【続編・中】「婚約破棄のご挨拶にしては、芝居がかっていますわ」そう言い放った私は今更何を言われても聞き入れません!〜証拠もなく捨てられた令嬢、冷酷皇帝の契約妻になって見返します!?〜
「......イザベラ様、本日の紅茶にございます」
差し出された茶器を受け取ろうとした瞬間、わたくしは違和感に気づいた。......いつもの侍女ではない、見慣れぬ女官が茶を運んできたのである。
「あら.......あなた、初めて見る顔ですわね?」
「.......し、新入りにございます」
「そう......ちなみに、この紅茶の茶葉はどちらのものかしら?」
「え、それは、その……」
答えに詰まる様子に、わたくしは静かに茶器を脇へと置いた。宮廷に長く仕える者ならば、茶葉の産地くらい即答できて当然だ。しどろもどろな返答こそが、何よりの証拠である。
「もう一つ伺いますけれど、この茶器の紋様......皇后専用の意匠と一般の来客用、見分けはつきまして?」
「……存じません」
「あら、随分と正直でいらっしゃること。それだけ知らないことが多いと、逆に清々しいですわね」
軽口を叩きながらも、わたくしは護衛の騎士に目配せを送った。心得た様子で、女官はすぐさま取り押さえられる。
「陛下、少々お耳に入れたいことがございますの」
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「――この紅茶、調べさせてみたところ、微量の毒物が混入していたそうだ」
執務室でヴィクター陛下から告げられた報告に、わたくしは小さく頷いた.......予想通りである。
「侵入した女官の背後関係は?」
「保守派の重鎮、ラインハルト公爵の屋敷に出入りしていた記録がある。まさか、公爵自らが黒幕とは考えたくないが......」
「あら、随分と甘くていらっしゃること。外国出身の皇后を快く思わない方々がいることくらい、わたくしも承知しておりますわよ?」
「そなたは、存外肝が据わっているな......」
「毒殺未遂程度で怯んでいては、皇后は務まりませんもの」
さらりと言ってのけるわたくしに、ヴィクター陛下は呆れと感心の入り混じった顔をした。
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翌日、社交界の夜会でわたくしを待っていたのは、ラインハルト公爵の娘、オルガによる思いがけない一幕だった。
「皆様、聞いてくださいませ.....! 皇后陛下は、亡き前皇后様の遺品を無断で持ち出し、質に入れていたという証拠がございますの!」
会場がざわめく中、オルガは勝ち誇った顔で証拠らしき書類を掲げた。まるでどこかで見たことのある光景だと、わたくしは思わず苦笑した。
「あら、懐かしい構図ですこと。証拠もなく人を断罪しようとする場面には、随分と縁がございますのね」
「証拠ならここに! 質屋の記録もございますわ!」
「その質屋の記録、発行日をよくご覧になって? わたくしがこの国に嫁いでくる、半年も前の日付ですけれど......」
指摘された瞬間、オルガの顔から血の気が引いた。
「な、なぜそれを……!?」
「証拠を捏造なさるなら、もう少し辻褄を合わせるべきでしてよ。それとも、わたくしが半年前から未来を予知して質入れしていたとでも?」
「そ、それは……侍女が間違えて古い記録を持ってきただけで……!」
「あら、都合の悪い時ほど、侍女のせいになさるのですわね。先ほどまでの勢いはどちらへ行かれましたの?」
会場から失笑が漏れ始める。断罪のつもりで開いた場が、あっという間にオルガ自身の失態を晒す舞台に変わっていた。
「お、お父様が、皇后陛下は必ず化けの皮が剥がれると仰っていたから、わたくしはただ――」
「あら、随分と分かりやすい自白をなさいましたわね?」
にっこりと微笑んでやると、オルガはとうとう言葉を失った。父親の名を出したことで、自らラインハルト公爵の関与を証明してしまったのである。親子揃って詰めの甘さは共通しているらしい。
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事態が急変したのは、その夜のことだった。
