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作業談合

 一度、ファンさえついてくれれば何とかやっていけるはずだと、うちの会社社長というか、代表取締役は豪語する。

 お前の絵こそがうちの看板であり、柱であると。とんでもないお言葉である。そうして自分を認めてくれる存在がいるというのは実に有りがたいことではなかろうか。いや、乗せられては行けない。彼の言葉は意図があってものだ。俺はそう簡単には煽てにはのらない。解ってるくせに言うんだ、いやな社長である。

 しかし、兼業イラストレーターとして活動するという、我が儘も聞き入れてくれた。雇い初めからして、これ以上ないくらいの恩がある。だからこそ、今回は恩を返すつもりで、全力の仕事をしている。妥協はない。気合いが違ったわけで、早々に、テレカイラストの原画を書き上げてやった。かなり良いものができたはずである。なんで急に、俺がそんなにやる気を出しているのかと訊かれれば、交換条件である。だからと言って、恩を返すというのは、嘘って事ではないが。

 ブランド二作目にしてキャンペーン尽くし、系列会社だからこその成せる技であろう。案の定、アンケート葉書を送ってくれた人の中から抽選で、直筆サイン色紙プレゼント。だからこれを、相方に押し付けた。ファンの皆さんごめんなさい、である。

 キャンペーンはしかし、これだけにとどまらない。恐ろしいことに。

 ――今なら大丈夫なはずだ。俺はリビングの家電話から、相方に電話を掛けた。先に述べた通りうちは、新しい会社とはいえ系列会社であるため、いわゆるコミケ、コミックマーケットにおける企業出展などはしたことがない。今回は直近に夏の陣が控えているため、上に打診すればゲームの販売に先駈け宣伝も兼ねた物販が可能である。有利なんだよな、そういうところ。

 例の特典云々で描くはずだった抱き枕は、どうやらそこで売る予定であるらしい。――俺のキャラは会社内での評判が良いと言ったが、実際は、確かに相方の描くキャラの方が可愛らしいのである。会社に進捗率など詳しい話を聞いていなかったというのもあって、この際改めて聞いてみたところ、公式サイトでヒロイン人気投票を行い、勝ち上がったものを抱き枕の図案に採用する、という話になっているとのこと。

 これはさすがに、雲行きが怪しくなる、いや危うくなるところだ。どのキャラが勝つかと言った要素が不確定だからという話ではない、夏のコミックマーケットが開催されるのは来月中であるが、それの以前に現状出来ることが限られてくると言うことだ。余分なエネルギーを割くこともないのである。

「……出ない。どうした、早くでろ――」

『――はい、あれ先生ですか。応答遅くなってすいません。突然どうかしましたか。emergency、emergency』妙なテンションだった。先生、と呼んではいるが俺が教師だからと言うわけではない。それ以前から、絵師さんという意味で先生と呼ばれる機会ができた。絵師さん、ねえ。それはそれとして、先生と言うのも最初は恥ずかしいものだったが、実際先生になってしまった今は、どっちの意味で呼ばれるかとしたらまず教師としてであるので、気にすることはなくなった。先生と呼ばれる職業は、教師、医師、専門家、用心棒、政治家、など。用心棒は別として、政治家を先生と呼びはじめたのはよくない。これが我が國の政治を蝕む癌であると思う。どうでもいいか。

「yes、emergency。でいきなりなんだがあのさ、お前はやる気なのかもしれないけどさ、悪いんだが人気投票の開催はこの段階ではやめさせようと思う。メールではなんだし、電話がいいと思ってな」

『なるほど。確かにその判断は間違ってないでしょうね。あ、でも先生は、ボクに色紙押し付けた代わりに、ベッドシーツ描くことになってるんじゃないですか』そうなのだ、先の交換条件と言うのがそれである。

「わかってる。けどそれはそれ、これはこれだろう」

『そんなこと言って……だったらボクに電話する意味ないじゃないですか。まさかホントに、お詫びだけなんて事、ありますか』

「と言うと」

『もう。解りますよソレくらい。また上にそんなこと言ったら、そうですね、コミケでグッズセットやら色紙セット売って、抽選券封入してサイン会に呼び出されたりするかもしれない、というのを恐れてるんでしょう』

「図星だ。わがままを通すにはそれなりの代償が必須だからな。さすが仕事のパートナーだけあるじゃないか。だから、お前さんからも上に言っておいてくれないか」

『じゃあボクも、先生に交換条件出していいですか』

「それは、俺にできることだろうな」

『もちろん。えっと、今度、先生の自宅に泊めてください、色々話したいこととかありますし』

「別に構わないが、――いや待て、なんでそうなる、そんなん会社でも出来るだろう」――ここには、自販機さんがいる。なんでそれが断る理由になるのかは、自分でも解らないが。

『いいじゃないですか。先生最近飲んでないんでしょう、付き合いますよ』

「背に腹はかえられない、か……」仕方無い。最近飲んでない、というか、俺は殆ど飲まないぞ酒は。

『それと先生、携帯持ってないんですもん、話したいときに捕まらないじゃないですか』

「その《捕まる》ってのが、どうも俺はいやなんだよ。携帯電話は特に必要に迫られたことはないし、昔から新聞もとっていない」

『新聞はまだ解りますよ。でもそれでよく社会人勤まりますよね、あ、変な意味じゃないですよ。どちらかと言うと感心してます』

「俺はこれでも学生時代からこの仕事してるからな、皆さんは俺の扱いに慣れたもんだよ」

『やっぱり人柄ですよね、携帯持ってないとか、普通に面倒な人って感じなのに』

「自由でいいんだよ」

『それじゃあ、人気投票の件は解りました。ちゃんと部屋掃除しといてくださいよね』

「これでも俺は、毎日掃除してるよ。ものが少ないから楽だし。――それにぶっちゃけ、使ってない部屋があるし」

『えっじゃあ、そこに住んでもいいってことですか』

「それは許さん」

『残念』

「あと今思い付いたんだがもう一ついいか」

『はい、なんですか』

「お前さんうち来るんなら、一緒にベッドシーツの図案描かないか」

『わ、それ面白そうですね、やりますよ。なるほど、ボクを指導するという名目ですか。――なら《ボクが先生に頼み込んで、上が許可してくれたら考えてもいいっていう了承をもらった》って事で、話つけておきますね』

「……良く解ってやがる」

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