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魔法少女バスターズ&フレンジャーズ  作者: 橋比呂コー
File8.車輪の魔法少女
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刹那の気持ち

 テミスの身体能力が並みの魔法少女を超越しているのは十分承知。末恐ろしいのは、これといった特殊能力を覗かせていないことだ。デッドリーパーのように単純に身体能力が高すぎるパターンも考えられるが、楽観論は通用しないだろう。


 現状判明しているのは、刹那やマシュを圧倒できるほどの攻撃力のみ。防戦に回っては不利。ならば、短期決戦で仕留めるのみ。

 刹那の思惑を察したのか、マシュはテミスへと触手を伸ばす。あわよくば両腕を拘束しようとする。だが、テミスは巧みに錫杖を操り、触手を退けていく。簡単に往なされたことでマシュは舌打ちする。とはいえ、さほど気にすることはない。本願は別にある。


 テミスはあくびをかみ殺す思いだった。申し合わせていたようだが、仕掛けてきたのは単調な打撃。こやつらを危惧するのは買い被りすぎだったのでは。

 ふと、急接近してくる影を捉え、テミスは脇腹を反らす。ちょうどその間隙に刹那の倶利伽羅丸が差し込まれた。


 マシュに気を取られているうちに刹那が攻撃を決める。典型的な連携ではあるが、すんなりと通る相手ではなかった。

 もちろん、一発で決められるとは思ってはいない。刹那が仕掛けたのを契機に、今度は倶利伽羅丸の応酬が繰り広げられる。そちらに対処している間にマシュは触手を打ち付けようとする。だが、物のついでで防がれてしまう。


 刹那とマシュが交互に攻撃を仕掛けるものの、ろくに有効打が通らない。両者ともに、三下の魔法少女であれば単独撃破できるぐらいの実力を備えている。それが同時に挑んでいるのに、テミスは表情一つ変えないのだ。

 唯一の突破口は、さすがに防戦一方となっていることだろうか。このまま攻め続けられれば、いずれは手傷を負わせられる。


 そんな希望を抱いたのだが、テミスは真っ向から粉砕した。刹那の倶利伽羅丸を腕で受け止める。擦過傷によりたらりと流血する。ようやく明確なダメージを与えられた。刹那は安堵の表情を浮かべる。

 そのままマシュが追撃を加える。そう思われたのだが、テミスは触手をつかみ取り、それどころか倶利伽羅丸を押しのけた。


 流血するほどの傷を負ってなお、これまでと変わらぬ動きができる。堂々とした顔色も健在だ。異様ともいえる佇まいに、刹那とマシュの方が気おくれする。これまで防御一辺倒だったのに、逆にテミスの方が攻め込んでいる錯覚すら覚えるのだ。

「一体どういうことよ。あいつ、ダメージらしいダメージを受けていないじゃない」

 刹那が泣き言をこぼす。すると、テミスは腕の血を舐めとる。逆再生しているかのように傷が治療されていく。


 困惑している二人をよそに、テミスは不敵に錫杖を地面に打ち付ける。

「我はベル様を守りし盾にして、すべての人間に粛清を下す者。そのために賜ったのが屈強な肉体である」

「まさかあんた、やたらと防御力が高いとか、そういうんじゃないでしょうね」

「多分、そうだと思うよ。触手で殴った時、鉄を殴ってるみたいだったもん」

 能力の全貌がはっきりしたわけではない。ただ、確かなのは、異常なまでに防御力が高いということだ。


 わざわざ能力を明かしてきたのは余裕の表れか。それとも、油断させる策略でもあるのか。いずれにせよ、厄介なことには変わらない。二人がかりでろくにダメージを与えられてないのだ。正直、刹那とマシュでは突破するのに力不足。六花たちと協力して袋叩きにして倒せるかどうか。


 どう戦うべきか思案していると、テミスは刹那を指差した。

「いつまでもったいぶっておる」

 脈絡のない発言に刹那は首をかしげる。別に手加減をしているつもりはない。返答に困窮していると、テミスはちらりと歯をのぞかせた。

「あの力は使わないのか」

 瞬間、刹那は理解すると同時に把握した。


 よもや、デッドリーパー戦で披露することとなったあの力のことを言っているのではあるまいか。そもそも、刹那とテミスはこれが初対面のはずである。なので、刹那の手の内を知っているはずがない。

