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原田巧との邂逅

 来客を告げる軽快なメロディが鳴る。背丈の高いがっちりとした体格の男だった。いわゆる体育会系であろうか。肉付きから何らかのスポーツをやっていることは察せられる。

 事前情報を仕入れていたからかもしれない。髪を染めているだけだが、どうにも軽薄そうな印象を拭い去れない。


「もしかして君たちかい。俺を護衛してくれるMSBの女の子たちって」

 さすがにMSBの隊服は目立ちすぎるので、コスプレグッズとして流通している一般的なセーラー服を着用している。それでも、女子高生四人の集団という事前情報が与えられていたら探し出すのは容易だろう。

「そうよ。原田巧、さんよね」

 刹那は言いなおすように敬称をつける。護衛対象に探りを入れていると悟られたらおじゃんだ。あくまで平静を保たねばならない。


「そうそう。いやあ、驚いたよ。俺が魔法少女に狙われてるなんて、いきなり警察から電話があったからさ。でも、こんな可愛い子たちとお近づきになれるなんて、逆にラッキー的な」

 キザにウィンクを投げつける。見た目に違わず軽薄そうな男だ。品定めするかのように刹那たちを見まわしていたのだが、ふと一点に視線が固定された。


「へえ、君が噂の魔法少女だろ。ニュースになってたやつ。デッドリーパーを協力して退け、MSBに特別隊員として入隊したって。えっと、マシュだったっけ」

「うん、そうだよ」

 マシュにしては淡白な対応だった。彼女のことだから、彼に悪ノリしてもおかしくはない。

「魔法少女を実際に見るのは初めてだが、普通の人間と変わらないんだな。ニュースで見る奴は化け物みたいな恰好してるけど」

「個体に依るわね。マシュみたいに一見して普通の人間と変わらない奴も中にはいるわよ」

 そのマシュも触手を引っ込めているから違和感がないだけである。動物園の珍獣扱いされているのが気に食わないのか、マシュはそっぽを向いている。


「えっと、君たちは」

「神崎刹那よ」

「倉間六花ッス」

「宍戸詩亜、です」

「そうか、刹那ちゃんに六花ちゃんに詩亜ちゃんか。よろしく」

 簡潔に自己紹介を済ませると、原田は破顔して握手を求めてくる。刹那が表情を崩さず握り返しておいた。


「勘違いしないでほしいけど、あくまで魔法少女があなたを狙っているから、その護衛として一緒に行動するだけ。魔法少女を討伐したらそれまでだから」

「分かってる、分かってる。合コンに来てるわけじゃないって、それぐらいの分別はあるって」

 本当に分かっているのだろうか。「お腹空かない?」と言いつつ勝手にフライドポテトを注文している。


「それで。俺を狙っているのはターボババアとかいうやつだっけ」

「ええ。聞き覚えはない?」

「そんな都市伝説みたいなのは大学のダチが話してた気がするな。車を運転してると、横からババアが追い抜いていくってやつだろ」

「都市伝説の方のことを言っていると思うンすが、おおむね正解ッス」

 実際のところ、ターゲットとしているのはババアではない。そうこうしていると、注文していたフライドポテトが運ばれてきた。「食うか」と誘われ、真っ先にご相伴に預かったのはマシュだった。


「俺のことを護衛するにしても、四六時中一緒にいるってか。俺は別に構わんが」

 意味ありげに白い歯を光らされ、刹那たちは己が身を抱き寄せる。MSBに同年代の男性は皆無とはいえ、貞操観念は失ってはいない。

「魔法少女をおびき寄せる方法は分かっているの。あなたにはそれに同行してもらうだけ。魔法少女を討伐できればそれでお終いよ」

「つまり、俺はエサってわけかよ。ひっどいな」

 口ではそう言いつつ、ポテトを一つまみする。魔法少女に狙われるとはどういうことか自覚があるのだろうか。いや、一般人にとって魔法少女との戦闘は液晶越しの出来事でしかない。いきなり当事者になって気を引き締めよと命じられたところで応じられないのは無理からぬことだ。


 その後、刹那から作戦の概要を説明されるのだが、そこで初めて原田は難色を示した。特に、「車を高速走行させておびき出す」の辺りだろうか。話半分に食べていたポテトがピタリと止まったのだ。

 ひととおり説明が終わると、原田は右手を挙げた。

「一つ質問していいか。車は誰が運転するつもりなんだ」

「あなたに運転してもらうのがベストね。私たちはターボババアとの戦闘に集中したいし」

「まあ、そうなるか。けれども、無理な相談なんだよな」

 唸りつつ、後頭部をひっかく。ポテトを咀嚼しているわけでもないのに、唇をもぞもぞと動かしていた。


「ぶっちゃけると、俺、免許持ってないんだわ」

「そうなの!?」

 原田の暴露にマシュは意外とばかりに身を乗り出した。純子の部屋で女子会をした際に「運転免許は大抵の大人は持っている」なんて話をしたからだろうか。最近は若者の車離れが叫ばれているから、所持していなくても不思議ではないのだが。


 正直なところ、原田が運転できないのは痛手であった。戦闘に加わる人員が変わることで、作戦の難易度が左右される。とはいえ、この事態も織り込み済みだったりするのだが。

「仕方ないわね。運転はまた詩亜に頼もうかしら」

「えぇー、大丈夫かなぁ」

「マシュ、露骨に心配したら失礼ッスよ」

 「めっ」と六花はマシュに人差し指を向ける。当然のごとく、原田の疑惑の視線は詩亜に突き刺さった。

「君が運転、ね。大丈夫なの?」

「が、が、がんばり、ます」

 普段から緊張しいだが、露骨に焦りが出ているようだった。そんな詩亜の不安が伝播したわけではないだろうが、原田は憮然と肩をすくめた。


「正直、車にはいい思い出がないんだよ。少し前にも俺のダチが車で事故ったって言ってたし」

「その人、大丈夫なんスか」

「六花。あまりプライバシーに踏み込むもんじゃないわよ」

 刹那に窘められ、六花は「ごめんス」と頭を下げる。「いいって」と原田は笑みを浮かべていたが、その表情には陰りがにじみ出ていた。


 作戦決行の日時を打ち合わせ、その日は一旦お開きとなった。護衛を称するなら、原田と同行するのが筋だろうが、ターボババアは車で走行しないと現れないのは分かり切っている。さすがに、進んで不純異性交遊をしようという輩は刹那たち一同の中にはいなかった。


 刹那が会計を済ませようとすると、横から財布を振られて遮られた。

「せっかく護衛してもらえるんだ。せめて、ファミレス代くらいご馳走させてくれよ」

「あなたが言うなら、ご馳走させてもらおうかしら」

 あの後、結局ポテトのほかにジュースやらピザやらを注文したのだ。ピザはマシュが露骨に欲しそうにメニューをチラ見していたせいなので、あとでお仕置きしておかなくてはなるまい。

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