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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
先生と自販機さんと
17/92

待機と対話

 何が節電です、だ。

 つまりこいつは、人があまり通らない時間は自主的に機能を一部停止しているということだ。どっかで暇を見つけては休んでいるのかもしれない。この筐体の中の、どこかで。それは比喩的な表現だが実際の所は画面を消していると言うだけである。少しロマンの有る事を言ってみたかった。

 全く悪びれず、つーんとしている自販機さん、確かに人が通る時間帯を記録して一時的な機能停止を行うことで、効果的に電力の消費を抑えることができるだろう、こういった実用性もオートメーションインテリジェンスの賜物だ。

 まったく見た目ばかりの機能ではないと言うことだ、自販機の態度がけしからんから悪く見えるが実際、感心するところなんだろう。

 そんなことを考えていると、同様に自販機を眺めていた章太郎はこちらに向き直って、少しばかり神妙な面持ちになった。

「どうかしたか」

「秋聞さんって、この辺の生まれなんですか。僕はもう少し離れた街から引っ越してきたんですけど」自販機さんとは全然関係ない質問だった。

「ううん、この辺ではないな。だいぶ遠い。なぜそんなことを聞く」少しカフェインをキメたい気分になってきたので、ブラック缶コーヒーを買った。相変わらずの値段だった。

『ご利用ありがとうございました』

「しゃべってばかりでは何だしな」買ってやらねばただ無駄に電力を食わせることになるだけだ。

 ……あれ、それでは、機能停止をしている時間と無駄に喋ってる時間で、もろもろ相殺出来ているのだろうか、いや、きっと出来ているのだろう。そのためのおしゃべり、コミュニケーションオートメーションインテリジェンス機能だ。それは販促に繋がるのだからして。いや、どうだろうか。

 俺はそれ以上考えるのをやめた。

「えっと、秋聞さんて普段何してる人なんですか」

「ふむ。実は、悪い魔女に呪いをかけられてしまったから普段は昼間ずっと、カラスの姿で街を飛び回っているんだ」

「気になってたから思い切って聞いてみたのになんたる言い草ですかそれは」

「はぁ、いくらご近所とはいえ、そう簡単になかよしこよしって柄じゃあないんでね」そう言いながら、俺はなるべく訝った素振りで章太郎をねめつけてやった。少し意地悪し過ぎだろうか。

「そ、そんなに警戒するものですか」

「なんとなくだ。時にお前さんこそ、ご両親はどうしたんだ。高校生が一人でこんなところに住んでいるわけでもないだろうに」どこのギャルゲーだって話だ――あ、しまった。聞き方がまずいじゃあないか。俺のあほう、地雷かもしれんだろうに。

「あー、今は父さんが海外に転勤してます、母さんもくっついていっちゃったんで、夏ごろじゃないと帰ってこないと思います」それなんてエロゲ、いや、ギャルゲ。うん、このネタはわざわざ言い直す意味はない。しかし心配して損したなこれは。

 田辺家はどういう家庭なのだろう。なんだか同様に興味がわいてしまった――こちらは何も教えていないのに、正太郎はほいほい答えてくれる。フェアじゃないという気もしてきた。しかし仮にも俺は教員、こいつは他校に通う身だろうと生徒は生徒であるわけだしな。

 ――よし。ひとつ思い出したことを聞いてみるとしようじゃないか。

「そうそう、應仙は確か夏には講習とかやってたろ、おおまかな進路別にみっちりとしたやつ、予備校みたいな」

「あ、そっすね、ありますあります。僕はまだ、そういう事を考えるような時期でも、ありませんけど。別になめてるとかじゃないですよ」

「そうは思わないさ」

「ですか。でもよくご存知ですね、そんなこと」

「一応、これから先に働き口を増やすことも考えてみようかと、な。夏の講習で教えるようなら、應仙も選択肢として悪くはないだろう」

「教え……る。……って、え、えぇっと。秋聞さんって先生、なん、ですか」

「そうだとすればナニかね、田辺くん」

「きゃぁぁあぁあぁぁっ、ほ、ほほほ本当に應仙の募集に乗ろうって思ってらっしゃいますかっ」

「うるっせーよ。まぁ俺が担当する美術はどう考えたって特殊だろうからな、採用してもらえっかどうか」――タイミング的に突っ込めなかったが、何なんだ今の声は。どこから出したのだろう。こいつ、恐い。

 で、夏の講習というやつの講師募集は毎年かけてるはずだ、なにせ夏休みは勤務外時間、非常勤講師たちは好き勝手にすごし、教えたいやつはさらに別料金で講習を行う、そんな感じだったろうか、ともかく記憶ではそういう具合になっているはずだ。

 ただ、美術担当が何をできるというのか、当然そういう進路を目指す生徒たちの指導にあたるわけだが、ケースバイケースだろうな、募集があるかどうかはその時々だ。

 章太郎が部屋に帰っていくのを、自販機さんは相変わらずジト目で見送っていた。一度見ても忘れているのかもしれない。

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