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第1話 タンポポパークの秘密

タンポポパーク、

それは栃木県ののどかな郊外に、

ひっそりと佇む遊園地。


再開発の波に乗り切れず、

どこか懐かしい雰囲気を残す

その場所は、

入園料大人1000円、子供500円

という控えめな価格設定。


園内には、つぶらな瞳が愛らしい

ライオンのキャラクター、

リオンちゃんの看板が

あちこちに飾られ、

訪れる人々を優しく迎え入れる。


アトラクションは、

その名前に反して

スリル満点なものが多かった。

ゆっくりとした動き出しで

油断させておいて、急に加速する

「たんぽぽコースター」

可愛らしいカップに乗ったかと思えば、

遠心力で悲鳴が上がる

「たんぽぽカップ」

リオンちゃんの愛らしい人形に

揺られる、のんびりとした

「たんぽぽゴーラウンド」

そして、最新の技術を駆使した

没入感抜群の「VRサバイバー」は、

若者を中心に一番人気を集めていた。


園内の一角には、文字通り一面に

たんぽぽが咲き誇る

「たんぽぽガーデン」があり、

家族連れの憩いの場となっていた。


そんなタンポポパークで

働くキャストは約20名。

園長の春古寿文ハル・コスモは、

白衣がトレードマークの

少し古めかしい科学者風の男。

その娘であり、チケット売り場で

いつも穏やかな笑顔を振りまく

春千恵ハル・チエは、

明るく元気な看板娘だ。


その他、アトラクションの

メンテナンスを担当する無口な技術者、

リオンちゃんの着ぐるみで

子供たちを笑顔にするお姉さん、

園内を隅々まで清掃する

おじさん二人組。

お土産を売る気のいいお兄さんに

安全を守る屈強な警備員。

花壇の手入れをする温厚な庭師、

そして、事務作業をこなす

眼鏡の似合う女性二人、

何でも屋の便利屋さんなど、

個性豊かな面々が

この小さな遊園地を支えていた。


しかし、この平和に見える

タンポポパークには、

民間人には知られていない

裏の顔があった。


タンポポパークの地下深くには、

国際的な秘密組織、

連合国機関インターフォースの

極秘基地、通称「コスモ秘密基地」が

存在しているのだ。


園長の春古寿文、その正体は

「コスモ博士」と呼ばれる

天才科学者だった。

10年前、彼はある事件に巻き込まれ、

その際に超知能を持つ

善良な宇宙人トルックと

奇妙な融合を果たしていた。

以来、博士はトルックの知識と

自身の才能を活かし、

人知を超えた力を持つサイボーグ戦士、

「ニンボーグ」の研究を進めている。


そして、博士の娘、春千恵こそが、

その最強のニンボーグ、

「メカ忍者さん」なのだ。


いつもはチケットを売る

普通の女の子だが、

国際怪事件調査組織テラスから

緊急の救援要請、

通称「レイドコール」を受けると、

彼女は人知を超えた力を発揮する。


もちろん、メカ忍者として出動する間、

チケット売り場の穴を埋めるのは

他のキャストの役目。

遊園地の平和と街の安全を守るため、

彼らは支え合っていた。


今日もまた、千恵の頭の中に

通信が届く。名古屋市の

テラスエージェントから

救援のレイドコールだ。


彼女が地下にある秘密基地に

駆け込むと、

モニターには巨大な爪を振り回し、

周囲の建物を破壊する

恐ろしいクマ人間の姿が

映し出されている。


その名は「ベアバグル」

悪の宇宙人の魔改造によって

凶暴化した人間だった。

本部からの指令は「捕獲せよ」

もとは普通の市民だ。

抹消は許可されていない。


「出動だ!千恵!」

コスモ博士が声をかける。

春千恵は決意を胸に変身ポーズに移行、


「ワン(ONE)!」と叫ぶ。

彼女の上空に、どこからともなく

不思議な模様を描く雲が現れた。


続く「ツー(TWO)!」の

掛け声と同時に、

その次元雲から強烈な雷が迸り、

千恵の体がメカ忍者へ変身を遂げる。


「スリー(THREE)!」

メカ忍者と化した千恵は

地面に低く身を屈め、内に秘めた

エネルギーを高めていく。


「ゴー(GO)!」

ラスト、ゴー!の合図と共に、

彼女は次元雲の中へと飛び込み、

光の粒子となって消えていった。


数瞬後、名古屋の街に舞い降りた影、

灰色の装甲を纏うメカ忍者さん!

