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June to July scene4

「いや、そんな、皆して黙らなくたって、いいんじゃあないですか」

 ただでさえ人数が少ないというのに、誰もこちらを見ようとはしなかった。どうなってる。

 お、饗庭は見てくれている、ちょっと安心した。

「解ってない。解ってないわせんせ。こないだ中間テストが終わったって所で、さっそくそんな話題を持ち出すなんて、気が早すぎるというかなんというか。残酷だとは思わないのかな、学生時代の気持ちをどこへやっちゃったのかな」出水が言うと、

「そ、そうですわね、今ひとたびはゆっくりしていたいところですわ」石動も同調した。お前ら、こんな所であっさり意見合うのかよ。だったらもっと仲良くしやがれっての。

「出水、そんな物は犬に喰わせた。――別にいいじゃないか、どんなテストが良いのか質問しているだけだよ、僕は」

 っと、やっぱり意識すると、僕って言ってしまうんだな。今までは僕って言おうとして、俺が出てたのに。どうも、ままならないものである。

「それはつまり」「どういうことですの」

 一番前に陣取ってるこの二人、やっぱり仲悪くなんかないんじゃないのか。

 ここまでが、割りにいつも通りの光景ではあるが、面倒くさい、やっぱりこいつら面倒くさい。

「ええとね、僕は今回、講師として初めて、君たちのペーパーテストを作る事を任されているんだ。音楽と美術って、けっこう先生居るんだけど、これが生徒に取っては面倒な事に担当クラス毎でテスト作っていい事になってる。ある程度、内容に共通性はあるけれど、まあ五〇パーセントくらいは、こちら、僕の裁量で決められる。そ、こ、で、だ」

 聞いてる生徒たちの目の色が変わった。こういう反応は、話していて楽しい。良い傾向ではないだろうか。

「テスト難しくして良いかな」

「空気読め」「非道い」

「許して下さい」「横暴」

「鬼」「変態」なんという面罵の嵐。

「……と言うのは、冗談だ。そして先生は変態じゃねえ。廊下に立ちたいのは誰だ、名を名乗れ、コラ」

「すごいよせんせ、今日のせんせノリノリだよ」そうです、誰かさんのお陰です。

「い、いくら先生でも、言っていい冗談と悪い冗談がありますわ」

 で、さきほどの怒号の嵐の中で一人、「許して下さい」と、嘆願していたのが実は石動なのだが、意外にもこういうプレッシャーに弱いのだろうか。面白いヤツだ。

「実を言うと今日は、僕はあまり授業を行う気はありません。適当に雑談したいと思います、というと語弊があるので、レクリエーションに充てます。僕がまだ講師として三ヶ月にも満たない経験からして、ここらで生徒に意見を求めたいと思います、まあいつも通りですね。作業したい人は作業してて、個別で呼んでくれれば対応するからお気軽に」ちょっとギャグのつもりだったが段々、言ってて空しくなって来た。新米ですから仕方ない。

「でも先生、たまに世界史や日本史のテスト範囲と絡めた美術史を教えたりしてくれたじゃありませんか、あれもテストに入るんですか」

「良い質問だ御厨さん。あれは、僕が個人的に伝え聞いたり、手持ち無沙汰で調べた雑学を即興で解説しているだけなので、全くの雑談だ。よって、テストには出さない。話した本人も何を話したんだか憶えが無いレベルだ、ごめんな」

「いえ、参考になりましたし、世界史で役に立ちましたよ。ありがとうございました」本心から言っている。なんて素直な子だろうか。

「そ、そうか。こちらこそありがとう、話した甲斐があったって物だね」本当に憶えが無かった。二年の世界史って何をやるんだっけ。宗教改革とかそう言う感じだよな。何が役に立ったのだろう。無責任すぎたか、反省する事にする。あ、ギルドとかそういう話だったかな。

「雑談してるときに、適当にテストに出るぞーって言ってれば良かったのに」

「そんな余計な手間をかけさせるわけにはいかん。で、まぁテストの形式としては、メインが適語挿入というカタチになると思う」

「うー、そんな事言われてもー」

「安心しろって、半分はそれでいいんだから。要は穴埋め問題だよ、ただの。君らなら昼飯前だろうと思う。ちゃっちゃと埋めてくれれば、それでいい」

「旦那、そいつは過大評価ですぜ」

 とりあえず、この美術は今は前回から引き続いて適当に手頃な物を、例えば筆箱とかをデッサンしてもらっているだけなので、作業している人以外は俺と雑談というわけだ。

 テストに出るみたいな所は普通に板書しているので、自習時間に等しい実習時間は、こんな感じで平気なのである。実際には提出物に重きを置いている授業であるし、出水なんぞはアレでなかなか絵が上手い。

「で、ここでみんなに聞いておきたいのは、二五点分ぐらい使って《何か絵を描け》って問題を出しても大丈夫か、って話なんだけれど」

「面白い、けど同時に、かなり凶悪だね、せんせって」

 ふむ。出水は乗ってくれるだろうからいいとしても、他の生徒はあっけらかんとしている、ちょっと解りにくかっただろうか。

「わかった、配点がでかすぎるってのは考慮するけども。いいか、指示する所は有るにしても、答案用紙に思いっきり落書き出来て、おまけに点数貰えるって考えれば安いもんだろ。そもそも、そういう事されるのがいやだったら、この授業には出ていない。違うかい」

 こいつは、割と正論だったんじゃないか。

 これが以前から、テストでやってみようと考えてた事だった。もっとも、俺がこのテストを食らった時には事前説明なんて無かったから、肝を冷やした。

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