純子と合流
もやもやした気分になりながらも、刹那はスマートフォンを手に取る。六花とマシュがバカ騒ぎして迷惑をかけていないとも限らないのだ。通話ボタンを押そうとして、不在着信があったことに気づく。
「六花から。どうしたっていうのよ」
かけなおすと、スリーコールの後につながった。
「もしもし、先輩ッスか。ちょっと聞きたいことがあるッス」
「どうしたというのよ。くだらないことじゃないでしょうね」
「美水先輩について教えてほしいッス。詩亜ちゃんに聞かれたんスけど、正直私じゃよく分かんないス」
「純子ね。確かに、あの子は私以外とあまり交流を持っていないからな」
不夜城の主と評されているぐらいだ。純子の交流関係の狭さは容易に察せられる。
「既に把握しているだろうけど、一応S班に所属することになったと教えておく必要があるわね。ついでに、マシュや詩亜もきちんと紹介しておきたいし」
「先輩、私は?」
「あんたは別に、なんかおまけで付いてきたぐらいでいいでしょ」
「私に対する評価、雑すぎないッスか」
悲鳴をあげる後輩を無視し、純子の部屋の前での集合を取り付ける。通話を終了するや、刹那は財布とにらめっこした。
最近、何かと純子のお世話になることが多く、正直余裕はない。でも、今回は六花たちがいるのだ。後で代金を請求しておけばいいだろう。心もとなく残っている小銭を握りしめると、購買へと足を運ぶのだった。
刹那が合流した時には、既に三人が勢ぞろいしていた。六花とマシュが与太話をしているそばで、詩亜が所在無さげにしている。
「ようやく来たッスか。遅いッスよ、先輩」
「純子と面会するのは色々と面倒なのよ」
「お土産? せっちゃん、気が利くね」
「あんたのじゃないわよ。欲しかったら」
そう言って指で丸を作る。外国だと意味合いが全く違うと聞いたことがあるが、きちんとマシュに伝わっただろうか。あざとく小首を傾げているから無駄だったろうなと、刹那は諦観した。
背中に圧を感じつつも、刹那は扉をノックする。
「サレイシ、キモッタテ」
「入れ」
合言葉を言うと、間髪入れずに返答と鍵が開く音がした。
「アリババと四十人の盗賊みたいなシステムになってるッスね」
「なんだっけ、それ。王様の耳はロバの耳と叫ぶと扉が開くやつだっけ」
「裸の王様と混ざってるッスよ」
「あんたら、純子の気が変わらないうちにさっさと入りなさい」
刹那に促され、六花たちは続々と入室する。
一人部屋に少女五人が集結するというだけでもかなり手狭だ。加えて、薄暗い室内には本やらお菓子の袋やらが散乱している。腰を下ろしたいが、物理的に棒立ちを余儀なくされている状況だ。
「少しは片付けなさいって言ってるでしょ、純子」
「君以外の隊員が訪問してくるなんて予想外だったからね。まあ、適当にかき分けて座りなよ」
「難しそうな、本が、いっぱいですね」
詩亜の周りにはコンピューター関連の専門書が無造作に置かれていた。タイトルからして理解するのが難しそうだと分かる。
テーブルに刹那が買ってきたお菓子を並べつつ、五人はどうにか地べたに座る。座布団などという気前のいい物が用意されているわけはない。
「よーし! S班発足を祝して、かんぱーい!」
マシュが勝手に仕切っていることに疑問を覚えつつも、刹那たちも乾杯を交わす。もちろん、中身は清涼飲料水だ。
無遠慮にポテチを貪るマシュを横目に、純子は頬杖を突いた。
「少数精鋭部隊が編制されるなんて、ボクとしても予想外だったよ。おまけに、メンバーに魔法少女を加えるなんてね」
「せっちゃん、この子が残りの班員なんだよね。えっと、純子ちゃんだから、じゅんちゃんでよかったっけ」
「じゅ、じゅんちゃん」
面食らったように言葉を詰まらせる純子。不覚にも刹那は吹き出してしまった。
「刹那。笑ってないで、きちんとボクのことを紹介してくれよ」
「自分で名乗ればいいでしょうに。まあ、あんたがそういうタマじゃないのは分かっているから、紹介しておくわ。美水純子。ネット検索のエキスパートで、魔法少女の情報収集でお世話になってるわ」
「よく先輩が電話している相手ッスよね。会うのは多分初めてッス。私は倉間六花。刹那先輩の優秀な右腕ッス」
「自分で優秀とか言う?」
「私はマシュだよ。せっちゃんの優秀な左腕なんだ」
「張り合わなくていいから」
「えっと、宍戸詩亜、です。刹那先輩の、えっと、両腕、です」
「頑張ったところ申し訳ないけど、これ、大喜利じゃないからね」
膝を抱えてうずくまってしまう詩亜。不覚にも頭をナデナデしたくなる刹那だった。
「それにしても、S班とは。お上も面白いことを考えたね」
「笑い事じゃないわよ、純子。うまいこと言って厄介払いをしたかっただけじゃない」
「そうなの」
「驚いているところ悪いけど、主な要因はあんただからね」
とぼけながらパフェを頬張っているマシュを指差す。「さっきスナック菓子食べてたッスよね」と六花が白い眼をしていた。




