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VSバーニングレッド

 魔法少女用の武器を装備し、移動用のマイクロバスへと乗り込む。緊急車両扱いされているため、国道を猛スピードで突っ切っていく。車内では、専用のスマホにて魔法少女の通報情報が共有されていた。

「炎を操る魔法少女。ド直球に危ない奴ね。コードネームはバーニングレッドか。しかも、周辺家屋が炎上中。これは早急に倒す必要があるわ」

「永藤隊長、いつもの作戦で行きますか」

「そうね。とりあえずは相手の実力を見極める必要があるから、パターンAで行くわよ」

 他の隊員が戦法を練る一方で、刹那は倶利伽羅丸を握りながらじっと窓の景色を眺めていた。


 現場が近づくにつれ、けたたましいサイレンの音が鳴り響いてくる。もうもうと煙が上がっており、車内に熱気が流れ込む。

「この先は規制により車では進めそうにないな。停車後、機動隊に合流。その後はパターンAにて配置につけ」

「了解」

 車を運転していた西代長官の命令を受け、隊員たちは声を揃えて返事をする。そして、停止するや颯爽と車外へと飛び出していった。


 魔法少女が暴れている現場はまさに凄惨の一言だった。郊外の商店街だったらしく、一軒家が軒並み燃やされている。消防車が出動しているのだが、魔法少女に接近できないために消火活動が滞っているようだ。とりあえずは火の元をどうにかしないと、二次被害が広がる一方だ。

 負傷者は出ているものの、一軒家の住人たちの避難はあらかた完了しているようである。機動隊員と対面すると、敬礼の後現状報告を受ける。

「お疲れ様です。目標の炎の魔法少女、バーニングレッドはかなりの難敵のようです。我々も攻めあぐねています」

 指さす先には問題の魔法少女が佇んでいた。


 炎の魔法少女と称されるように、燃え盛るような赤髪が特徴的な少女だった。両手には炎が宿っており、掌底を広げると火の玉を発射する。自身も燃えているにも関わらず、赤いへそ出しドレスは一切焦げた様子はない。

「燃やす、燃やしてやる」

 うわ言を呟きながら徘徊している。バーニングレッドを守るように炎が上がっており、接近することすらままならない。


「みんな、配置について」

 永藤隊長を先頭に、隊員たちはバーニングレッドを取り囲むように散開する。いつもであれば魔法少女にギリギリまで接近することもあるが、今回は一定の距離を保っての展開となる。

「どんな相手だろうと必ず死角が存在する。そこを一気に叩くわよ」

 走りながら永藤隊長は指示を飛ばす。バーニングレッドは「燃やす」と言いながら火の玉を放出してくる。それを回避しながらになるので、なかなか初期配置を形成することができない。


