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自由奔放な第三王子

 



 カール=シュバルディ。

 シュバルディ王国の第三王子なのだが、彼には良い噂を聞かない。


 幼少の頃からいたずらっ子で、城を抜け出しては周りに迷惑をかけ困らせている。それは大人になっても変わらず、王子としての務めを全く果たさないでギャンブルや女性に現を抜かしていた。


 本人曰く、「第三王子の俺には王政なんてどうでもいい」と開き直り好き勝手しているそうだ。

 侯爵家の長女としてマリンダも何度か会っているが、いつも退屈そうにしていて気付いたら居なくなってしまっていた。


 自由奔放とは、正にカールを表す言葉だろう。


 だが、そんな彼は意外にも国民からは好かれている。

 王子なのに気取らず、隣人のように親しく接してくるカールに誰もが心を開いてしまうからだ。


 それは国民だけではなく、貴族令嬢からも大人気。

 金髪の碧眼に、端正な顔立ち。背も高く、性格も明るいカールはまさしく貴公子アイドル的存在だった。


 しかも、22歳ながら未だに結婚してしいないのもデカい。恐れ多いし烏滸がましいのは分かっているが、私にもワンちゃんあるんじゃないかと勘違いしてしまうほどに親しみやすい。


「ど、どうして……」


 そんな第三王子と思わぬ場所で出会い、驚愕するマリンダ。

 カールが社交界に訪れるなど滅多にないというか、今まで一度だってなかった筈だ。なのに何故、カールがこの場に居るのだろう。また、彼の単なる気まぐれだろうか。


 疑問を抱いていると、突然カールがマリンダの涙を指でそっとふき取ってきた。


「女性に涙は似合わないよ」


「――っ!?」


 そんなことをされれば、普通の貴族令嬢は一コロだっただろう。

 だがマリンダは違った。パシっと手を払い除けて、キッとカールを睨みつける。


「助けてくれたことは感謝致しますわ。ですが、淑女レディの顔に気安く触れるものではないですわよ」


 はっきりとそう告げると、カールは一瞬キョトンとするが、次には無邪気な笑顔を浮かべる


「ぷっ、あははは!」


「し、失礼ですわね! 何がそんなにおかしいのかしら!?」


「いや、すまない。女性に手を払い除けられるなんて初めてでさ。つい面白くて」


 面白いだって?

 なんて失礼でふざけた男だ。やはり第三王子は噂通りのちゃらんぽらんみたいだ。


 本当に今日は良い事がない。最後の社交界でも散々な結果で、あまつさえカールまでに笑われて辱しめを受けるとはなんて厄日だろうか。


 最悪な気持ちを抱くマリンダが、ぶっきらぼうに「失礼しますわ」と一言告げて立ち去ろうとしたのだが、パシッと手首を掴まれてしまう。


「ちょっと待ってよ」


「一度ならず二度もレディの身体に触れましたわね。その手を離してくださるかしら」


「離してもいいけど、まず話を聞かせてくれないか? 貴女が泣いていた理由をさ。泣いているレディが目の前に居たら放っておけない性分なんだ」


 なんて歯の浮くような台詞だろうか。

 きっと彼は今までこういった言葉で多くの女性を虜にしてきたのだろうが、マリンダはそんなに軽い女ではない。


「わたくしは泣いてなどおりません、ただの気のせいですわ。それに、例え王子であろうがぶしつけな貴方に話す義理なんてありませんわ」


「ふふっ、強情なお人だ。益々面白い」


 また面白いと笑われた。

 これ以上カールと話していたら手が出てしまいそうになる。流石にそれはバルクホルン家に迷惑がかかると思ったマリンダは、強引に手を振り解こうとする。しかし、カールが握る力が強くて離せなかった。


「言っただろう、理由を言ってくれないと離さないってさ」


「……」


 マリンダは諦めたようにため息を吐いた。

 どうやらこの男には何を言っても無駄だろう。自分の惨めな恥を晒すのは嫌だったが、こうなったらさっさと話してこの場を収める方が賢明かもしれない。


「社交界のダンスパーティーで誰からも誘われなかった。ただそれだけですわ」


「なるほど、そういう事か。でもおかしいな、これほど素敵で面白いレディを誘わないなんて、男共は見る目がないんじゃないか?」


 それは違うと、マリンダは胸中で否定する。

 カールは知らないだけだ。マリンダが婚活に必死になっている27歳のアラサーで、口が悪い『毒舌令嬢』なんて呼ばれて笑われていることを。


「お世辞なんていりませんわ。わたくしみたいなおばさんを誘う方がおかしいですもの」


「お世辞なもんか! アネモネのような鮮やかな紫の長髪も、アメジストのような綺麗な瞳も、勝気な顔立ちも全てが美しい。だがそれよりも、俺は貴女の内面に心を惹かれてしまったんだ。

 だからそんな卑下するような真似はどうかやめて欲しい。“貴女自身に失礼だ”」


「っ!?」


 マリンダは目を見開いた。

 最初は薄っぺらい口説き文句だと鼻で笑ったが、最後の言葉には思わず胸に突き刺さってしまう。


 いつからだろう……自分なんかと卑屈になってしまったのは。


 以前の自分はもっと高貴で気高いレディだった筈だ。それが婚約破棄を三度もされ、社交界でも上手くいかなくて、周りから笑い者にされて段々と卑屈になっていき、何もかも諦めてしまうようになっていた。


 心優しい両親と弟が居なかったら、とっくに首を釣っていったかもしれない。それほど、マリンダは自分でも気付かぬ内に心を病んでいたのだ。


 それが余計に悔しい。

 だって、たった今会った人間に心の奥底を見抜かれてしまったから。それも自分より年下で軽薄な男に。


「さぁ、下を向いてないで行こう!」


「きゃっ!?」


 マリンダが何も言い返せず俯いていると、ぐっと腕を引っ張られてしまう。

 階段を上がるカールに、慌てて問いかけた。


「行くって、どこに!?」


「決まっているじゃないか、俺とダンスをするのさ!」


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