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ホームサイドガール  作者: 狐塚仰麗(引退)
自動販売機で、愛は買えますか?
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自動販売機で、愛は買えますかscene1

 この国の自販機にAIオペレーションシステムが導入されて、少し経った頃の事になる。と言っても、そんな大ゴトではなく、局所的にだけれど。

 近年、といって思い浮かべるのは、二〇一〇年代初頭辺りだっただろうか。その頃から、十数年来、具体的な数字を記すのはちょっと避けるとして、そこのところで急速に、機械に話しかけ反応が返ってきたり、命令に従ってファンクションを起動してくれる――と言うようなシステムが、流行ったのである。

 それは特に、日常生活に欠かせないモバイル端末機器のそれらに、何を血迷ったか、早急に導入されていった。

 冷たい機械。

 ……使えば熱を発するが、そういう実際的な例えではない。

 温かみが、温もりがあるか否かという話だ、機械に。

 否、であると思う。

 所詮、人の手により組み上げられたシステム。故に必然性しかそこにはない。つまりは偶然でさえも、――或いはこういう事も起こりうるかも知れない――そうした可能性のうちから取捨選択されて残った、意図された分岐の一端でしかないものだ。

 そこに幻想を抱くか否か。

 二次元を愛するか否か、という問題に近いものが有る。

 さて、これらの流行りを一時のものとするわけにはいかなかったのか、新たなる産業基盤として機械と会話するという事の価値観、特に世間体からの印象に、改革染みた変容が求められたわけだ。

 ハンズフリー通話をするビジネスマンたちが、周囲から多少なりとも奇異の目で見られていた頃の面影はそこには無く。

 町行く人々は手のひらに乗った端末に、優しくささやく。

 相手は機械。

 しかし、或いは。

 その事務的な反応に、人々は情欲を掻き立てられたのかもしれない。

 なにしろ、もとよりこの国の人々は、起源をアニミズムという古代に持ち、機械にも心が宿ると言った幻想信仰にもことのほか寛容である。そういったお話にはお涙ちょうだいがツキモノだ。

 多くはとある――未来から現れた某猫型の――ロボットにより、機械へのイメージが一定の水準を越えたものとなっているからだ。

 工場で稼働する産業ロボットにすら、何かのフェティシズム的信仰があるほどだ。

 廃墟、工場、機械。この國の人々には何かと愛すべき無機物が多いこと。

 殊ロボットという技術においては、情熱、信念、誇り、そうした矜持においてこの國の右に出るものはおそらくはあるまい。

 しかしこの時代でも未だに、人型ロボットという存在には少しばかり技術が追い付いていない。というのは人工皮膚とか、そう言った医療系統の技術がロボットの技術と競合していなかったり(義手義足を進歩させたロボアームとかは、金があれば何とかなるわけだが)、人工知能の発展がまだ途上という意味である。技術が追い付いていない、金があればなんとかなる、と言うのは、そうしたなんでも言うことを聞くメイドロボ、セクサロイドなど夢のまた夢の彼方というような研究に、わざわざ自費を投じる――出資するような好事家がいないことにある。。

 聞くところによれば、そういう類いの研究を、個人的にやっているような中小企業もあるようだが、夢は夢としておこうじゃないか。

 そして確実に時代は変わっている。

 ここで話は変わるが。

 お偉い学者が、詳しい事について研究している――詳説は省くが、二次元世界文化は我が國において確実に一つの時代潮流を形成するとまでに至った。

 文化が時代となる。この表現に、なにもおかしい事はないだろう。

 俺にとっての意識改革というは、一台の自販機にあった。

 例に漏れず、AIオペレーションに合わせた最新鋭のバーチャル3Dモデル――それもいかにも日本的な――が、飲み物の購入をオペレーションしてくれる、まさに最新鋭の最新鋭。

 まるでドライブスルーかのような対応で飲料水を提供してくれるという自動販売機が、首都圏のごくごく一部に試験的に導入されたのだ。

 ……ごくごく、って、いや、まだ何も飲んでませんが。

『おはようございます。何か飲みますか』

 まだそれだけなら、先に述べたように、今の時代どこにだってあるような技術なんじゃなかろうかって具合のモノであって、驚くべき事は今さらなきに等しい。

 さっきは割りとよいしょしたが、その実あまり大したことはないかもしれない、そんな気がしてきた。

 ――現実逃避。言い訳に使える。

 ……どうだろうか。

 或いは我々のような《異端者》は、それゆえに誰よりも現実を知るものであるかもしれない。

 殊更現実、リアルというものに敏感だからだ。一昔前、ハヤリスタリは有っても、最先端の3Dの技術も行き着くところは官能の追求であった。あれにあまり流行られると、業界に身を置いている以上、絵柄に特に目立った個性を持たない俺としては、少し困るんだが――

『あのう、先ほどから黙りこくってらっしゃいますが、どうかなさったのでしょうか』

 あり得ない、あるわけない。

 存在しないからこそ美しい。

 技術者の目指すところは、つまりそれの追求だ。

 その魅力を知るものはあらゆる信仰を超越することができる。

『あ、コーラですか。結局いつも通りの選択ですね。変化のない日常です。あ、すいません、ただいま五十円ダマを切らしておりますので百円を投入なさいますと釣り銭が面倒なことになります、出来れば五十円ダマをお使いくださいませ』

「っるせー、慈善事業じゃねーんですよ」――そう、俺の視点は間違いなくコーラを焦点に定めていた。そして右手では先ほどから、二百円を玩んでいた。

 見えているのだ。

 いつも一通り、こいつが指し示すオススメ商品とやらを眺め、悩んだ挙げ句にコーラを買う、チキンな俺。ちゃあんと覚えられているわけで。 

『何ですかその態度は。せっかく、元気無さそうだから《ベッドブル》をオススメしてさしあげたというのに。不健康ですね』

「朝からんなもん飲んで何を頑張るんだよ」

『私に言わせる気ですか』

「なぁ、お前だってあんまり生意気な態度とってると愛想つかされるぞ」

『余計なお世話です。あ、五十円ダマ入りました、どうもお買い上げありがとうございます』

「どういたしまして。……何だ、癪にでも触れたのか」

『いえ、間違っても他のお客様に愛想つかされる事はありませんので。気にも留めておりません』「あ、そう」――他のお客様……ねぇ。

『まだ何かありますか。用がないならとっとと行きやがれです』

「……」

『……お仕事頑張ってくださいませ』

「……おう」

 まったく、朝から『自販機』相手に何をやっているのだろう。というのが我に返るとでもいったところか、しかしこれがさしあたっての俺の日常になりつつあった。それも、ちょっとばかし残念な。

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