S班発足
「S班はいわば遊撃部隊だ。A班、B班とは別で行動し、独自任務にあたってもらう。そして、少数精鋭をモットーに班員を決定した。これより発表する」
一呼吸おいて、矢継ぎ早に名前を読み上げる。
「神崎刹那、倉間六花、美水純子、マシュ。そして、ここにいる宍戸詩亜。以上の五名だ」
「ちょっと待ってください。いきなりS班って。それに、六花や純子はともかく、マシュや新人と一緒なんて訳が分かりません」
「君が抗議したくなる気持ちもわかる。だが、これはお上からの決定事項なのだ。君の性格上、少数精鋭部隊の方が本領を発揮しやすいだろう」
「それはそうですが」
「それと、S班の隊長は神崎刹那、君に任命する」
怒涛の勢いで押し寄せる予想外の事態に、刹那は拳を握るのが精いっぱいだ。
確かに、班員が誰だろうとどうでもいいとは思ってはいた。だが、全く新しい部隊に異動させられるなんて話が違う。それに、人選からして含みがあるに決まっているのだ。
「あと、誤解を訂正させてもらうが、宍戸隊員は新人ではない。彼女は別の支部に所属していたが、訳あって当支部へと転入することとなった。実力について『は』折り紙付きだから安心したまえ」
妙に大げさに「は」を強調するものだから、当事者以外でも訝しんでしまう。最も新人らしい態度をしている彼女が太鼓判を押されるなど想像できないのだ。
「質問については後で個別に受け付ける。最後に、新しく我らが部隊に所属する隊員たちに自己紹介をしてもらう」
西代長官に促され、一人ずつ名前と軽い自己PRが発表される。隊員に選ばれるだけあり、一様にはきはきとした態度だ。自己紹介が終わるたびに拍手で迎え入れられ、遂に問題の少女の番となる。
衆目を一度に浴び、詩亜は小動物のように体を震わせる。庇護欲すら沸き起こる彼女が本当に長官のお墨付きなのだろうか。
「あ、あの、えっと、宍戸、詩亜です。よろしく、お願い、します」
消え入りそうな声でたどたどしく挨拶をする。勢いよくお辞儀をするとまばらな拍手が送られた。
連絡事項が伝えられ解散の運びとなった。だが、刹那たちは連れ立って西代長官へと詰め寄った。
「どういうことですか、S班って。まさか、命令違反を繰り返している当てつけじゃないでしょうね」
「自覚があるなら改善したまえ。建前としては新たに遊撃部隊を設立することで、より柔軟に魔法少女に対処できるようにするためだ。だが、君にマシュというイレギュラーが発生してしまったんだ。そう考えればお上の真意が分かるだろ」
「ああ、そういうことね」
「どういうこと? ちゃんと言ってくれないと分かんないな」
「分かんない方がいいわよ。気分がいいことじゃないから」
「先輩、私も分からないッス」
「あんたは分かりなさい」
六花に軽くチョップする。刹那やマシュに下された処分は「引き続き隊員として活動に邁進されたし。ただし、他隊員を害する事象が認められた場合は即座に殺害せよ」である。面倒ごとを避けて異物同士でまとめておきたかったのだろう。
「結果はどうあれ、私は先輩と一緒の班になれて嬉しいッス」
「私もだよ。せっちゃん、よろしくね」
「あんたらは能天気すぎない?」
無弱に手を握り合っている両者に刹那は頭を抱える。どうにかはけ口を探そうと、刹那は詩亜へと視線を移す。
「宍戸詩亜とか言ったかしら。まあ、よろしく」
「あ、はい。よろしく、です」
そこからしばらく沈黙が流れる。別に好きで黙っているわけではない。両者の性格を考慮すれば当然の結果といえた。
「詩亜ちゃんか。うーん、しーちゃん。悪くはないけどしっくりこないんだよな」
「無理にあだ名をつけないでも、しあちゃんでいいじゃないッスか。あ、そうそう、私は六花。そんで、この子はマシュッス」
「マシュだよ。よろしくね~」
「え、えっと、よろしく、です」
為されるがまま、マシュに手を握られる。刹那にとってこの心の詰め方は嫉妬さえ覚えるほどだ。二人から質問責めにされ、たじたじになっている詩亜。刹那に助け船を求めているようだったが、正直力になれる気がしない。
蚊帳の外になっていた刹那だったが、西代長官がこっそりと手招きをした。
「君の魔法少女化事象についてだが、是非とも話をしたいと言っている方が訪問してきているんだ。しばらくここに残ってもらえないか」
「嫌だと言いたいところですけど、長官命令ですよね」
肩を落とす刹那。仕方なしに長官の意に従ってやろうと、マシュたちに声をかける。
「あんたら、ここは談話室じゃないのよ。詩亜と話がしたいなら食堂にでも行きなさい」
「じゃあせっちゃんも一緒に行こうよ」
「そうッスよ」
「同伴したいのはやまやまだけど、長官が私に話があるっていうのよ」
「まさか、話って」
「邪推してないでさっさと行け」
六花にデコピンを繰り出し、指令室から追い出す。何をどう曲解したら長官とそういう関係になると想像できるのであろうか。もちろん、六花の冗談に決まってはいるが。
「よーし、しあちゃんの歓迎会だ。ケーキとか色々買ってこないと」
「さっき朝ごはん食べたのにまだ食べるッスか。胸やけしそうッス」
「お菓子は別腹ってやつだよ。さあさ、レッツラゴー!」
「お、おー!」
マシュに無理やり拳を掲げさせられ、詩亜はたどたどしく掛け声をあげる。やかましい奴らがいなくなり、指令室は嘘のように静まり返るのだった。




