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なんという屈辱!半神メトゥスの愛しきやり直し人生  作者: ジュレヌク


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第七話 我は、アヤツに会いたいのじゃ!

突然だが、メトゥスには会いたい精霊がいる。


十四歳でやっと魔力に目覚めた前世において、初めて契約した低位精霊だ。


その名を、ウェントゥス。


風の精霊だ。



『私の名前は、ウェントゥス』


『我の名は、メトゥス』


『ふふふ、似たお名前、嬉しいです』



初めて精霊と契約した時、メトゥスは、まだ、神力により魔力を相殺され、大した力を持っていなかった。


彼女が独自に編み出した魔素吸引による魔力量増加が完成するのは、ウェントゥスと出会った三年後のこと。


それなのに、自ら寄ってきてくれて、



『契約しましょう』



と声を掛けてくれたウェントゥスは、先見の明があったのかもしれない。


そして、彼女もまた、聖霊の中では力不足と爪弾きにされる存在だった。。


ただ微風を生むことしかできない彼女は、微々たる魔力しか使えないメトゥスに、一生懸命仕えてくれた。


夏の暑い日には、扇ぐよりも弱い風だが止めることなく癒してくれた。


火が点きにくい時も、フーフーと規則的に風を送り、焚き火を燃え上がらせてくれた。


あの時、ウェントゥスが居なければ、メトゥスは自ら命を絶っていたかもしれない。


メトゥスのことが大好きだったウェントゥス。


ウェントゥスのことが大好きだったメトゥス。


二人は、二人で一人の存在であり、切り離せない魂の友であった。


ウェントゥスなら、何処に居ようと自分を見つけてくれるとメトゥスは信じている。


それなのに、今世では、未だに姿が見えない。


と言うよりも、老精霊オルドが居ると、他の精霊が寄ってこないのだ。


確かに、ハンカチの件といい、与える魔力量に対してオルドの付与魔法は、費用対効果が高すぎる。


持っているだけで傷の治りが早いハンカチなど、冒険者ギルドでも、聞いたこともない魔道具だと驚いていた。


高位精霊だとは思っていたが、何かを隠しているようで、どうも怪しい。



「お主のせいで、他の精霊と契約出来ぬのか?」


「何の話だ」


「お前、何者じゃ?」


「ただの、『無駄に長生きした精霊』だ」



飄々と答えるオルドだが、それを鵜呑みにするメトゥスではない。



「もし、他の精霊と契約できぬのがお主のせいじゃった時は、タダでは置かぬからな」


「そう言うな。ワシでは、力不足か?」


「そうじゃないから、怪しいと申しておる」



一人の精霊が、多岐に渡る魔法を使い分けるなど聞いたことがない。


治癒に特化した精霊もいれば、火炎魔法しか撃てない精霊もいる。


故に、メトゥスは前世において、多くの精霊と契約を結んだのだ。


それが一粒で二度美味しどころか、百も二百も何でもござれでは、もう、神ではないか。



「メトゥス様、また、オルド様とお話ですか?」



精霊の見えないアモルからは、空中に向かって延々と独り言を続けるメトゥスは、少々気味悪い。



「それ、お外では、なさらない方が良いと思います」



メトゥスは、他人の視線を気にしない所がある。


傍若無人ともいうが、勝手が過ぎると目立つ上に受け入れられない。


心優しいアモルは、出来たらメトゥスにもお友達が出来たら、友と語り合う楽しい時間が過ごせるのではないかと思っていた。



「メトゥス様、やはり同年代のお友達を作られたほうが……」



それは、母が子を心配する気持ちに似ているのだが、子が母を鬱陶しいと思う気持ちも存在する。


ただ、言い返すと晩御飯の品数が減るため、反抗するのは得策でないことを知っている。


なので、最大限の抵抗として口を尖らせ、そっぽを向いた。


この辺境の地は、国境沿いの魔物生息地であることから、一攫千金を狙う冒険者や、その褒賞金を狙う盗賊が多い。


小柄なメトゥスも狙われることが多く、返り討ちにした盗賊の数も両手では済まない。


この事からも分かるように、近所に子供など住んでいないのだ。


暗に、引っ越そうと言っているアモルの気持ちも分かるが、ここでの稼ぎを捨てるのは惜しい。



「ふぅ、都合が悪くなると黙るのも、あまり良くありませんよ…」



アモルは、これ以上話しても無駄だと、台所へ消えていった。



『メトゥス様、涼しい?』



ふと、風の精霊ウェントゥスの声が聞こえた気がした。


何処からともなく吹いてきた風が、彼女の赤髪をフワリと揺らす。



「ウェントゥス、居るのか?」



慌てて周りを見たが、そこにはオルドしか居なかった。


メトゥスは、潤んだ目を擦って、鼻をすすった。


人前で泣いたことなどない彼女の姿に、流石のオルドも哀れさを感じる。



「そんなに、会いたいのか?たかが、低位精霊に」


「五月蝿い。何と言われようとも、我は、アヤツに会いたいのじゃ」



前世で、メトゥスが魔力に目覚めてから、実際に他を圧倒する力を手に入れるまで十五年を要した。


その間、他者に侮られ、虐げられ、ありとあらゆる痛みと苦痛に耐えた。


その激動の人生の中で、誰からも見向きもされなかったメトゥスに、自ら契約を申し出てくれたウェントゥスは、最後まで彼女の心の支えだった。


九十歳で死出の旅時に出た時も、ずっと傍に寄り添い、



『貴女と共に参ります』



と約束してくれていた。


その契りは、時間が巻き戻ったとしても、やすやすと切れるものではないと思っている。



「………なぁ、オルド」


「なんだ?」


「なぜウェントゥスが、低位精霊だと知っている?」


「………」



都合が悪くなると黙るのは、主に似ているらしい。


しかも、スーッと姿を消して、勝手に話を切ってしまった。



「やはり、お主、何か知っておるな!!!!」



メトゥスの怒鳴り声に、



「メトゥス様、晩御飯抜きにしますよ!」



とアモルの声が台所から響いた。



「そ、それだけは、いやじゃ…」



結局、この家で一番強いのは、アモルなのかもしれない。

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