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なんという屈辱!半神メトゥスの愛しきやり直し人生  作者: ジュレヌク


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第六話 これが神に仕える人間のすることか?

「メトゥス様、また、父と森に行っていたのですか?」



泥だらけの衣装で帰宅したメトゥスとヴァレリウスに、アモルは、笑顔を向けながらも、腕を組んで仁王立ちしていた。



「腹立たしいなら、疑問形などにせず怒れば良かろう。我慢するればするほど、怒りは蓄積される。鏡を見てみい。眉間に皺が刻まれたかけとるぞ」



十歳になったメトゥスは、毒舌に拍車が掛かっていた。


『吸引機』と呼んでも差し支えない程に、空気中の魔素を片っ端から吸収する為、魔力量も桁違いだ。


既にやりたい放題な生活を送っている為、その事実は隠しようがなく、王都で彼女の話す時の代名詞は、『例のあの子』になっている。


三歳で、メイドを精霊魔法で救った例のあの子。


見た目が、あの『社交界の赤い薔薇』に瓜二つな例のあの子。


齢十歳にして、魔法弾で魔物を狩る例のあの子。


会った事も無いくせに、王都の人間は、彼女に夢中だ。


見事『魔力なし』を返上したからか、兄からは、再三王都に来ないかと連絡が来ている。



『母も、待っている』



明らかに眉唾な文面を、前世で公爵夫人にイジメ抜かれたメトゥスは鼻で笑い、薪代わりとばかりに暖炉にくべた。


兄がどう思っているかは知らないが、母親の方は、王都で話題のメトゥスが気に入らないのだろう。


そんな所へノコノコ行けば、毒殺されるか、政治の駒にされ、嫁ぎたくもない所へ嫁がされるのがオチである。


一応、父親からは、生きるのに必要な金は送られてきた。


あれでも、跡継ぎ息子を助けた恩を感じているのかもしれない。


しかし、メトゥスは、衣と住は気にしないが、食べることに関しては贅沢体質だ。


珍味や高級菓子、鮮魚等、どれ程高くとも買ってくる。


そのため、スズメの涙程度の仕送りは、毎度、直ぐに使い果たしてしまう。


そこで、三歳の時、最初に手掛けた金策は、アモルが刺繍したハンカチに付与魔法を施す事だ。


ほんの少量の魔力を対価に、精霊オルドは、かなり高性能な治癒魔法に似た作用を付与してくれる。


それを、最初、お試しとして、冒険者ギルドに数枚提供し、その効果を実感してもらった。


何せ、持っているだけで傷が早く治るのだ。


以前、即死しかけていたメイドを蘇らせたと噂の『例のあの子』が作ったとあれば、噂が噂を呼んで飛ぶように売れた。


しかし、これには、難点があった。


アモルは、手先は器用だが、別に早く縫えるわけではない。


凝り性な為に、刺繍できる枚数が限られてしまうのだ。


それっぽく見せるために、神々しい天使の図案にしたのもいけなかった。


今更手を抜いた刺繍に変えるわけにもいかず、発想を変えることにした。


そこで、次に手がけたのがポーションだ。


タダの水に治癒魔法を付与し、飲めば病気にでも薬にでも効く万能薬として売り出した。

 

無論、飛ぶように売れた。


ガッポガッポと金が入ることにメトゥスが高笑いをすると、



「お主には、品位の欠片もないな」



とオルドがドン引きしていた。


この調子で売り続ければ、豪邸の二、三軒、直ぐに建ちそうだったが、残念ながら、治療院を営む教会が黙っていなかった。



「このような、得体の知れぬものを売買するとは、冒険者ギルドの名折れであろう」



直接メトゥスを攻撃するのではなく、委託販売をしているギルドの方に攻撃を仕掛けてきた。


流石に教会を敵にするのは不利だと、冒険者ギルドは、メトゥスのポーション販売から手を引いてしまう。


ならばと、市場の片隅で露店を出した。


すると、次の日の朝、



「なんて、酷い……」



ズタボロに壊されたテントを、店番に立つ予定だったアモルが発見した。



「アモル、暫くは、一人で出歩くな。買い出しは、必ずヴァレリウスと行け」



メトゥスの命令も、当然だろう。


狙われるとすれば、戦闘能力のないアモル一択。


その後も、家の裏で小火騒ぎがあったり、小型の魔物が庭に放り込まれたりした。


良くここまで考えつくなと呆れてしまう程の嫌がらせは、延々と続いていく。


治療院での収入を大きな資金源にしている彼らにとれば、突然現れた同業者など排除する選択肢しかないのだろう。


専売特許だからこそ、支払えなくもないギリギリの値段設定で暴利を貪る彼ら。


己が半神であることを知らないメトゥスは、



『これが神に仕える人間のすることか?神という存在も、たかが知れてる!』



と腹立たしく思っていた。


こうして、事業という形に嫌気が差したメトゥスは、十歳になったのを皮切りに、自らが冒険者ギルドに登録をした。


冒険者は、いい。


五月蝿いことを言う奴は、実力で黙らせればいいのだ。


二度とふざけたことが出来ないよう完膚なきまでに叩き潰し、骨を粉砕し内臓を破裂させ、最後に治癒魔法を掛けてやれば神様のように拝んでくれる。


こうして、


『恐怖公』


とよばれる十歳の少女が誕生した。


前世で呼ばれた時より、二十年ほど早い。


今日も、日課となった魔物の森探索に出掛け、ガッツリと収穫を得てきた。


魔物の肉が旨いことは知っていたが、自分で狩った獲物は、格別と言えた。


血抜きも素早く行い、臭みが出ぬよう魔法で氷漬けにする。


食すと魔力が漲る為、益々メトゥスは、魔物肉がお気に入りになった。


ただ、ギルドから、



『討伐ではなく、殲滅になるのでやめてください』



と怒られるのは、何故だろう?


メトゥスには、分からない。


手加減という言葉は、彼女の辞書にはない。


殺るか殺られるかの前世。


食べ損ねたら、次の食事は一週間後などということもあった。


狩れる時に狩り、食べられる時に全力で食べる。


空間魔法によって、既に数ヶ月分の食料も保管してあるが、まだまだ溜め込まねば不安で仕方ない。


戦時中は、常に、年単位の食料を保有していたのだから。


ただ、アモルには、そんな言い訳は通用しない。



「また、洗濯物しないといけないじゃないですか!はい!脱いで!」



秒でひん剥かれて風呂に放り込まれる。


魔法で対抗する時間すら与えられない。


普段鈍臭いくせに、何故、こんな時だけ早く動けるのか?



「毎回、毎回、何故、ヴァレリウスの前でやる!」


「ツルペタな体で恥じてる場合ですか!」



痛い所を突かれ、湯気の上がる浴槽の中で、



「なんたる屈辱!」



と叫んだが、既にメトゥスに慣れきった2人からは、慰めの言葉は聞こえなかった。


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