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謎のゆるふわ少女

 なんとか正気を取り戻した永藤を筆頭にし、炎の魔法少女バーニングレッドの検死が行われた。確実に死亡させることができたとはいえ、建造物十数棟消失、負傷者約五十人という甚大な被害を出してしまった。とはいえ、能力からして大都市で暴れられたら目も当てられない事態になっていたことは必至。むしろ、郊外でこれだけの被害で済んだという楽観論が占めていた。


 ただ、MSB内部のみならず、世間一般で話題となっていたのは謎の魔法少女マシュの存在だ。実のところ、過去にも意思疎通ができる魔法少女が出現したという事例があるため、会話できたということ自体は珍しくはない。しかし、人間と明確に友好関係を持とうとしたというのは特異だった。

 おまけに、同じ魔法少女を攻撃して致命傷を与え、国内規模でもトップクラスの実力を持つとされる刹那と永藤を以てしても討伐できないと、異例のオンパレードである。


 世論としては、魔法少女なのだから討伐すべきだという派と、マシュの言う通りに友好関係を持つべきだという派の真っ二つに分かれていた。それ故にMSBの決断に注目が集まっていたのだが、記者会見で表明したのは「情報不十分により対処保留にする」であった。


「流石に決断力が無さ過ぎるのよね。さっさと倒せばいいのに」

 央間市の中心街。大手ハンバーガーチェーンでハンバーガーを頬張りつつ、スマホでニュースを眺めていた刹那はそう呟いた。

 現状の世間を鑑みて、歴代のお偉方の判断を踏襲するなら妥当なところではある。とはいえ、刹那からしてみれば、どう対処するかなんて考えるまでもないだろう。


 ちなみに、どうして呑気にハンバーガーを食べているかというと、急に暇をもらったからである。バーニングレッドとの戦いで足に火傷を負ってしまった刹那。医師の診断の結果、全治一か月とのことだった。本来なら皮膚移植手術等で年単位の治療が見込まれるところ、この程度で済んだという方が奇跡である。

 とはいえ、走ろうとするだけでも激痛が走る現状。まともに戦うことなどできず、西代長官より全治するまで療養を命じられたのだ。


「急に出撃停止とか言われても、どうしろっていうのよ」

 いきなり連勤を言い渡された社畜のようなボヤキを漏らす刹那である。実際のところ、暇さえあれば訓練にあけくれ、魔法少女が出現したとあれば真っ先に駆けつけて来た。その両方が封じられたとあれば、やることが無くなるのは自明だ。


 ハンバーガーショップを後にした刹那はあてもなく央間市内をぶらつく。ふと目に入ったのは書店だった。普段、本など読まないのだが、もしかしたら魔法少女を倒すのに有益な情報が手に入るかもしれない。興味本位で入店してみることにした。


 平日の昼間ということもあり、ただ広い店内に人影はまばらだった。市内でも品ぞろえは屈指であり、話題のベストセラーから、昔から人気のある定番テーマまで幅広く取り揃えてある。

 ふらふらと歩きながら本のタイトルを眺める。いまいちピンと来るものがないまま、漫画のコーナーに差し掛かる。アニメ化された作品が平積みされている中、とあるタイトルが目に留まった。

「魔法少女まのかマジック」

 それはかつて、可愛らしいキャラデザインとは裏腹に、残酷な展開で社会現象になったアニメのコミカライズだった。タイトルだけは聞いたことはあるのだが、アニメは未視聴であった。


「魔法少女。なにかの参考になるかも」

 もちろん、呪文を唱えて変身して困難に立ち向かうテンプレ魔法少女の系譜であり、現実に出現している魔法少女とは関係はない。単に「魔法少女」という単語に惹かれただけである。

 ゆっくりと第一巻の背表紙に手を伸ばす。すると、その指が別の指に触れた。


 横目をやると、同じ本を手に取ろうとした少女と視線が合わさった。眼鏡をかけ、ふわっとしたクリーム色のカールの髪の柔和そうな少女である。ニットワンピースからは溢れんばかりの双丘が主張している。

 刹那が指をひっこめると、少女はにこりと微笑む。純粋無垢が服を着て歩いているようで、さしもの刹那も所在無さげに指を弄ぶばかりだった。。


「久しぶり、だね」

 少女は気さくに話しかける。まごついた挙句、刹那はこう返した。

「誰よ、あんた」

「ひっどいな!」

「いや、初対面でしょ。悪いけど、あなたに見覚えはないわ」

「覚えて、ない?」

「だから、知らないっての」

「もう、記憶力悪いんだから」

 男女が入れ替わる某アニメっぽく言われたところで、刹那の知り合いに胸のでかいゆるふわ美少女なぞ存在しない。唯一分かったことは、関わり合うと面倒くさそうということだけだ。


 さっさと漫画を買っておさらばしよう。そう決めて、再度本へと手を伸ばす。すると、その手首がさっと掴まれた。刹那は二重の意味で驚いた。いきなり手首を掴んだことはもちろん。刹那の動体視力をしても、回避できなかったのだ。

「ちょっと来て」

 訳が分からないままに、店外へと連れ出される。その間、一切抵抗できなかった。本気で振り払おうと思っていなかったのだが、思っていたとしても予想外に強い握力のせいで解くのは四苦八苦しそうだ。


 彼女に連れられるまま、やってきたのは人通りがほとんどない公園だ。遊具らしきものがほとんどなく、広場といっても差し支えない。

 風に長髪をなびかせながら、少女は愛想よく微笑む。自分の意志を無視して走らされたせいで、刹那にしては珍しく息を切らしている。

「こんなところに連れてきてどういうつもりよ。返答次第では容赦しないわよ」

「どうどう。いきなりけんか腰になるのは止めようよ。多分、この姿だと分からないと思うからさ。いやあ、人に見られると騒動になるってのは本当に厄介だね。いい加減慣れてほしいものだよ」

「一人で納得していないで、見せたいものがあるならさっさと見せなさい」

 腕組みしながら刹那は仁王立ちする。少女は微笑むと片腕をあげる。


 バレエのターンのように優雅に一回転する。すると、長かった髪が一瞬で短くなる。ニットワンピースがドレスへと早変わりし、眼鏡を外す。そして、肩から人間とはかけ離れた器官が生えて来た。うねうねと蠢くそれはまごうことなき触手だ。


 その姿が顕現するや、刹那は即座に戦闘態勢に入る。

「魔法少女マシュ。どうしてここに」

 無意識に腰へと手を添える。静養を命じられているため、倶利伽羅丸の携帯は禁じられていた。もちろん、ライフル銃も携行していない。徒手空拳で渡り合わないといけないのか。

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