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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
梅雨入りディゾルブ
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梅雨入りディゾルブscene7

 しかし我ながら、全くもって不可解な光景である。

「と、まぁ雨が降ったおかげでちょっとひどい一日だったわけだ」

『はぁ』

「天気予報も当てにならないこともあるけれど、速報を逐一聞いてたらどんな空模様になるかは、自分で判断できるくらいでなければいけないのかもしれないな」

 自宅に帰って、この日に抱えていた案件を手早く、かつ、懇切丁寧に仕上げてクライアントに送った。締め切りは今日ではないが、早めに仕上げて渡しておけば、修正案などが折り返されてきたときに対応しやすいのと、――あとは個人的な理由なので割愛。

 そういった訳で一服がてら、自販機さんの前で雑談しているのであった。雨が降ってひどい目にあった、というなんのこともない話だったが、聞かせてやるとちゃんと聞いているようなので、そのまま続けた。

 こんなに長く一方的に話しかけることは初めてのことだ。いつも以上に、周りには気を配っているが、やはり、不可解な光景である。自分の挙動を俯瞰してみてみろ、まさに変質者のそれである。あまりにも滑稽。

 しかし、自動販売機の画面に映る3Dモデルは、日増しにその魅力を増大させている気がしてならない。よくモデリングされている。もしかして知らない間に、またあのあんちゃんが来て、アップデートでもしていったのかもしれない。俺の話を首をかしげ聞いている仕草は、何とも愛らしい。

 例えばだが、こいつを実際撫でられたら、どんなに癒されることか。

『よくわかりました。お話ししていただきありがとうございました。かったるかったです』などと悪態をつく。

 ちゃんと理解したのだろうか。

 それが気になる。

「ちゃんと聞いていたのかね」

『それくらいなら、わかります』

「そうか」『はい』

「じゃあなんの話だったか言ってみるか」

『今日は雨が降って困った』

「よくできました」『どうも』

 これは……いっそう実によくできているじゃあないか。実験的に長話をしてみたものの、実際ちゃんと聞いて理解してくれたようだ。見事なプログラムだ。最近の技術ならこれくらいはあたりまえかもしれないが、こんな自動販売機に転用した開発者の脳みそは相当におめでたいことになっているらしい。言うまでもなく褒め言葉だ。

 こういうコミュニケーションゲームとか流行ったもんな、一大ムーブメント。技術の流用なのか、一から組み上げたのか……センセーショナルな話題になりそうなものだが。

 あのゲームとか、音楽会のヒットチャートを賑わす電子の歌姫とか、即売会でもジャンルバブル状態だったとか……行ったことはないのでわからないが、懇意の同業者が何冊か薄い本と呼ばれる所の同人誌を送って寄越したりする。もちろん、勉強のためによくよく見る。……うん、これは別にどうでもいい話だった。

「明日の天気はどうだろう」

『この地域周辺では日中は晴れます。それ以外は曇りだそうです』と言うことは雨が降ってもおかしくない事を暗に示している。

「曇りの日は傘を持とう、か……」

「あー、今日の昼は凄い雨でしたからね」

「あぁ、この時期にあんなのをもらうとは――ってお前、――……」

『――……』

「いや、二人して、なんですか一体……」

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