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なんという屈辱!半神メトゥスの愛しきやり直し人生  作者: ジュレヌク


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第五話 父という名の大人、兄という名の子供、さらばじゃ


「お前が、メトゥス?」


「お前が、兄か?しょぼくれた顔をした奴よのぉ」



目の前の青白い顔をした少年を前に、メトゥスは、不機嫌さを隠さない。


前世では、会うこともないまま亡くなってしまった実の兄。


それが、今、目の前のベッドに横たわっている。


メトゥスがアモルをヒールで癒した噂は、王都中を騒がした。


それを聞きつけた父親が突然現れ、兄の住む王都の屋敷にメトゥスを無理矢理引きずってきたのだ。


来たくて来たわけではないので、笑顔を見せるつもりはない。



「君が、僕を治してくれるの?」



ノックス公爵が何と吹き込んだのか知らないが、そうしてもらうのが当たり前といったような聞き方だ。


人にものを頼む時の態度では、決してない。



「はっ!そんなことの為に我を呼んだのか!厚顔無恥も、良いところだな」



メトゥスは、わざと威圧するように語気を強めた。


すると、兄はビクリと体を縮めて目に涙をためる。


多分、なぜ怒鳴られたのか分からないのだろう。


メトゥスとしては、ド田舎の片隅で小さな家に捨て置いた娘に、思わぬ力があったからと助けを求める父親に、ほとほと愛想がつきている。


今も、横で顔を真っ赤にしながら、



「メトゥス!兄に、何という口のききかただ!」



と怒鳴るが、別に怖くもない。


どうせ、あと十数年で、酒の飲み過ぎが原因で死んでしまう奴だ。


突然死の後始末を、十代後半で背負わされた恨みは、忘れられるものではない。


しかも、残った正妻は、事ある事に一族を焚き付けメトゥスの邪魔をしてきた。 


ただ、そんな奴等の子供とは思えぬほど、メトゥスの兄は純粋だった。



「父上、声を荒げるのはおやめください。ごめんね、メトゥス。僕の体が弱いばかりに……」



どうやら、この少年は、己の病弱さのせいで、妹が不遇な立場に追いやられているのだと勘違いしているらしい。


悲劇のヒロインのように感傷的になる姿すら、癇に障る。


ただ、子供相手にムキになるのも恥ずかしいメトゥスは、



「別に謝る必要はない。大人の事情というやつだ」



と、淡々と答えた。


その物言いが、余りにも古めかしく、違和感があったのだろう。


少年は、



「メトゥスは、三歳なのに、大人のように話すんだね」



と率直な意見を述べた。



「別に話し方で内容が変わるわけでもないだろう?」


「そうだけど、ちょっと偉そうというか…」


「人に助けを求める割に、態度がデカいと気に入らぬか?お主も父親と同じよの」



自分の親でもあるのだが、メトゥスは、血が繋がっている事すら嫌悪している。


出来ることなら、二度と顔も見たくない。


治せるものなら、さっさと治して家に帰りたいのだが、教会で『魔力なし』と判断されたように、今、彼女は魔力枯渇の状態だ。


ヒールを掛けることは難しいが、アドバイスくらいはしてやれる。



「お主、名は?」


「え?僕の名前知らないの?」


「誰も、教えてくれなんだからな」



まさか、そこまで妹が冷遇されているとは思っていなかったらしい。


憐れむような目で見られ、メトゥスの堪忍袋の緒が切れた。


前世でも、今世でも、彼女は、とても短気である。


そして、前世九十プラス三歳だというのに、目の前の子供をどうしても泣かせたくなった。


ちょっとした憂さ晴らしのようなものだ。



「我の髪色を見ても気付かぬか?お前と我は、母が違う。他の女に産ませた子供など、お前の母親も見たくはないだろう」



メトゥスの燃えるように赤い髪は、社交界で真紅の薔薇と称された未亡人譲りだ。


一方少年の髪は、白っぽい金髪。


母親の髪色が銀髪だったことを思い出し、少年は、愕然とした顔を父親に向けた。



「ち、父上……本当なのですか?」



息子から失望の眼差しを向けられ、父親は、顔を背けた。


答えないのが答えなのだと、流石の息子も気づいたようだ。


少年を溺愛する母親は、彼にだけは優しかった。


そんな母を裏切った父を、少年は、今後許すことはないだろう。


家族の不仲が確実なものとなったことで気の済んだメトゥスは、話を進めることにした。



「そなた、毒を盛られておるな」


「え?」



メトゥスの言葉を予想していなかったのか、少年も父親も驚いた顔をしている。


少年の症状は、発熱、嘔吐、貧血そして脱毛。


典型的なヒ素の初期症状だが、まさか家庭内で彼に毒を盛るものは居ないだろうという思い込みから、ノックス公爵の頭の中から除外されていたのだろう。


逆に、そんな事すら見抜けなかったヤブ医者の罪だ。


もしかしたら、犯人とグルかも知れない。



「そこの物をガラス製から銀製に変えるが良かろう」



サイドテーブルには、少年がいつでも水が飲めるように、ガラス製の水差しが用意されていた。


ヒ素に反応する銀食器を使うのは、貴族では常識と言っていい。


誰が、何故?


そんな事は、メトゥスには関わりのないこと。



「お家騒動など、興味もない。悪いが、二度と呼びつけないでくれ。しかし………できれば………今後も生活する金をくれると有り難い。アモル!」



メトゥスは、後に控えるアモルに視線を送ると、両手を広げた。


抱っこして連れて帰れと態度で示したのだが、デレデレとした顔のアモルが近づいてくるので、ちょっと後悔した。


更に、アモルを守るように、その父ヴァレリウスも控えているのだが、今にも剣を抜きそうな勢いなので、少しおとなしくしていて欲しい。


なにせ、一応、ノックス公爵はヴァレリウスの元上司なのである。


この父娘、あの襲撃事件以降、完全にメトゥスに心酔し、給料なしでも構わないと、押しかけ女房よろしく、彼女の傍を離れない。


メトゥスに対する不敬は、即刻打ち首くらいに思っていそうで怖い。



「では、父という名の大人、兄という名の子供、さらばじゃ」




結局、メトゥスが兄の名前を知ることはなかった。


それだけ、興味もなかった。


アモルに抱えられ、ヴァレリウスに守られ、メトゥスが去っていくのを他の者達は呆然と見守るしかない。


この後、ガラス製の水差しからヒ素が見つかり、メイドの1人が捕らえられた。


犯人は、自分の子供の方が跡継ぎに相応しいと思い込んでいる叔父だったという。


メトゥスが何度も命を狙われてきたのも、ソイツのせいかと思うと今すぐ抹殺してやりたいが、それはノックス公爵に任すことにする。


それよりも、メトゥスは、



『金など要らん!』



と啖呵を切れなかった上、ちょっと金を無心するような物言いになってしまったことに、



『なんたる屈辱!』



と心の中で泣いていた。


第五話 父という名の大人、兄という名の子供、さらばじゃ

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