「陛下、お逃げください......!!!」
私室に踏み込んできた覆面の男の刃が、ヴィクター陛下に向けて振り下ろされる。わたくしが息を呑んだ瞬間、陛下は身を翻して刺客の腕を掴み、そのまま床に組み伏せた。
「――随分と直接的な手段に出たものだな」
「陛下……!?」
「イザベラ、下がっていろ」
「いいえ、下がりませんわ。証拠を残すために、この場は見届けさせていただきますもの」
「こんな時まで冷静だな、そなたは......」
「取り乱したところで、刺客が消えてくれるわけではございませんもの。それより、後ろの窓、もう一人潜んでいるようですけれど」
さらりと告げたわたくしの言葉に、陛下は即座に反応した。物陰から飛び出そうとしていたもう一人の刺客が、陛下の一撃であっさりと沈められる。
「.......よく気づいたな」
「観察眼だけは、それなりに鍛えておりますの。前世――もとい、これまでの人生で色々ございましたので」
咄嗟に取り繕った物言いに、陛下は片眉を上げたが、深くは追及してこなかった。刺客の懐から証拠となる書状を回収しながら、わたくしは冷静に指示を飛ばした。衛兵たちが駆けつけ、あっという間に残りの刺客たちも取り押さえられる。
「殿下、腕の傷は......?」
「かすり傷だ。それより、そなたが冷静で助かった」
「陛下が優秀な武人でいらっしゃって助かりましたわ。わたくし、剣の心得はございませんもの」
軽口を叩き合う二人を見て、駆けつけた衛兵たちが呆気に取られた顔をしていた。命の危険が去った直後だというのに、随分と余裕のある皇帝夫妻である。
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翌朝、証拠が出揃った評議会の場でラインハルト公爵は完全に言い逃れができない状況に追い詰められていた。刺客の自白、娘オルガが証言した父の関与、そして捏造書類の発行日という決定的な矛盾。
「公爵、これでもまだ関与を否定なさいますの?」
わたくしの問いに、公爵は蒼白な顔で押し黙るしかなかった。
「い、いや、これは全て娘が勝手に……!」
「あら、娘御を証拠隠滅に使おうとなさるとは、随分と一貫性のないお父上ですこと。オルガ様、今のお言葉、聞いていらしたかしら」
「お、お父様……わたくしを、見捨てるおつもりですの……!?」
親子で責任を押し付け合う醜態に、評議会の面々が一斉に顔をしかめた。断罪する側だったはずの二人が、今や自らの保身のために互いを売り合っている。因果応報とは、実によくできた言葉である。
「国家の中枢を担う者が、皇后暗殺を企てるとは......極刑に処されても文句は言えぬところだが」
ヴィクター陛下の重々しい宣告に、公爵とオルガは揃って崩れ落ちた。かつての婚約破棄の再現のような光景に、わたくしはどこか既視感を覚えながら小さく笑った。
「――というわけで、婚約破棄も断罪も随分と縁のある人生を送っておりますわね、わたくし」
「その割には.......随分と楽しそうだが?」
「あら、悪くない人生ですもの? それにーーー」
「......それに?」
「今度は、証拠もなく断罪される側ではなく、証拠を揃えて断罪する側に回れましたもの。存外、こちらの方が性に合っているのかもしれませんわ?」
「そなたが敵に回らずに済んで、心底安堵している」
「あら、陛下を敵に回すつもりなど、毛頭ございませんわよ?もっとも、味方でいる限りは、随分と頼りがいのある協力者だと自負しておりますけれど」
「........その自負に異論はないな」
にっこりと笑うわたくしに、ヴィクター陛下は苦笑しながらも、どこか誇らしげな顔をしていた。度重なる陰謀を乗り越えるたびに、二人の間の信頼は確かな絆へと育ちつつあるようだった。
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度重なる陰謀を乗り越えたイザベラとヴィクター陛下、次はいよいよ二人の関係を正式なものにする章に入ります!! よろしければ作者フォローもしていただけると、幸いです!!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