「あの力って、何のことかしら。私にこれ以上を期待しているなら、悔しいけど過度な望みはかけない方がいいわよ」

 実力不足を認めるのは癪だが、カマをかけてみる。すると、

「白を切るつもりか。まあ、我らが貴様らの動向を把握しているなど夢にも思わんだろうな」

 と、誇らしげに言い返してくる。


 眉をひそめつつ、刹那は次の行動を決めあぐねていた。テミスに勝てる可能性が残されているとしたら、奴の言うあの力をおいて他にない。しかし、力を発揮できる条件が分かっていないのだ。それに、使えば詩亜と同じく自我を失う。バックボーンがマシュしかいない現状、発動させるにはリスクが大きすぎる。


 一方で、煽ったものの特に動きを見せないことで、テミスはつまらなそうに鼻をならした。先の交戦である程度の実力は理解した。彼女が期待していたのはその先であったのだ。けれども、底が知れてしまったというのなら用は無い。

 テミスが地面を蹴って急速接近する。感づいたのはマシュだ。触手をクロスして盾となる。

「できれば我としても同朋を倒したくないのでな。そこをどいてもらおうか」

「私も友達を失いたくないかんね。そっちこそどいてもらおうか」

 互いに張り合うものの、真っ向勝負ではマシュの分が悪すぎる。重圧に耐えきれずに膝を折ったのを機に、そのまま押し倒されてしまう。


 刹那はとっさに倶利伽羅丸を抜刀した。以前ならば考えられない行動だった。魔法少女同士でつぶし合いなど、願ってもない状況だったはず。なのに、無意識のうちにテミスに切りかかろうとする。

「急くなよ」

 だが、蛇に睨まれたカエルのように足がすくんでしまう。よもや、臆したというのか。頭を振って倶利伽羅丸を握りなおすも、テミスの周囲に不可視の結界でも張られているかのようだった。単純な一撃すら繰り出せない。


 そして、体重をかけられて押しつぶされているマシュは苦悶の声をあげる。高い再生力を誇るのと、テミスのような屈強な体を持っているのとでは話が別だ。テミスが本気になれば、マシュの外見と同じくらいの少女を軋轢させることすら容易だろう。助けを求めようとも、気道が圧迫されて声が出せない。

 棒立ちしている刹那はテミスの蛮行を眺めていることしかできなかった。まただ。また目の前で大切なものを失ってしまうのか。


 すると、突如として胸の内にあついものがこみあげてくる。この感覚には覚えがあった。デッドリーパーと戦った時。六花が目の前で殺されかけた時も、急に似たような感覚に襲われたのだ。激しい眩暈により、立っているのもやっととなる。

「ま、マシュを」

 絞り出した声は自分でも驚くほど冷たかった。そして、その声音はテミスの攻撃の手を緩めるほどであった。


「マシュを、放せ!」

 テミスの肩から血飛沫がほとばしる。いつの間に斬られたのか。いや、切断まで至らなかったものの、一瞬のうちに大きく割れるほどの傷をつけられたというのがテミスにとって信じられなかった。


 たまらずマシュから手を放して立ち上がる。傷口を手で押さえるが、なかなか出血が止まらない。テミスの顔に初めて明確な困惑が浮かんだ。後に尾を引く傷など、彼女にとって初めてだった。魔法少女相手ならともかく、ただの人間がこんな威力を発揮するなど。


 ありえない。現実逃避をしようとしたものの、眼前に広がる光景に釘付けになる。そこで歓喜の方が勝った。やればできるではないか。

 刹那の右腕は剣と一体化し、MSBの隊服から切腹を施すような白装束へと変わっている。ようやく圧迫されたマシュもまた刹那の姿を目撃する。そして、浮ついた声を出した。

「せっちゃん、またその姿になれたんだ」

 今の刹那は魔法少女刹那というべきか。異形と化した少女が大太刀を振るう。

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