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魔法少女姿勢維持

「やー、今日の雨も酷いですよねー、せんせ。にしし」と、いつものように元気溌剌とした出水であるが、今日は状況が違う。

「こら出水、モデルが動くんじゃあない」と注意すれば、

「そうです、じっとなさっててくださいな」と、石動も続く。言われてしばらくは大人しくしていたが、

「うええ、何か急に首が痛くなってきたよー」とうめき声を上げる。

 このとおり、弱音を吐いている所の出水は、前回の授業で次は何を描くかという話になった際に、人をモデルにして描いてみようと提案した自身が――言い出しっぺのなんとやらで――モデル役をやらされる羽目になってしまった。

 そんなわけで、今は教室の中央で座ってもらっている。

 ……ある時期に一世を風靡した魔法少女アニメに出てきた、お決まりの小動物キャラクター――のぬいぐるみを小脇に抱えて。

 これはなかなかカオスな光景である。

 そのブツは、アニメ好きで知られている妻木聡美つまきさとみが持参した全くの私物ではあるが、出水のポージングに合わせて、クッションがわりにと提供された。……これ、大事なモノじゃあねえのかよ、と突っ込みたいところだったが、止めておいた。

 妻木は出水と同じように、といっても幾分大人しくはあるが一緒に囃し立て役をやったりと、姦しき女三人の一角である。残るもう一人は、音楽を選択している蜂須賀果実はちすかかさねであるからして、俺が直接三人まとめて相手をする機会は極々希なのである。有り難いことに。

 それはそれとして、モデル役の出水、この光景はまさにカオスと言うべきものに違いないだろうが、不思議と違和感はない。

 違和感がない、というのは魔法少女のお供の小動物を抱えているという事である。

 そのある意味自然な雰囲気を醸し出しているのは、良く言えば優雅にして豪奢、垢抜けているが、悪く言えばコスプレ臭い、わが学院の制服のデザインに起因するものだ。

 出水は仮にもお嬢様であるし、肩書きに相応しい一面を覗かせることもままあるが、大概は豪放磊落にして天真爛漫、短い丈のスカートで飛んだり跳ねたりはお茶のこさいさいなじゃじゃ馬である。

 普段の立ち居振舞いは、相応にだらしなく、気品など微塵も感じさせない。しかし、むしろそこがこいつの良いところであり、誰とも分け隔てなく接することが出来る利点だ。そしてやはり、ふざけていても相手を思いやる気持ちは常にあるようで、例の石動との悶着も実際お互いに楽しんでいるようなところもある。――それは面倒だからやめてほしいんだが。

「せんせ、これ左脇がつってきたよ……」

 これというのは、左手で耳にかかる髪の毛を掬い上げている姿勢を指す。お嬢様らしいポージングというよりは、やはりアニメ的な表現に従事している感があるが、右脇の小動物がそれに拍車をかけている。

 ――こっち見んな。

 何と無くだが、ブツから無機質な視線を感じるのだった。

 座ってはいるものの、あの姿勢を維持するのは、素人には難しい、というより拷問に近いものがあるだろう。特に出水にとっては。

 背筋はしっかり伸ばし、普段は胡座もおかまいなしな乙女の太ももはぴったりと閉じられている。

 あれは、辛い。慣れてなきゃあ意外と筋肉を使うのだ。時間は大体二十分くらいとしてあるが、今半分越えたところだ。……残り五分くらいは大目に見てやらんと、そのうち泣き出しそうである。

 しかし。

「綺麗だなぁ」こうしてモデルとして眺めてみて、出水が美しい娘であると言う事に気付かされる。普段から黙ってさえいれば、……全く、もう少しこのままで置いておきたい位である。

「にしし、せんせもようやく、私のミリキに気付きましたか」

「出水、もうちょい頑張れそうか」

「え、は、はぁい、なんとかぁ……」

 途端、生まれたての山羊みたいに震えだした。やっぱりダメだなこりゃ。

 皆に切り上げてもいいかと聞いてみると、大丈夫だとの旨を得たので、出水はめでたく解放された。

「ふぁ、やっとシャバに出られた気分っふ」

「オツトメ御苦労様です。あー、誰か出水にマッサージでもしてやったらどうかな」

「にししっ。それだったらせんせぇがしてくださいよぅ」気持ち悪い猫なで声である。

「あんだ、嫌じゃないなら構わんが。ほれ、左腕からでいいか」

「おろ、やっちゃうんですか。じゃあお願いしまっす」

 出水にマッサージをしてやってる間も、ヤツは俺を見つめている気がした。

 ――誰が契約するか。

「さて、まだ時間は有るんだ、今のうちにもう一人、この中から生け贄を決めてもらう。当然、出水は一回休みだ」と言ったとたん、残りはじゃんけん大会である。だが全員でやってたらいつまでもあいこで埒があかないぞ。

「へ、一回休みって、またやれって事ですか」

「当然だ」

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