 ふと、隊員の一人が悲鳴を発した。闇雲に発射される炎と接触しそうになったのだ。隊員の制服に防火性能はないため、命中しようものなら火だるまになりかねない。

「この!」

 近くにいた別の隊員がライフル銃を発射する。とっさに撃ったにしては、きちんと魔法少女の胸を捉えているのは流石だ。

 だが、銃弾は魔法少女にまで到達することはなかった。迎撃するように炎が放たれると、銃弾が防がれた。と、いうよりも到達する前に燃やし尽くされたのだ。

「攻防一体の炎って、チートにもほどがあるわよ」

 銃撃が不発に終わった少女は地団太を踏む。飛来する銃弾を燃やす炎を扱うのだ。こんな相手、近距離戦を挑むのは愚策中の愚策。


 誰しもそう思った。しかし、及び腰になっている一同を尻目に、単独でバーニングレッドへと突貫していく存在がいた。言わずもがな、刹那だ。

「あいつ、どんだけバカなの。ライフル銃すら通じないのを見たはずでしょ」

 永藤の取り巻きが呆れるのも納得である。接近するにしても、せめて弱点が判明するのを待つのがセオリーだが、刹那の辞書に「待機」の文字などない。


 当然のごとく、バーニングレッドは炎を放ってくる。刹那は臆することなく右へ左へと受け流していく。そして、倶利伽羅丸を抜刀し、素早く振り上げる。

 切り返しの動作でバーニングレッドを一閃。これであっさりと決まるか。だが、バーニングレッドは機敏な動作で太刀筋を躱した。

「回避した、ですって」

 攻撃した当人も驚く素早さだった。RPGで例えるなら直接攻撃が苦手な魔導士タイプかと思われたのだが、いわゆる魔法戦士でもあるらしい。


 頭に血が上ったのか、刹那はがむしゃらに刀を振るう。

「刹那、落ち着きなさい。あそこまで接近していたら援護射撃もできないじゃない」

 永藤はライフル銃を構えながらも手をこまねいていた。両者ともに素早く動き回るせいで、刹那への誤射の可能性が高まってしまっているのだ。


 集団による一斉射撃の予定が、完全に刹那とバーニングレッドとの一騎打ちになってしまった。加勢しようにも、炎が障壁となって近づくことすらできない。

 そんじょそこらの魔法少女が相手であれば、とっくの昔に倶利伽羅丸の剣戟で始末できていたはずである。だが、バーニングレッドは巧みなステップで刹那の攻撃を往なし続けている。


 そして、一方的に攻め続けていたはずの刹那にも、遂に限界の時が訪れた。

「危ない!」

 永藤が声を張り上げる。一旦、バーニングレッドとの距離を取った瞬間、刹那へと火球が迫ったのだ。端から接戦を臨んでいた刹那にとって、突発的な遠距離攻撃は回避する術がない。爆炎が彼女を襲い、隊員たちの悲鳴が響き渡るのだった。



 時は、MSB隊員たちと炎の魔法少女バーニングレッドとの交戦から少し前に遡る。郊外都市の上空に不可解な存在が空中浮遊していた。

 鳥にしては容姿が異様だ。翼らしき翼を有していないのに、優雅に飛行している。そもそも、鳥類というよりは類人猿に近い。もっと言ってしまえば、どう見ても人間であった。


 ただの人間が空を飛んでいるだけでも不可解である。更に不可解さに拍車をかけていたのは肩から生えているありえない器官だった。手足とは別にうねうねと独立して動いている。比翼の役割を果たしてはいるものの、一般的な見方としては触手であろうか。

 肩からそんなものを生やしている人間とだけ聞くと、単なる化け物としか思えないかもしれない。そんな印象を中和しているのは、ひとえに彼女が麗しき少女だという事実である。


 ふわふわとしたクリーム色のショートボブを風に揺らす、ゆるふわ系の少女だった。豪奢なドレスからあふれんばかりの双丘が自己主張している。柔和そうな笑みを浮かべ、鼻歌を歌っていた。


 並走というよりか、並飛行していたカラスが威嚇の鳴き声をあげる。本来、地上にしか存在しないはずの生物が上空に侵入しているのだ。彼より知性が下の鳥どもでも、不審に思って然るべきだ。

「やっほ、鳥さん。今日もいい天気ですな。あ、カーカーって言った方がいい?」

 思い切り敵視されているにも関わらず、少女は呑気に声をかける。カラスは「アアーッ」と恫喝だか怯えだか分からない声を出し飛び去ってしまった。

「もう、つれないな。やっぱ鳥さんとは友達になれないかな」

 頬を膨らませながら、頭の後ろで手を組んであぐらをかく。どう考えても空中でやっていい所作ではない。器用にバランスをとっていることからして、身体能力の高さが窺える。


 しばらく空中遊泳を楽しんでいた少女だったが、突如眼下で爆音が響く。「およ?」と間抜けな声を出して高度を下げる。

 所々で火柱があがっており、人々が喚きながら走り回っている。騒動の中心地にいたのは、炎のような赤い髪をしたドレス姿の少女だった。掌底から炎を発射し、周囲を焼き尽くしている。


「へえ、面白そうじゃん」

 少女に恐れなど無いのであろうか。一切躊躇することなく、凄惨なる現場へと急降下していく。鼻歌混じりで、完全にテーマパークへ行く調子であった。

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