「……転移、完了」

視界がクリアになると同時に、

彼女は街の喧騒の中に立っていた。

周囲を見渡せば、いつもの

名古屋の街並みが広がっている。


だが、その平和な光景を

切り裂くように、

アスファルトを砕きながら

一体の巨大な影が迫っていた。

「目標、ベアバグル……!」

覚悟を決めた忍者は、

メカ忍者刀に手をかけた。

灰色の装甲が鈍く光を反射する。

彼女の身長は平均的な女子と

さほど変わらないが、その全身には

異星のサイバネティクス技術が

詰め込まれている。

常人の数倍の筋力、驚異的な反射神経、

そして多彩な内蔵武器。

彼女こそはインターフォースが誇る

秘密兵器――メカ忍者さん、

その人だった。


ベアバグルは、2メートル近い巨体を

揺らし、鋭利な爪を振り上げて

襲い掛かってくる。

その一撃は、コンクリートを

まるで紙のように引き裂き、

周囲に破壊の爪痕を刻んでいく。

一般市民は悲鳴を上げ、

我先にと逃げ惑う。

「くっ……!」

メカ忍者さんは、人外の素早さで

ベアバグルの攻撃を回避する。

メカの脚部が生み出す機動力は、

並の人間では到底追いつけない。

しかし、ベアバグルのパワーは

想像以上だった。

かすかにでも爪が掠れば、

装甲が容易に砕け散るだろう。


(正面からの力押しは不利……!)

彼女は冷静に状況を分析する。

指令はあくまで「捕獲」

殺傷は許可されていない。

この怪物を、傷つけずに

どうやって捕獲するのか?

その時、春千恵の頭脳に、

一つのアイデアが閃いた。


「うん、これでいこう!」


彼女は素早くメカ忍者刀を

鞘に収めると、

両腕を前に突き出した。


「ロケットチョップ!」

次の瞬間、彼女の手首から

二つのユニットが勢いよく

射出された。

それは、まるで意思を持つかのように

空中で軌道を変え、

ベアバグルの背後へと回り込む。

そして、狙いすましたように

強力な電磁ネットを発射したのだ。


「グガァアア!」


突如現れた電磁ネットに、

ベアバグルは動きを封じられた。

強靭な爪でネットを破壊しようと

暴れ狂うが、高圧電流が

その動きを鈍らせる。

「今だ……!」

メカ忍者さんはその隙を見逃さない。

「エナジービット、射出!」

彼女の頭髪から、無数の

まるで意思を持つ

小さなエネルギー弾が放たれた。

その弾丸がベアバグルの巨体に

次々と命中していく。


悲鳴にも似た咆哮が、街に響き渡る。

エネルギー弾は、

ベアバグルの神経系に影響を与え、

その動きをさらに鈍らせる。


「ドリフトブースター!」

メカ忍者さんの背中のブースターから

強烈な推進力が噴出し、

彼女の身体は残像を残しながら

超高速で移動する。

拘束されたベアバグルの懐に、

一瞬で飛び込んだ。


「拘束開始!」


彼女は、秘密基地で渡された

特殊な拘束具を素早く展開し、

ベアバグルの四肢に装着していく。


特殊合金製の拘束具は、

強大な力を持つベアバグルでさえ、

抵抗する間もなく完全に

動きを封じ込めた。


「……任務達成」


春千恵の顔に戻ったメカ忍者さんは、

息を整えながらそう呟いた。

その直後、静かに黒塗りの車両が数台、

現場に到着する。

インターフォースの隊員たちだ。


彼女は、捕獲したベアバグルを

彼らに引き渡すと、

再び出現した次元の裂け目、

次元雲の中に躊躇なく飛び込んだ。


「コスモ基地へ、帰還」

今日もまた、メカ忍者・春千恵は、

人知れず街の平和を守り抜いたのだ。

プラズマの光が走り

タンポポパークの地下、

秘密基地本部に舞い降りる。


しかし、その時、彼女の脳裏に、

とんでもない記憶が蘇ってきた。


(あっ……!)


今日は、タンポポパーク近所にある

洋菓子屋スズラン、

フルーツエクレアの

特売日だったのだ!しまった!!


「ま、まさか

……もう売り切れちゃった!?」


平和を守った達成感は

一瞬で吹き飛び、

千恵の顔には焦りの色が浮かんだ。


甘く香しいフルーツエクレアの

誘惑には抗えないのである。


「父上!私はエクレア捕獲に

向かいます!!」


そう言うと

ドタドタと秘密基地を走りまわる。


彼女の戦いはまだ続くのだった。



たたかえ!メカ忍者さん

【第1話 タンポポパークの秘密 】終

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