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1-3 はい、勇者っぽいです!

 入学にあたって、事前に試験が行われた。

 内容は筆記と実技――定番のやつだ。


 モブにできることと言えば、「言われたことを愚直に頑張る」それだけだ。

 もちろん、勇者になれるようなスペックは持ち合わせていない。だが、全力でぶつかった。


 ……手を抜いて不合格、なんてシャレにならない。


 そのかいあってか、合格。そして、なんと Aクラス に配属された。


 モブとはいえ、俺はレベルも熟練度もすでにMAX。いわば“何を学びに来たのか分からん状態”である。

 勇者も当然、最上位のAクラスに来るだろうと踏んでいたから、都合がいい。


 もちろん、勇者がそもそもこの学園に来ない可能性もあった。

 だが、それは――杞憂だった。


 


 俺は、ついに見つけたのだ。勇者を。


 


 それは、Aクラスの自己紹介タイムでのことだった。

 おおよその人物像は事前に調査済みであり、顔と名前を照らし合わせる作業は、退屈な確認作業に過ぎなかった。


 ぼーっと眺めていると、ついに“その時”が来た。


 


 黄金の髪。高く結い上げられたポニーテール。

 無駄のない動きに、自然と目が奪われる。

 顔立ちはまるで美術品。目に宿る意思は、まぎれもなく“光”だ。


 


 「ボクはヒカリ。ここには強くなるために来た。馴れ合うつもりはない。邪魔しないでね」


 そう言って、すぐさま着席。


 


 ――間違いない。この子が勇者だ。


 うまく言えないが、放たれるオーラが桁違いだった。

 あの一言で、教室の空気が一気に締まったのが分かる。


 先生の話なんて一切頭に入らなかった。

 なにがなんでも、打診しなければ。荷物持ちとして近づかねば――!


 


 自由時間が訪れた瞬間、俺はヒカリに声をかけた。チャンスがあるたび声をかけた。


 ……結果、めちゃくちゃ嫌そうな顔をされて終了。

 今回は敗北だ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 学生寮に戻ると、シズクが夕飯を作って待っていた。

 今日は珍しくポニーテールだ。料理中に邪魔だったのかもしれない。


 「おーっ、今日のご飯はエビフライか!」


 「はい。その予定でした」


 


 ん? なぜ“予定”だったのか?


 テーブルには二皿。

 一方はエビフライが6尾、もう一方はゼロ本。


 


 「……シズク、エビフライ食べないの? ダイエット?」


 「何をおっしゃっているんですか? 私が6尾の方ですよ?」


 


 ……俺の皿、おかずゼロなんだが?


 「俺は何をおかずにすればいいんでしょうか?」


 「キャベツがあるではないですか」


 油ものの付け合わせとしてついていたキャベツ君、まさかのおかずに大抜擢である。


 パンがなければケーキを、と言わんばかりの暴君っぷりである。


「では、召し上がってください」


「あ、ああ」


――ガシッ、ガシッ!


 膝のお皿めがけて、無言の打撃が炸裂する。

 そんなに痛くはないが、明確に怒りが込められていた。


 


 ……これは、怒っているな?


 


 「なにか、お怒りで?」


 「いえ、別に」


 とは言いつつも、打撃のペースは一切ゆるまない。

 へっへ嬢ちゃん。足は正直みたいだぜ。


 「仮に、ですけど?」 


 「うん」


 エビフライ(勝者の証)をサクッと噛みながら、メイド様はおっしゃった。


「仮にご主人様が女の子にしつこくナンパをしていたとしても、それは一概のメイドには微塵も関係ない話ではありますね」


――関係ないなら、よくないっすか?

 とはいかないのが女心と秋の空である。

 

こういうときは謝るに限る。

謝らなければ、エビフライはないと思え。


「あの、いろいろすいませんでした。よろしければ卑しい私にエビフライの恵みをいただけないでしょうか?」


はあ、まったくわかってないですね、まあいいでしょうと渋々ながら彼女は、エビフライの尻尾を渡してきた。


「どうぞ。私、尻尾は食べない派なので」


「あっす・・・」


ちなみに俺も、尻尾は食べない派である。


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