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魔法少女バスターズ&フレンジャーズ  作者: 橋比呂コー
File8.車輪の魔法少女
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原田の本性とマシュの激昂

 乱入者が去ったことで改めてターボババアと向き直る。心臓を貫かれたことで微動だにしない。確定はしていないが、死亡しているとみて問題ないだろう。

 そして、原田は半壊している車の奥でうずくまっていた。異次元の戦いを繰り広げられ、一般人である彼は介入する余地がなかったのだ。

「大丈夫ッスか」

 六花が車の中に手を伸ばす。原田はおっかなびっくり車外へと脱出する。倒れ伏している魔法少女と対面して声を上げ、六花へと寄りかかる。

「おい、こいつ死んでるのかよ」

「多分、死んでるッス」

 六花の言葉に原田は恐る恐るターボババアをつま先で触る。死んでいる可能性が高いとはいえ、一般人と魔法少女をあまり接触させたくはない。引き離そうと刹那が近寄ろうとする。


 だが、次の瞬間。原田は勢いよく魔法少女を蹴りつけたのだ。

「てめぇ、この野郎! 散々脅かしやがって」

 口汚くののしりながら、執拗に蹴りを入れる。あまりに突然の豹変ぶりに刹那たちは呆気にとられていた。

 とはいえ、いつまでも鳩が豆鉄砲を食ったような態度をしてはいられない。暴れ回る原田を刹那は羽交い絞めにする。本来、女子高生が大学生くらいの男を拘束しようとしても振り払われるのがオチ。だが、MS細胞で強化された肉体であれば、ガッチリと動きを止めることぐらい容易い。


「どういうつもり。こいつはまだ倒せたかどうかはっきりしていないのよ。それなのに、こんな真似をして。いくらなんでも命の保証はできないわ」

 刹那が窘めると、原田は唾棄する。

「MSBってのも大したことねぇな。あのしゃべる奴はともかく、ターボババアだったか、車輪ついてる奴は雑魚なんじゃないのかよ。それなのに、数人がかりで苦戦して。お前らは俺たち一般人を守るのが仕事だろ。だったら、その仕事を果たせよ」

 あまりの言い草に言い返す気力さえも奪われた。ここで沸くべき感情は怒りだろう。だが、それすらも超越してしまったのは初めてだった。


 そして、本来起こるべき感情が遅れてやってくる。

「あんた、それ本気で言ってる」

「当たり前だろ。お前らは魔法少女を楽勝で倒せるんだろ」

 それは蚊帳の外にいるからこその発言だった。MSB隊員に対し、魔法少女を倒して当たり前という意見はネット上で幾度か目にしたことはあった。むかっ腹が立ったが、純子に「ネット世界ではよくあること。気にしたら負けだ」と慰められたことでどうにか矛を収めた。

 しかし、面と向かって言われるのならば話は別だ。拳をぐっと握りしめる。


 同時に、とある懸念が頭をよぎった。それは原田に同情酌量の余地があるか問いかけるものでもあった。刹那は努めて冷静を保ちつつ切り出す。

「もしかして、分かってないわけじゃないわよね。あなたがどうして魔法少女に襲われているか」

「そんなん知らねえよ」

 即答され、刹那は開いた口が塞がらなかった。見限ろうともしたが、未だ信じたい思いがあるのも事実だ。


「質問を変えるわ。あなた、あの事故についてはどう思ってるわけ。まさか、白を切るわけじゃないわよね」

「把握してたのかよ」

 チッとこれ見よがしに舌打ちする。しばし言い淀んでいたが、あっけらかんと諸手を広げる。


「あれは仕方ねぇだろ。ちょっとわき見をした時にぶつかったんだから。事故だよ、事故」

 まるで他人事のような口ぶりであった。確かに、意図的に起こしたのではないかもしれない。しかし、後悔など微塵も感じさせなかった。


 あくまでも憮然とする原田。そんな彼に、刹那は強く拳を握りしめた。今からやろうとすることはMSBとしては完全にご法度だ。どうにか誤魔化せるとかそんなのはどうでもいい。うつむき、無言のまま原田へと近づいていく。こんな、こんな奴のために命を張ったのか。刹那は大きく拳を振り上げる。


 鈍い音が響く。それにより刹那は我に返る。陳腐な言葉を使うのなら、今のは殴打音だ。それも、本気で殴りつけたような。だからこそ不可解だった。なぜなら、刹那はまだ行動に出ていないのだ。

