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1-7 はい、固定吹っ飛ばしです。

 準決勝の相手はウィング先輩。

 三年生の珍しい風属性使い。


 緑色のさらさらヘアーを何度も櫛で左に流しながら話しかけてきた。


「やあ、一年生のベイべ。結構強いみたいだね。『降参王』クン?」


 キャーッと黄色い歓声があがる。笑顔で手を振るウィング先輩。


「ありがとうございます。……『降参王』?」


「聞けば君はほとんどの試合、降参させて勝ってるみたいじゃないか。それでみんな君を『降参王』と呼んでいるよ」


 俺は戦いをだいたい分析に費やす。相手が得意な戦術をすべて受け切り、学習するのだ。すべては経験値として昇華するために。


 もうレベルや熟練度という面では成長しない。だが、プレイヤースキルには上限はない。

 厄災戦では、どんなデータが役に立つかわからないのだ。


「それでいうなら先輩は、『場外王』ですね」


 ウィング先輩は風魔法によって相手を場外に飛ばして勝ち進んでいた。


「そうだね。ただ、卑怯なんて言わないでくれよ?」


「いや、そんなこと言いませんよ。ルールに則って強い戦い方をしてるにすぎません」


 風魔法はダメージがほとんどない代わりに、固定吹っ飛びを持つ魔法が多い。

 魔法は本来、相手の魔法抵抗と接触して威力が増減する。


 カマセ先輩の初級魔法は俺の魔法抵抗を受けてダメージをほとんど通さない。

 反対に、魔法抵抗が低いスライムに打てば、大ダメージを与えられる。


 しかし、風魔法は俺でもスライムでも一律で吹っ飛ぶ。

 しかも発生が早く、目に見えない。癖は強いが、かなり強い属性だ。


「じゃあ、始めようか」


「はい。よろしくお願いします」


 この戦い──厳しいものになるぞ。


 開幕、


「【スイフト】」


 固定吹っ飛ばしの初級魔法。俺は場外に飛ばされるさなか、剣を放った。

 剣は床に突き刺さる。

 鎖で体を手繰り寄せ、場外を免れる。


 ウィング先輩対策その1だ。


「ほう。さすがモヴベイべ」


「場外対策しないと一発負けなんでね!」


 ウィング先輩に近寄ろうとするが、


「【ツインスイフト】」


 再び場外へ。先輩は俺と距離をとるため、反対方向に風を吹かせる。


「【トルネード】」


「くっ!!」


 追撃の【トルネード】。ダメージが発生する風魔法だ。


【スイフト】は、発生が早い代わりに相手の拘束時間が長く、コンボにつながる。

 格闘ゲームで“クソキャラ”と戦っている気分だ。


 剣を投げて復帰。

 近接戦闘をやらせてもらえば、早々に片が付く。

 だからこそ、ウィング先輩は徹底して距離をとり続けるだろう。


 ウィング先輩対策その2。ひたすら耐える。

 風魔法はDPSで言えば、他属性よりはるかに劣る。

 同レベル帯ならともかく、彼我のレベル差を考えれば、時間稼ぎにしかならない。


 MPが尽きたところを狙い、近づいて倒す。

 下手に崩そうとして復帰がおざなりになったり、大ダメージを食らってはいけない。


 ウィング先輩の【トルネード】で体から血が噴き出す。


「いってー……」


 つい声が漏れてしまった。

 ただ、これは負けの要素とならない。痛いだけだ。

 この世界の“血”はただのダメージエフェクト。

 HPというバーさえ残っていれば、血まみれで痛くとも、生きている。


 某モンスターなハンターをやったことがある人ならわかるだろう。

 武器で切ったり叩いたりして血が出てるのに、奴らは平気で30分とか暴れまわる。

 それと一緒だ。


 何度も、何度も、何度も吹き飛ばされる。


 痛みに耐える。

 剣と鎖を握りしめ、立ち向かう。


 始めは涼し気な表情だった先輩も、徐々に苦悶に歪んでいく。

 試合時間は二時間に及んだ。


【スイフト】は初級魔法だけあって燃費がいい。

 ウィング先輩の魔力量は並ではない。

 とはいえ、そろそろ尽きてくるころだ。


「なぜ、立ち向かう? もう十分だ。君は頑張ったよ」


「いいや、まだまだ余裕ですね。先輩は今、怖いんだ。

 このまま続けてMPが尽きたら負けるってね。

 だから、そろそろ《大技》で決めきるか、戦術を変えずにやりきるか悩んでる。──あってますか?」


「……」


「どちらにしたって俺が勝ちますよ。俺は信念に従って、勝ちますから」


「──ただまあ、大技出し切ってもらった方が、早く終わるんで嬉しいですけどね」


 ウィング先輩はこくりとうなずいた。


「ずいぶんとビッグマウスだ。でも嘘じゃない気がしているよ。ここまで頑張ったモヴベイべに敬意を称して、全力で行かせてもらおう」


 魔力の高鳴りを感じる。木々がざわめく。

 この年でこれほどの領域へと到達しているのか。


 この間に近づこうにも、【スイフト】で防がれてしまう。


 ──これを、受け切るしかない。


 ウィング先輩が魔力を込め、腕を横に払う。

 巨大な螺旋状の風の柱がモヴに向かって放たれる。

 風は地面をえぐり、空気を切り裂くような音を響かせ、あらゆるものを巻き込みながら直進する。


 その風の中心は真空。抵抗すらできない“押し出し性能MAX”の技。


 食らえば、はるか上空に弾かれ場外だ。

 抵抗すれば、風に切り刻まれる。


 ダメージと吹き飛ばし性能を併せ持つ、最強の風魔法。


 デメリットは、風魔法らしからぬ燃費の悪さ。

 そう──まさに。


「これが僕の切り札さ。【グラン・ブロー】──吹き飛べ、モヴベイべ!」


 つんざくような轟音。

 巨大な渦が、徐々に近づいてくる。


 データとしては知っていた。だが、実際に目にするのは初めてだ。


 ──台風が、来るッ!


 接触するとともに、上空へ放り投げられる。


 チャンスは一瞬。安全地帯は、《《台風の目》》しかない。


 風と離れた瞬間、無属性魔法【念動】を使う。

 吹き飛んだ威力を相殺し、自分の体を空中で制御する。そして、安全地帯へ滑り込む。


 勘違いされがちだが、風魔法は《《抵抗できないわけではない》》。


 魔法抵抗で抗えないだけで、物理的な力ならば抵抗できる。


 しっかりと根を張った木に風魔法を打っても、吹き飛びはしない。

 そういうカラクリだ。


 とはいえ、【念動】は燃費が悪い。

 ここぞという時以外で使えば、バテる可能性があった。


 だからこそ、剣と鎖で節約していたのだ。


 突風がやむ。

 変わらず立っているモヴを見て、ウィングは負けを悟った。


「後学のために、破り方を聞いても?」


「──《《台風の目》》ですよ」


「……なるほど」


 ウィング先輩は、自ら場外へ降りた。


 事実上の降参である。


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