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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
自動販売機で、愛は買えますか?
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自動販売機で、愛は買えますかscene3

 休みだなんだと浮かれていたら、時間というヤツはあっという間に過ぎてしまうものだ。俺の場合は、休みの日ぐらい寝かせてくれという心持にもならず、目覚ましを一発で止める。どうも二度寝というやつができない体質らしく、その快楽に酔い沈むことができない事が、残念でならない。

 と言うのは嘘だ。

 二度寝したいときにはするさ。

 ただ興が乗らないという一点で、睡眠の享楽を一蹴する。これは常人には真似できまい、ふとんの魔力とはよく言ったものだが、同様に炬燵の魔力だろうと俺は容赦なくキャンセルできる。これはもはや特殊能力と形容して然るべきではなかろうか。

 そんな戯れ事を並べながら顔を洗って鏡を見る。

 何の事はない、前日に寝過ぎたためもう身体が睡眠を望まないだけである。寝癖が酷かった。そうしていつもどおり部屋を後にし、ラウンジに出て、本当にいつもどおりの朝の日課を済まそうと思った。のだが。えっとこれは、どうしたことであろうか。

 まず目に飛び込んできた情景は、自販機さんの画面がついていないということ。ほかに見るべきところもあろうに、まず真っ先にそこを見てしまった。

 ここにくるということは則ち、あの無愛想なメイド服姿の売り子さんと雑談する事とイコール。通り道と言う側面もあるが、大義名分というものだ。ただ画面がついていないからといって、何か問題というわけじゃない。業者が商品の充填や入れ替えの作業を行うために、自販機を開いているのだ。

 ぱっかーん、と御開帳。内部は、なかなかいかめしいことになっている。

「あ、ちょっとすいません、これは新商品とか入るんですかね」

「え。あぁ、ここの人ですよね。すいません、すぐ充填しますので。新商品という訳でもありませんが、茶葉3倍緑茶が入りますよ、朝にどうですかね」と業者の兄ちゃんはてきぱきとした動作でコーラを詰め込みながら、答えた。実に無駄のない動作、仕事中に話しかけてはまずかろうかと一瞬間躊躇ったが、眺めていても失礼かとも思って結果話しかけた。実際これは正解だったようだ。

「うん、しかし、3倍はちょっと冒険し過ぎの感がある気がするね。こう言っては何ですが気になるので訊きます、こいつは充填するほど売れているんですかね。試験運用開始からまだやっと二週間てところだったと思いますが」などと、多少思い切った事も聞いてみる。

 彼は軽く笑うと「へぇ、それなりに」とだけ答えた。まったく、無駄のない。

 彼の所作は一挙手一投足流れ作業と言った具合、缶コーヒーもあっという間に――あのブラックのコーヒー、売れているのだろうか――充填作業は終了した。素人目にはわからない点検などをちょちょいと済ましたところで、彼は意外なものを取り出した。

「あれ、そのCD‐ROM。何かのデータですかね」

「へぇ、こいつのアップデートデータだそうで、おっと一応機密扱いなんだったか。そうですね、まぁ入ってからのお楽しみ、こいつを読み込ませてあたしの仕事は完了ってなこって」

「ふむ、……こいつ無愛想なんですけど、なんとかなりませんか」

「そいつはなんとも、自分らで育ててやってくださいって話ですよ」

「つまり誰かに似る、いや似てしまったと……このマンションにいる連中からすれば、誰の影響だと推理したり合点するのも、困難だな」

「えーと、そんなに愛想ない人たちなんですか。その点旦那も気さくではありますがね……ほ、インストール完了。では再起動かけますんで、あたしはこれで、またそのうち」最後まで無駄のない所作で、業者の兄ちゃんはエレベーターへと消えていった。

「気さくではありますが、か。言いたいことは察しがつく。俺も大概、愛想がないからな」

『おはようございます、あきっき様。新商品の茶葉3倍緑茶がわたくし的にイチオシでございますわ』

「おう。……が、言っておくが俺は、はなっから冒険する気はさらさらない。スポーツドリンクを貰うよ」

『いつも通りですね。つまらない男ですこと』こいつも全くいつも通り……なのか。

 どうだったろう、アップデートとやらは成功したらしいしな。

 百円と五十円を投入。

『早く釣りをお取りになってはどうかしら。忘れていかれては困ります、わたくしではなくあなたがですが』

 いや……こんなキャラだったか……あれ……


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