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友達になろう

「だ、か、ら! いきなり喧嘩しようとするのは止めようよ。身長高いくせに牛乳足りてないんじゃない」

 マシュは皮肉をぶつける。彼女の身長は平均的な成人女性並みだが、刹那はそれよりも高く、成人男性に迫るほどだ。未だ警戒の解けない刹那にため息をつきながら、マシュは空中へと舞い上がる。


「まさか、変装して人間社会に紛れていたの。一体何のために」

「別に深い意味はないよ。この姿のままだと大騒ぎされるからさ。どうしてかな? やっぱこの触手のせい?」

「肩から触手を生やしている人間なんていないわよ」

「やっぱりそうだよね。触手をひっこめただけでも、そんなに騒がれなくなったし。そこから紆余曲折してあの姿に落ち着いたわけ」

「伊達メガネは分からないでもないけど、服が変わったのはどういうカラクリ?」

「それは秘密」

 シーッと人差し指を口に添える。魔法少女が変身する際にどうして服が変わるのかは永遠の謎ということだろうか。


「服といえばさ、随分個性的な恰好してるね。町中であまりその服着ている人見かけないよ」

「ほっときなさい」

 刹那が着用しているのはジャージであった。動きやすいのと、いちいち服を選ぶ手間が惜しいので、普段から愛用している。


 刹那がジャージに気を取られている間に、マシュはゆっくりと地面へと降り立つ。わざと注意を逸らしたのなら相当な策士だが、そうではないだろう。例え、気を張り続けていたとしても、足の火傷のせいで奇襲はかけられそうにない。

 未だに、警戒心の解けない獣のようになっている刹那に、マシュは「どうどう」と宥める。そして、あざとく頬に指を添えた。

「町中で偶然あなたを見つけたからさ。こっそりついてきたわけよ。そんで、話しかけようとしたら、指がぶつかったわけ」

「あんた、いつの間にストーカーしてたの」

 胸の前で腕を交差する刹那。ストーカーに気づかないとはなんたる失態。とはいえ、魔法少女ならともかく、敵意のない一般市民が追尾しているのを察知しろというのは流石に無茶だ。


「それで、私に接触したのはどういう目的」

「いやいや、深い意味はないよ。ただ、さ」

 恥ずかしそうにもじもじと後ろ手に指を組む。顔立ちが整っているだけに、同性の刹那でも一瞬ドキッと来た。

「私と、友達になってくれないかな」

「断る」

「即答!? せめて、だが、とかつけてよ」

「うるさい! あんたらを倒すことはあっても、友達になることなどありえない!」

 刹那は声を張り上げる。まさにもってのほかの提案だった。なにが悲しくて討伐対象と友達にならないといけないのか。


「えぇ、あなたとなら友達になれると思ったんだけどな」

「一体どういう思考をしたらそういう結果に至るのよ。初対面の時のことを言っているなら、私はあんたを本気で殺そうとしていたのよ。そんな相手、恨みこそすれ、友達になろうだなんて思わないじゃない」

「うーん、なんとなく」

 正論をぶつけたものの、あっさりと返答され刹那は頭を抱える。これまでの人生において、この瞬間ほど倶利伽羅丸が欲しいと思ったことはない。


「大体、友達になりたいのなら、魔法少女になる前の格好で適当な人を捕まえればいいでしょ。わざわざ私に拘る必要はないし」

「それもそうなんだけどさ。うっかり本気を出しちゃった時、あなたならなんとかなりそうだと思って。だって、MSBとか言うんだっけ。魔法少女に対抗できる強い人たちがいるんでしょ。どうせ友達になるなら、そういう強い人の方がいいなって」

「案外理性的な考えをするのね」

 うっかり素直に感心してしまった。下手な一般人が魔法少女と友達になったりしたら、ふとした拍子に殺されかねない。刹那ほど鍛錬を積み重ねていれば、そんな間抜けは犯さないだろう。


「ねえねえ、いいでしょ。えっと、あなたじゃ呼びにくいな。名前とかないの」

「神崎刹那。魔法少女ごときに名乗るのは癪だけど、あなた呼ばわりされるよりはマシだから名乗ってあげる」

「刹那。せっちゃんね」

「勝手にあだ名をつけるな」

 殴る素振りをする刹那だが、当然命中するはずもない。せっちゃんと呼ばれたのはいつぶりだろうか。小学生の頃にそんなあだ名をつけられた覚えがあるが、それはどうでもいい話だ。


「せっちゃん、友達になろうよ」

「くどい! 誰が友達に……」

 そこまで言いかけて、刹那はふと考えた。これはもしかしたらチャンスなのではないか。


 魔法少女についてはまだ分からないことが多い。もし、マシュと友達になる振りをして情報を聞き出すことができたとしたら。少なくとも、マシュ自身を倒すためのヒントは得られるかもしれない。あわよくば、刹那が長年追っているあの魔法少女についても知ることができるかも。

 どうせひと月ほどはろくに出動できないのだ。無為に過ごすよりはよほど有益かもしれない。わずか数十秒でそんな結論に至った刹那の返答は、

「いや、いいかもね。なってあげてもいいわよ、友達に」

「急に心変わりして怪しいな」

「疑うなら他をあたりなさい」

「ううん、とんでもない。やった! じゃあ、せっちゃんと私で友達だね」

 無遠慮に手を握ると、ぶんぶんと揺り動かす。浮足立っているマシュをよそに、刹那は横顔でほくそ笑む。彼女には悪いが、利用するだけ利用させてもらおう。


「じゃあ、友達になった記念に、カフェ行こう、カフェ」

「なんでいきなりカフェなのよ」

「女の子同士なら、まずは一緒にお茶するものじゃないの? あれ、違った」

「まあ、間違ってはいないと思うけど」

 久しくそういう女の子女の子めいたことをしていない刹那は、自信なさげに答えた。「善は急げ~」と鼻歌混じりにマシュは繁華街に繰り出そうとする。

「ちょっと待ちなさい」

「ん? 不都合でもある?」

 右手を広げて制止をかけた刹那をマシュは不思議そうに小首をかしげて見つめる。


「その姿で行くのはやめなさい。問答無用で殺すことになるわよ」

「おっと、いけない。うっかりしていた」

 いくらなんでも、肩から触手を生やした魔法少女のドレス姿の少女と一緒に歩き回る趣味はない。あざといまでのてへぺろを繰り出すと、マシュは一回転する。途端、触手がひっこみ、長髪のゆるふわカールへと戻り、ニットワンピース姿に早変わりしていた。

「あんたのそれ、手品ではないのよね。まさか、本当の魔法?」

「ひ、み、つ」

 漫画なら最後にハートがつきそうな口調で言われたので、刹那は自然と舌打ちした。だが、このくらいでいちいち反応していてはマシュと付き合うなど不可能だろう。こめかみを引きつかせながら、「さっさと行くわよ」と先行して歩き出すのだった。

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