要望要求
今回制作しているゲームは、学園もので日常をメインに据えて設定されてあるが、それだけではなく多少は伝奇的な要素も含んでいる。主として要所要所で挿入される選択肢によって、シナリオが分岐していく、というものだ。基本であるが、分岐で完全に後半のストーリーが二分されるというのが今回のキモだ。
俺が担当したのは三人のヒロインとサブキャラ、相方はもう三人のヒロイン、という具合だ。一応前回の功績もあってか、先輩格というか看板絵師扱いの俺に、多く仕事が回ってくるようになっている。俺にとっては、相方の描いたヒロインのほうが魅力的に映るのだが、俺のデザインしたヒロインはどうやら社内での評判がいいようだ、付き合いが長いから贔屓目と言うのもあるだろう。とはいえ相方も付き合い自体はさほど違いはないか。
現状では直接会社まで足を運んではいないため、進捗状況をこの目で見てはいないが、缶詰にならない程度には順調とのことだった。しかしこれから描くものの事は、相方に連絡した方がよさそうである。時間を見計らって、電話でもしてみることにしよう。
忙しいなどと言っておきながら、実際のところは、台風の影響でほとんど交通網はストップしている状況である。学園に行くこともできない訳ではないが、今日は授業はないので大人しく自宅待機だ。いつも通りである。だからこそ、こういう時にはイラストレーターの仕事をしなければならないのが俺の生活なのだ。
期末テストのことはまあいいとして、その後の予定が一つ。六月終りの美術の授業で、出水と石動とで話し合って立ち上がった期末テストの打ち上げの話は、クラスメイト達の同意もあって開催が決定している。
場所は寮の談話室だ。料理は適当に作ったり注文したりすればいいと言う事になっている。――注文、というのは、俺は寮にいる時間が長くないので一度も頼んだ事はないのであるが、あそこにはルームサービスというものが存在する。朝食とかを部屋へ運んできてくれるアレだ。掃除もしてくれるらしいが、身の回りのことはなるべく自分でやりたいので頼んでいない。普段から寮暮らしであるところの隣の堅城や他の先生は、そうしたサービスをたまに頼んでいるようで、俺も廊下で《メイドさん》とすれ違うことがある。それについては特に気にしないことにしている。寮自体の西洋建築がかった佇まいから、学園施設であることさえ除けば異質でも何でもない。談話室や浴場などの掃除も彼女たちが行っているのだから、俺は出会ったらすぐさま敬礼することを欠かさない。そうすると皆、やめてください、などといって笑うが、手際も良く素晴らしい身のこなしの者ばかりそろっているらしい。寮の担当で数人住み込んでいるようだ。それらのトップは果たして、寮母さんと呼ぶべきなのかメイド長と呼ぶべきなのか、どうでもいいことだが一体どちらが正式な職名なのだろう。
「ほんとに、うちのメイドとは大違いだよな」と、俺は自販機さんから乳酸菌飲料を取り出しながら呟いた。ちなみに微炭酸である。
『何の話でしょうか。私は別にメイドというわけではありませんので』聞こえるように言ったので、返事は返ってきたが、相変わらず仏頂面である。俺には割りとフレンドリーではあるが、基本的なところは全然変わらない。あまつさえ、ヘッドドレスを揺らして顔をあげ、見下すような視線を向けてくる。おいおい、俺はお客様ですよ。
「悪かったな。しかし何で、メイドのコスチュームなんだ、お前さんは」
『その場に相応しいとされるコスチュームを提供されております』
「あのな、ここはマンションだぞ」
『承知しております』
「そりゃホテルならまだしも、マンションにメイド。開発者の趣味とかじゃないのか、実際のところ」
『それについての発言は私には権限がないので、それ以上の追及はご遠慮ください』
「――にしたって、もう夏なんだから見た目だけでも涼しくしてはくれないものかね。アバターみたいに、コスチュームチェンジ機能とか備えていないのか」
自販機さんが身につけている長袖にロングスカートのレトロチックなメイド服は、ミニスカメイドと比べた場合は即答で俺も好むところではあるが、この時期は暑苦しい。逆に、寮の方たちのメイド服は膝下という丈で、それも少し長めのデザインだ。短すぎず長すぎず、たまにふわふわするところが良い。裏地にもレースがあしらわれ、それを見せると言う意味もあるのだろう。
『つまり私の肌を見たいと』
「どこで覚えるんだ、そういう返答返し」いや、教えている奴がいるんだろうが。というか、システム的には話している相手――こいつの場合は主に俺に似てくるっていう話なんじゃなかったか。いや、人を上から見るような真似はした覚えはないぞ。
『えっと、そうした機能もあるにはあります。しかし、現段階では、私には実装されておりません。利用者から、そのような要望がある、と私から打診させていただきますが、よろしいでしょうか』あるのか。
「うむ、そうだな、お願いしてみてくれ」
『私の肌を見たいというお客様がいますので、コスチューム変更機能の実装をお願いいたします。――以上の内容で送信しました』
「それ許可出ねえだろ」




