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なんという屈辱!半神メトゥスの愛しきやり直し人生  作者: ジュレヌク


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第八話 それで、お前に迷惑をかけたか?

ある日、メトゥスに国王から召喚状が届いた。


不必要に華美な封筒には、



『メトゥス・ノックス』



と宛名が書かれていた。



「そう言えば、我は、ノックスという苗字であったな」


「メトゥス様、それ、忘れちゃ駄目なやつです」



縫い物をしながらメトゥスに突っ込むアモルだが、彼女も本当は、すっかり公爵家の名前など忘れていた。


最後に会ったのが、九年前。


今や、自力で裕福になったメトゥスは、公爵家から送られてくる金など不要だと完全に縁を切っていた。


家からの離脱も申し入れているのだが、そちらの方は、返事すらない。


互いに不干渉ということで納得するしかなく、メトゥスも貴族社会に戻るつもりなどなかった。


しかし、王家からの召喚となると、些か難しい話になる。


どうやら、辺境の魔物が出る森で、無双する公爵令嬢が居るという噂を聞きつけたらしい。


『例のあの子』の件は無論王家も把握はしていたが、今や『恐怖公』と呼ばれるようになった彼女は、傾倒する者を続出させていた。


その構成員は、冒険者だけでなく、討伐された盗賊まで含まれる。


罪を憎んで、人を憎まず。


犯罪に手を染めざるを得なかった身の上の者達は、メトゥスの子供とは思えぬ懐の深さに感銘を受け、己から軍門に下ったという。


一大勢力を築きつつある一派の中には、幼児期の彼女を象ったポッコリお腹の木彫り人形を、神のように奉る者まで居る。


治療院で金を払えない貧民に、メトゥスが自前のポーションを無料配布していることも関係しているのだろう。


彼女にとっては、



『単なる、教会への嫌がらせじゃ』



らしいが、それで救われた人間は、



『恐怖公様は、神様だ』



と本気で思っている。


それ故に、メトゥスに対して仕掛ければ、彼女の信奉者達が黙っていない。


自滅覚悟で、突進してくる者ほど恐ろしいものはないのだ。


国王としては、敵対はしたくないが、放置もできない。


そこで、国からの命令という形で、彼女に義務教育を受けさせる事にした。


この時、メトゥス、十二歳。


彼女が討伐した盗賊達からは、何故か、『姐さん』と呼ばれている。


オッサン達に慕われても嬉しくないが、甲斐甲斐しく貢物を持ってくるので庇護下に置くのもやぶさかではない。


アモルからは、



「もう、首領ですね」



と笑顔で言われるが、それは、断固拒否している。


このような状況から抜け出す為にも、一度『学園』というものに行ってみてもよいかとメトゥスは思った。


なにせ、前世では、兄の死後無理矢理後継者として屋敷で監禁され、詰め込み教育をほどこされた為、学園には通っていなかったのだ。


気に入らなければ、帰ってくれば良いだけの話。


遠足気分で引越準備をし、出かける朝がやって来た。


家から出ると、ズラッと並んだ元盗賊達が平伏している。


見るからに、面倒臭い。



「姐さん!あっしらも、連れて行ってくだせぇ」


「駄目じゃ、駄目じゃ。そなたらの見た目は、王都には似合わぬ」



坊主頭に髭面というアンバランスな見た目のオッサン達は、外見のことを持ち出されると反論できない。



「たまには帰ってきて遊んでやるゆえ、道を開けよ」



メトゥスが、ニッコリ微笑むと、ゾロゾロとオッサン共が移動し、海が割れる様に一本の道が開かれた。



「皆、達者での!」


「姐さん!お帰りをお待ちしております!」



野太い声に送られて、メトゥスは、アモルとヴァレリウスのみを引き連れ、王都にある国立プルリアル学園へとやってきた。


生徒以外は校内に入れない為、アモルとヴァレリウスは、新しく借りた一軒家でお留守番だ。


たった一人で校門をくぐると、



「君、新入生?」



直ぐに、一人の少年に声をかけられた。


サラサラの金髪。


大きなブルーの瞳。


明らかに品のある物腰。


普通の女子生徒なら、恋の予感に胸躍らせるシチュエーションだ。


しかし、オッサンに囲まれていたメトゥスは、普段では見ない同年代の男子に、



『なんだ、子供か』



と無表情のまま素通りしようとした。



「ちょっと、ちょっと待って!」


「何か、用か?」


「新入生の手続きは、あっちの校舎でやってるんだよ」



どうやら、彼は彼なりに気を使って声をかけてくれたらしい。



「なるほど。助かった」


「いや、別に良いんだけど、君、凄く目立つから」



今、メトゥスが着ているのは、ダンジョンにもぐっていた時と同じ物だ。


無論、スカートではなく、体のラインがクッキリと出るズボン。


伸縮性があり、着心地は最高だが、貴族令嬢としては、あり得ない。


彼も、生まれて初めて女性の脚を目の当たりにしたらしく、真っ赤な顔で自分のジャケットを差し出した。



「せめて、足が見えないように腰に巻いて」


「ほぉ、我に、命令すると?」


「ただの提案に喰ってかかるなぁ。それに、君、変な話し方だね」


「それで、お前に迷惑をかけたか?」


「いや、かかってはないけど…、ちょっと面白いかな」



この少年、なかなか肝が据わっている。


小柄なメトゥスとほぼ変わらぬ身長で、喋らなければ少女にも見える見た目なのに、覇王のような覇気を発するメトゥスに一歩も引こうとしない。



「そんな格好でウロウロしてると、変質者と間違われるよ」


「なんだと!」



貴族としての一般常識を欠いたメトゥスは、初日からやらかしたらしい。


女公爵として君臨していた時は、常にズボン姿で通していた為、感覚が鈍っていた。


だが、一生徒として学園に在籍する以上、従うべきことには従わなければならない。


その事を、こんな子供に指摘されたメトゥスは、



「なんたる屈辱!」



と頭を変えて叫んだ。


その横で、



「ほら、だから、これ貸してあげるって」



可愛い少年が、ジャケットを差し出してくれていた。



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