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魔法少女バスターズ&フレンジャーズ  作者: 橋比呂コー
File6.手腕の魔法少女
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やはり刹那の早朝ラブコメは間違っている

 その日、刹那はうなされていた。やけに体が重い。漬物石にでものしかかられているようだった。いや、妖怪子泣きじじいか。そんなことはどうでもいい。重要なのは、金縛りに遭っているということなのだ。


 おまけに、暑苦しい。まだ寝苦しい季節にはなっていないはずだ。朝の空気は肌寒いくらいである。なのに、どうして寝汗をかかなくてはならないのか。

 それに、単に暑苦しいだけならマシだったかもしれない。妙に生温かいのだ。間違ってかけ布団を多くかけてしまった。そんな間抜けでは現状を再現できまい。もっと別の要因が刹那の身に降りかかっている。


 どうにか、自由になっている手で布団を振り払う。それでも生温かさは解消されない。何が悲しくて朝一番に怪奇現象と向き合わなくてはならないのか。イラつきながらもはっきりと目を開ける。


 ようやく己の身に降りかかっていた珍事を把握した。

「おい、マシュ。何やっている」

 ぶっきらぼうに糾弾すると、犯人はのんきに大あくびをした。


「おはよ、せっちゃん。いやあ、いい朝だね。あれ、顔が怖いよ」

「誰のせいでそうなってると思っているのよ」

 とぼけつつもなお、マシュは刹那に密着している。なんのことはない。マシュが刹那の掛布団と化していたのだ。


 もちろん、魔法少女を掛布団にするなんて悪趣味を刹那は持ち合わせていない。自分で招き入れたなんて説も論外だ。なので、これはマシュの独断による珍事と断定できる。

「マシュ、あんた別の部屋で寝ていたはずでしょ。どうして私の布団に潜り込んできているのよ」

「せっかく友達になれたんだから、親睦を深めようと思って。前に読んだ本で同じようなことやってたよ」

「どうせ恋愛漫画とかでしょ。現実にそんな気持ち悪いことするやつなんていないわよ」

 意中の相手のベッドに侵入するのはラブコメの定番シチュエーションだが、現実にやる奴がいるかと言われるとかなりの少数派だろう。やるとしても「意中の相手」が前提であり、ふざけ半分でやられても悪質ないじめか、お笑い芸人のネタにしかならない。


「っていうか、熱いからいい加減離れてくれない」

 ひっぺがそうと刹那は手を伸ばす。途端、ムニュという不可思議な感触が伝わってきた。まったくの未知というわけではない。一応、触ったことはあるからだ。ただし、それは自分のものであり、他人のものではない。


「もう、せっちゃんのエッチ」

 ツンと額を弾かれる。刹那の中で何かがぶち切れた。

「ふざけんじゃないわよ! このエロ魔法少女!」

「ええ!? 被害者はこっちなのに。理不尽だよ」

 不平を訴えつつも、ようやくマシュは刹那の布団から離脱する。しっかりと胸を庇っていたが、かえって刹那の怒りの導火線に火をつけるだけだった。


 マシュもMSBの一員と認められたことで個室があてがわれた。だから、宿無しというわけではない。とはいえ、そもそも睡眠を必要としないと漏らしていたはずだ。ならば、夜間に襲撃してくる可能性を考慮すべきだった。


 南京錠を幾重にもぶらさげておかないといけないかしら。そんなことを平気で考えながらも刹那はジャージのズボンに手をかける。そのまま脱ごうとして停止した。

「あのさ。じっくりと見られると着替えにくいんだけど」

「いいじゃん、女同士だし」

「節度ってもんがあるのよ。いいからあっち向いてなさい」

「着替えぐらい一瞬でできるのに」

 文句を言いつつ、マシュは指を鳴らす。すると、ネグリジェ姿だったはずが、あっという間に隊服へと早変わりしていた。確かに言葉通り一瞬で着替えている。


「あんたのそれ、どうやってるのよ。手品ではないのよね」

「多分、せっちゃんもできると思うんだけどな。前に変身してたじゃん」

「それについては触れないでくれる。本当に覚えがないんだから」

 刹那が魔法少女に変身したという事実は対外的にはかん口令が敷かれている。しかし、隊員内にはあっという間に広まり、嫌になるくらい質問責めにされた。しかし、自覚がないことを尋ねられても「うっさい」と存外に扱うことしかできない。


 こんな調子では着替えることすらままならないので、刹那はマシュをとっとと追い払う。

「つれないなぁ。仕方ないから食堂で待ってるね」

 ようやく退出してくれた時には訓練を受講した後ぐらいの疲労が襲ってきた。恐ろしいのは朝礼もまだ済ませていないという事実だ。

「あいつ、毎日のように来るつもりかしら」

 嫌な予感を覚えつつ、隊服のスカートに足を通す。今度と言わずに早急に南京錠を購入しなくてはならなそうだ。まったく嫌になる。それはマシュの行動にばかりではない。別に本気で嫌だと思ってはいない自分自身に対してもだった。

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