1-4 はい!決勝で!
「本当ですか?……すっっごい美人さんでしたけど」
「ああ。あの子は、間違いなく“勇者”だ」
なんともかみ合っていない会話な気もする。
エビフライ事件の翌朝。シズクが俺のネクタイを直してくれている。
「だいたい、あの伝承を真に受けてるのって、ちっちゃい子くらいですよ?」
「まあ、そう言われると弱いんだけどな……。でも、実際に魔物は凶暴化してるし、信ぴょう性はあるんだ」
俺が悪さをしたときは「厄災に襲われるぞ」なんてよく言われたもんだ。
子どもへのしつけ程度にしか、"厄災"って言葉は聞かない。
「勇者様がいるとしたら……私はご主人様だと思いますけど」
「ほぉ? そりゃ、なんで?」
まさかの“モブが勇者”説。いや、ないだろ。
「なんでって……少なくとも、私にとってはそうなんです」
「……?」
「ああ、もう! 遅刻しちゃいますよ! 早く出てください!」
「ああ、そうだね。行ってきます」
「いってらっしゃいませ!」
乱雑に扉を閉めたシズクは、火照った頬を真っ白な手で必死に冷まそうとしていた。
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「で? なんでボクに付きまとうの?」
「俺は、君の仲間に入れてもらいたいんだ」
モブは素直が一番。
ある日は、テスト範囲を教えてあげた。
ある日は、「ズラじゃなさそうに見えるけど実はズラ」先生ランキングを作って渡した。
ある日は、自分の武者修行での失敗談を赤裸々に告白した。
忠犬のように、来る日も来る日も話しかけ続けたら──やっと返事がもらえた。
「言ったはずだ。ボクはここでなれ合いをするつもりはない。仲間なんていらない。……もう、関わらないでくれ」
「そうか。でも、俺だって引き下がるわけにはいかない。俺には信念がある。たとえ君の迷惑になっても、ね」
もちろん、勇者と厄災の戦いが見たいという気持ちもある。
だがそれと同時に──勇者には、ちゃんと世界を救ってほしいという想いがある。
彼女が勇者で、べらぼうに強いとしても、厄災に勝つには勇者だけの力じゃ足らない。
他の3人の仲間がいてこそだ。
仲間がいてこそ、勇者は勇者になれるんだ。
ヒカリは、クラスで孤立していた。
いつも思いつめた顔をして、苦しそうに鍛錬している。
まるで、ひとりで見えない亡霊と戦っているみたいだった。
このままじゃ、いい死に方はしない──
そんな予感がした。
「意志は固いってわけね。じゃあ、諦めてもらうために条件をつけよう。
ボクは次の学園戦に出る。そして、優勝する。
君が決勝まで上がってこられたら……力を認めてあげる」
「もし、上がれなかったら?」
「そのときは、金輪際ボクに話しかけないで」
「わかった。男に二言はない」
「ボクは男じゃないけど、約束は守るよ。
君の信念がどんなものかはわからないけど──
かわいいメイドさんを侍らせてまでボクにちょっかいをかけるナンパ者だったとしても、
力を示してくれるなら、多少の誠意は見せよう」