 尻餅をつき、殴られた頬をさする原田。赤く腫れあがっており、ガチガチと歯を震わせている。泳いでいる眼は、あるいはターボババアを前にした時以上の動揺を現していた。


 そんな彼を前に仁王立ちしている存在。それはマシュであった。


 無駄口の一つでも叩きそうな彼女だが、ひたすら無言を貫いていた。その異様さに原田は空笑いをする。マシュはゆっくりと歩みを進めると片手をあげる。能面でも被っているかの無表情に、刹那もまた虚を突かれたように停止していた。

 とはいえ、いつまでも呆けてはいられなかった。我に返った刹那はマシュの拳を両手で握る。

「どいて、せっちゃん」

 冷たくあしらう声。マシュから発せられたとは到底信じられなかった。


 その迫力に刹那は気おされそうになる。だが、指先に力を込める。

「あんた、自分が何をやっているか分かってるの。これ以上やったら、本気であんたを倒さないといけなくなるのよ」

 刹那やマシュが自我を失い、他の隊員に危害を加える事態となった場合。その時は即刻殺害せよとの命令が下されている。原田は隊員ではないのだが、護衛対象である以上、隊員の範疇に含まれなくもない。


 手先だけでマシュを止められる。端からそんな期待はしていなかったのだが、想像以上に抗う力は強い。少しでも気を緩めるとすぐに振りほどかれそうだった。

 一体何がマシュの激情を誘発したのかは分からない。ともあれ、本気を出してでも制止させないと取り返しのつかないことになる。


 マシュはしかめ面をすると、握られている腕に力を入れる。その勢いに押され、ついに刹那は振り払われる。拘束が解かれたことで、一気に原田との距離が詰められる。もはやなりふり構っていられず、刹那はマシュを抱きしめるように止めに入った。

「どうして邪魔するのさ」

「こいつを許せない気持ちは分かる。でも、あんたがやろうとしていることは許されることじゃない。それに、こいつを殴ったところで何になるっての」

「無意味なのは分かってるよ!」

 マシュは声を張り上げる。気おされ、彼女を放しそうになるが、寸でのところで押しとどまった。

「だけど、だけど、どうしても堪えられないんだよ」

 マシュの顔には苦悩が浮かんでいた。まるで、自我とは無関係の意思に操られているかのようだった。


 暴力の危機に晒され、腰を抜かしていた原田。しかし、マシュが攻撃を仕掛けてこないと分かると、徐々に高飛車な態度を取り戻していく。

「ハ、お前ら自分が何をしてんのか分かってんのかよ。俺は護衛対象だろ。なのに、俺を怪我させたなんて知られたらまずいことになるんじゃないか」

「まあ、まずいことになるでしょうね」

 刹那があっけらかんと言い放つ。そのあっさりとした物言いに、原田は乾いた声を出す。追い打ちをかけるように刹那は言葉を続ける。

「でも、私たちはS班。元から央間支部のはみ出し者みたいなものなのよ。そんな奴らが今更問題を起こしたところで、お上は真剣には取り扱わないでしょう。まあ、誤ってあなたを死亡させたのならともかく、ちょっと怪我させたくらいだし」

「だからって、お前」

「その程度なら、魔法少女との交戦中にミスって怪我したってことにすれば、さしたる問題にはならないわ。それとも、これ以上問題ごとを起こそうとするなら、こっちにも考えがあるわよ」

 刹那は倶利伽羅丸を差し向ける。もちろん、本気で一般人である原田をどうこうするつもりはない。


 けれども、脅しは効果的だったようだ。いくら強気な態度をとろうとも、単純な力の差ではどちらが上かは明白だ。それに、原田にとっては多勢に無勢な状況。まだ反論したそうに口を動かしていたが、舌打ちをして地面を拳で叩いた。


 マシュもまたやり場がなさそうに拳を握っていたが、やがて力なく手のひらを広げた。そして、原田を見下すとぼそりと呟く。

「あんたみたいのがいるから、みんな友達になれないんだよ」

 マシュとは付き合いが長いわけではない。それでも、刹那にとってそれは彼女の口から出たとは思えないほどの冷たさを含んでいた。


 原田を殴ったことはともかく、さすがに車一台をお釈迦にしてしまったことは報告しないわけにはいかない。本部からレッカー車と代車を手配してもらい、刹那たちは帰路へとつくのであった。

 激戦の後ということもあり、車内では口数は少なかった。尤も、戦闘による疲労のせいばかりではないが。

「先輩、本当にあの魔法少女を倒してよかったんスかね」

「そこに疑問を持ったら、この仕事はやっていけないわよ」

 六花に釘を刺すが、刹那もまたしこりを残す結果となった。


 魔法少女ターボババアは正式に死亡が確認されたため、作戦自体は成功といっていい。とはいえ、謎の魔法少女テミスやベルから告げられた言葉はずっと胸の内に留まっているのであった。果たして、魔法少女ターボババアは倒すべき存在だったのか。

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