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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
自動販売機で、愛は買えますか?
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自動販売機で、愛は買えますかscene4

 先日のアレ、というのは、アップデートディスクを業者の兄ちゃんが間違えて挿入してたというオチがあるわけだが、どこの自販機も(もちろんこの最新型に限る)あんな感じなのだろうか。一人称が「わたくし」などという大仰なものに変わっていたのもあるが――客商売ではわたくしどもとか使うが――いかんせん態度がキツかった。

 そうまるで、冷徹な敏腕秘書のような。

 もちろんそんな秘書にお目にかかった事はない。仕えるべき主の仔細なスケジュールを完璧に管理する。たいがい秘書業務と言うのは、対人するのは客が来たときのお茶出しくらいな物で、主のプライベートに立ち入るような真似はせず、他部署の偉いさんを相手にもたじろぐ事無く立場を明確にし事を構え、常に冷静沈着、でありながら社外交遊では良い印象を振りまかなければならない。……いやいや、なにがお茶出しくらいな物だって。

 面倒な雑事が多い事この上ない。とてもじゃないが俺には無理……でもないか。しかしそう言う仕事こそ、オートメーション化をしてしまえばいいんじゃあないだろうか。

 実際導入した所で、細かい修正は人の手によらねばできまい、一概には自動化が奨励されるべき職種ではない、か。簡単ではない。

 メイドロボットというよりは、秘書ロボットのほうが面白そうだ。そう考えてみれば、中身は変わらないな、解りやすく言えば《着せる服で変わる》という話だ。趣味の領域だな、メイド服かスーツか。

「その点お前らは幾分と楽なルーチンで日々を享受しているわけだ」

『仰る意味がよく解りませんが、何となく貶されているような気が致します』随分と細かいニュアンスを察するものだな。先日のアップデートで、こんなところに何か足されたのだろうか。

「そうかもしれない。ただ、今日の俺はひと味違うとだけ申し添えておこう」

『美味しいのですか』

「普段が不味い、みたいな言い方するな。だがそう言う意味じゃない、いつもと違うってことだ」

『承知しています』ジョークのつもりか。こやつめ。

「ところで溜まってるんだ。処理したい。早急に」

「あ、秋聞さん、何言ってるんですか、自販機相手に」こいつは気配を消せるのだろうか。お互いの職種も知らんような間柄だが、こういうタイミングは非常に困る。

「804号室、田辺章太郎」

「何で毎回、そんな呼び方なんですか」

「これはな、ちゃんと覚えているかどうか確認しているんだ。現在も脳内で反芻中だ」

「いい加減ちゃんと覚えて下さいよ、顔会わせる度に初めて見たような顔で一思案されるのは寂しいです」

 間髪入れずに、

『804号室さま。ご注文はお決まりですか』と、自販機が答えた。

「お、よかったな、お前も名前覚えてもらって」

「それ名前じゃないっす。あー、訂正してくれないんでしょうか……」

『ご注文を承っておりませんので、訂正しようがありません』ごもっともだ。

「まい、ねーむいず、しょーたろー、たなーべ、おけい」あほか。

『眠いのですか。でしたらこちらの《ベッドブル》はいかがでしょうか』

「ねむくねー、わざとか、わざとなのか」

「うるせーよ。どいてろ、俺は溜まった小銭を処理したいんだよ。おーけい」

『おっけいです。どんときやがれです』

「……あんたら仲良すぎやしませんか」げんなりする章太郎をよそに、俺は大量の十円玉を小銭の挿入口に転がす。

「ん、何枚入ったかな」

『十円玉が十五枚です。あと十五枚でベッドブルに手が届きます』

「いらねーよ。今日はひと味違うと言った手前、試しに行くか、茶葉三倍緑茶」

『頑張って下さいませ』ごとん、と茶葉三倍が排出された。頑張れ、とはこれ如何に。

「ん、どうした、章太郎」

「は、初めてまともに呼んでもらえた……」

「うるせーよ。じゃあ記念に、おれからおごりだ、有り難く頂戴しろ」と、封を開けきらぬ茶葉三倍をそっと差し出すと、「ありがとうございます」と喜んでこれを受け取った。目に見えてうきうきしながら――こう見ると悪いヤツでも無さそうだが――そのキャップを開け、「いただきます」とこちらを見遣る。それに対し俺は、いーからいーから、気にすんなという体で肩を竦めてみた。

「頑張れ」言うが早いか、緑茶は章太郎の口へ、ドボッと音を立て雪崩れ込んだ。

 俺はそれだけ目にした後、百五十円を自販機に入れ、コーラを買った所で、声にならないうめき声が背後から聞こえた。

 自販機はまたも、ジト目で章太郎を見ていた。

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