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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
梅雨入りディゾルブ
12/92

梅雨入りディゾルブscene5

「先生って何かミステリアスなんですよね。なんて言うか、影があるっていうか、何か若いのにすごいなーって」

「僕に影がある、というのは、髪が長めだからそう見えるだけなんじゃないかな。それなら、そろそろ切った方が良いかもしれないな」

「えー駄目ですよー、先生の髪はそれくらいが良いんです。撥ねてて可愛いし」

 可愛いって何だ。

「まあ、自分でもあまり短くない方が良いとは思ってる。こいつは癖毛なんだよ。昔から撥ねてるんだよ」

「でも、切った方が良いかもしれないと」

「そう。影があるっていうのは第一印象としてはあまり歓迎出来ないもんだからね」

「そんな事言ったって、秋聞君は普段から、何を考えているか解らないような所があるじゃない。だからミステリアスなんて思われるんだよ」

 ……これはいったいどういうわけか。

 談話室へ入りお茶会に参加した途端、お嬢様たちは、わいわいがやがや、俺はあっという間にソファに、それもお誕生日席へと誘致され囲まれてしまった。熱烈な歓迎っぷりである。

 普段自分の事ではこんなに喋らない俺だが、律儀にも質問にはいちいち答えてしまう。流されやすいというのは、どこまで行っても流されやすいということか。

 そもそもこの娘たちは堅城が担任のクラス――この学園のクラスは二十人前後と生徒の少ない小学校みたいな少人数制――であり、この時間は四限上がりでホームルームの後にたまにお茶会をするのが楽しみだと言う。

 何と気楽な事か。友達感覚とやらも大概にしろと言いたい。

 しかも今日は、最初に雨が降り出す前にちゃちゃっと授業を切り上げる形で寮に逃げて来て、そのまま談話室で授業の続きをしていたのだと言う。まさかそんな馬鹿な事がと思ったが、どうやら本当らしい、そして当の堅城は悪びれもしていない。

 確かに、一概にはそれが悪いとは言えないが、俺からしたらこの先輩教師の授業のやりかたはなかなか破天荒に見える。

 だがこうして、生徒たちに囲まれて話している様子から、生徒に人気なのも解る気がする。談話室での授業も真面目にやっていたようで、早めに切り上げて遊んでいたというわけではないとの事。戦国武将について雄弁に語る先輩教師の横顔を見ながら、思わず微笑ましくなってきて。

「おー、秋聞先生が笑ってる」「まぁ、なんて優しい微笑みなんでしょう」

「涼香さんに気があるんじゃないかしら」「そういうんじゃないだろー」

 好き勝手言いやがって。横目で睨みつけると彼女らは苦笑いをしながらカップをすする。なんでそういう風に受け取るんだい、君たちは。

 だが、ここは女子校と言う事を鑑みれば気持ちは解る気はするが。

 男が女子校に入学、というストーリーも見る分には面白いが、実際ありえんわな。あったとしても、死んでしまうわ。どんな理由にしろ、精神が保たんだろう。心労絶え間無し。

「そういえば、秋聞くん」

「はい」

「今日は早く帰りたいんだ、とか言ってなかったっけ」

「あ」

「いいの、帰らなくて」

「……帰る」

「「「えええええっっっ」」」

「えっと、ごめん秋聞君、なんだかこれ以上ないってくらい楽しそうだったから。言い出しにくくて」

「わかってます、自分でも忘れてたから、気にしませんよ」

 そうか、俺は楽しそうだったのか。そう見えてしまうんだなぁ。でも実際楽しかった、確かに楽しんでしまった。

「先生、もうちょっとお話しましょうよ、もうちょっとだけ」

「こういう機会ってなかなかありませんから」

 ええい、引き留めようとしてくれるな。俺には仕事があるのだ。それも、締め切りのある仕事なのだよ。何をしているかは、大っぴらには言えないのだけれど。

「ごめんごめん、どうしても外せない用事なんだ」

「それじゃ仕方ないよね。講師の先生って他所で仕事してる人も多いからなぁ」

「そう言うわけです。ここで仕事してる限り、まず喰いっぱぐれる事は無いけれど」

「じゃあねー先生。今度は美術選択しますよー」

「あはは、僕は厳しいぞ。特に《提出期限》にはな」渾身のドヤ顔を決めてやった。

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