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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
先生と自販機さんと
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愛想トニック

 俺が担当している授業は今のところ、火曜の四時間目と木曜の五時間目である。これは両方ともに同じクラスだ。二年F組。だから実質、学院では週二日の二コマしか働いていないことになる。まだ最初の段階だから、これから増えることもあるかもしれないが、夏の間は何か新しいことを始めるにはいい季節ではないかと思う。

 それに、校内イベントも調べればたくさんあるのではないだろうか。しばらく寮で過ごすのも悪くないかもしれない。そうすると、自販機さんを利用する機会が減ってしまう事になるのだが。

 とりあえず、本日は昨日とは打って変わって、からりとした晴天で、良い陽気である。こんな日には、外に出て何か運動をするのも良いかもしれない。まだ熱中症とかを引き起こす気温ではないし、炎天下といっても比較的すごしやすいはずだ。

 いつもだったら、水曜日には授業はないのだから、インドアで仕事をしているところだが。

 堅城じゃあないが、思うところあってジャージに着替えて、部屋を出る。

 まだ昼前だ。といってこのマンション、誰かが顔を出しているわけでもないから気にする必要はない、そもそも田辺章太郎以外に、見知った相手はいないのであるが。

「よう」

『おはようございます、秋聞様』

 先日は認識機能がどうのこうの言っていた気がする。章太郎の一件、ということにしておこう。その件とは違って、ジャージ姿の俺を見て自販機がうろたえることはなかった、やはり奴の扱いだけ杜撰なのだろうか。俺も奴に対しては大概だが、客商売なのにひどい欠陥。いや、誰にでも間違いはあるだろうし、こいつは章太郎には特に関心がないのだろう、御得意様ではなく通行人に過ぎないということだ。

 そんなことを言っていたら、はなからこの自販機の性格設定や人格が間違っているという話だ。それが出たらおしまいである。

「ちょっと外に出てこようと思ってな。スポーツドリンクもらうぞ」

『ただいまキャンペーン中ですので、そちらの商品は一四〇円での提供となっておりますが、よろしいでしょうか』と、言われるなり小銭を投入する手を止め改めて自販機の画面を見ると、スポーツドリンクの表示は確かに一四〇円だった。ふむ、十円玉を数えないで放り込んだために、十円余計に入れてしまった。

「よろしいです。いただきますよ」普通に十円が戻って来た。内心帰ってこないんじゃあないかという気がしていた。

『ご利用ありがとうございました』

「なあ」

『なんでしょうか』そう言いながら肩にかかった髪を払い、めんどくさそうな表情で上目遣いに俺を見る自販機さん。上目遣い、と言えば聞こえは良いが可愛らしい仕草ではなく、これは睨みを利かせていると言った方が正しいような気がする。何という態度だ。

「存在すら忘れてたんだが例のスロット、いやルーレットはどうした。あたりが出たらもう一本ての」

『ハッ』

「なにそれ、驚いてるのか。余計なこと思い出させやがって、みたいな」

『そのようなことは決して。ただそのキャンペーンはあの一日限りで終了いたしました。試験的なものだったようで。連絡を怠って申し訳ありませんでした』

「いや、忘れてたからいいんだけども。そんな報告なくても誰も損はしてないだろうし」

『痛み入ります、そう言って頂けると助かります』

「なんかマジでやらかしたみたいな顔してるけども、気にするなよ、過ぎたことだからな」

『はい』

「んじゃ行ってくるか」

『よい一日を』と、出てきたまではいいのだが、ジャージ姿でバス停にたどり着いてみたあたりから、さすがに違和感を感じてきた。

 いい年して平日の昼間にジャージでバスに乗ると、なかなか恥ずかしさがこみ上げてくるものだ。平日の昼間。朝なら学生たちに混じれたが、これがきつい。

 学園のほうから教師に支給されているシックな赤ジャージ、色違いは購買部で売っているらしい。教師専用ジャージなので生徒のモノとデザインが違う。ちなみに体操着はブルマではない。コスプレ臭いのは制服の方だけである。このジャージ、自分に似合っているかといえば、おそらくノーであろう。今後ブルー辺りの購入を検討したほうが良いかもしれない。

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