July from June scene4
最近はこの学園の得体の知れない雰囲気というものに飲み込まれる事は無くなった。だが、相も変わらず、俺の中にある何かしらの弱さの部分にダイレクトに訴えてくるものはある。それでも、ここで振る舞う事に曲がりなりにも慣れた俺は、多少はラフな格好のままでも、歩き回れるようになった。クールビズと言えば、まかり間違っても注意されはしない。言わばここは全て自分の庭だと思えるくらいの気概が無ければ、胃が痛くてかなわない。
出席を取り終わった俺は改めて生徒たちに声をかける。
「今回の俺のテストは簡単だ。何も心配する事は無い。――もしだめでも、次ぎを頑張ればトータルには響かない」そうだ、まだ一学期。俺はずっと緊張していたが、一学期目の成績は今後改善出来る。まだ様子見の段階というわけだ。もちろん、これは自分で気付いたわけではないが。それぐらいの事も忘れてしまっていたくらい、俺はフ抜けていたわけである。あの頃と同じようなものだ。
「せーんせー。失礼ですよーそれー」出水はいつもの調子で絡んで来る。俺もこれくらい楽観的でありたいものだが。他の生徒も特に焦っているものは居ないようで、リラックスする事が出来た。
「つまり自信が有るわけだよね。出水さん」
「そーゆーいやらしいせんせは嫌いですー」そう言ってふくれる出水。ずいぶんと余裕だ。
「おっといけない。とりあえず、来週からテストであるから、テストの話をしようかとも思ったんだが、それは前回済ませたんだったな」それで本当に、今日概観してヤバそうなヤツがいたら俺はそれなりにフォローするつもりでいたのだ。
「みんな大丈夫ですよ、安心なさって下さい」石動も俺の内心を察してか、微笑みながら優しい言葉をかけて来る。やれやれ、こんな小娘どもに、そんな簡単に察せられてたまるものか。しかし、虚勢を張るのが苦手だと言う自覚は大いに有る。出水にわかるものなら他の生徒にもわかってしまうのは当然だ。新米教師に気を遣える生徒か、立場が無いなこりゃ。
「そうなんだよ、わかるか。やっぱり初めてって緊張するよな」
「先生、それセクハラです」横やりを入れて来る出水。
「テストの話してるんだよ、出水は何を考えたのかな」
「先生に謝りなさい、あなたはほんとにもう」石動が真っ赤になって説教している。もう放っておこう。
「というわけでだな、みんな、今日は自習してくれ。ただし、テストに関係ない事はしちゃあだめだぞ。もちろん他の教科の勉強は思う存分してくれてかまわない。健闘を祈る。あと、いつも通り質問は呼んでくれれば、受け答えはするから」
それを聞いた途端、生徒たちは各々の勉強を始める。これは、なんともはや、懐かしい光景じゃあないか。懐かしい、ほんとに。さて、誰かに呼ばれるまでは俺ものんびり読書でもするとしようか。
「せんせ、せんせ」こいつは、また何か余計なちょっかいでもかけてくるつもりだろうか。しかし無視するのもなんだしな。
「なんだ、出水」露骨に面倒くさそうに返答してやった。
「うわ、これはまた随分わかりやすい態度ですね」
「だってよ、みんな勉強始めてるし、俺は読書したいんだから」
「せんせは私の事が嫌いなんですかねー」
「いや、好きだよ、もう少し大人しくしてくれればもっと好きになれそうなんだが」
「私もせんせ、好きですよー、にしし。でも、大人しくはできませんー」
「で、愛の告白がしたかったのか、お前は」
「いえ、物理を教えてもらおうかと」
「自分で何とかしてくれ」




