事だったかもしれない。

 高等部から受験して入れば良かったんじゃないかとも思うかもしれないが、そこは中高一貫校だ。その後があまりスムーズに行かなくなる事くらいは僕にだって解る。カリキュラムの違いというやつだ。僕は彼女との時間を楽しむと言う、そのためにこの学園への編入を希望している。将来がどうのこうのと、そんな事のために学園を選んだわけではない。

 僕は彼女のために、存在している。だから、傍に居なければ。

 これが信仰でなければ、何だというのか。

 妄信。それでもいい。僕にとっての全てが、それだったのだから。

 そして、編入試験のために應仙の門をくぐった時。

 これは、まったく、不意の再会だった。

 想像だにしていなかった。

 一目見て。お互いが誰なのか解った。

 緊張する僕を見て、彼女は言ったのだ、変わっていない、と。

「そ、そうかな、ははは。僕、頑張って試験に受かるよ。そしたら、また一緒に」

「そうだね、背は伸びたみたいだ。でも、まだ私には届いていないよ、頑張らなきゃ」

「う、うん、牛乳飲んでるから、大丈夫」

「まだ門をくぐったばかりで、緊張しててどうするんだ。男らしく、どーんと構えて居なさいよ。リラックスして。深呼吸」

「すーっはーっ、うっ、えほっ」咳き込んでしまった。情けない男だ、本当に。

「まったく君と言うやつは。さあ、頑張ってこい」

 これですっかり頭が真っ白になってしまった僕は、試験問題をまともに見る事すら出来ず、不合格となった。


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