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魔法少女バスターズ&フレンジャーズ  作者: 橋比呂コー
File.5 死神の魔法少女
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魔法少女刹那

 忌まわしきD事件。刹那の記憶が途切れる最後の瞬間。あの時もまた、姉の明日香はデッドリーパーにわしづかみにされ、宙に晒されていた。そして、あの時と同じように六花の首元に鎌が迫っている。


「い、いやだ、はな、して」

 途切れ途切れになる呼吸音。必死にあがくが、デッドリーパーの腕力からは逃れることができない。確実に訪れんとする「死」に六花の目からとめどなく涙があふれる。


「一度だけならず二度までも目の前で仲間を殺されて、どういう気分だろうなぁ。今度こそ絶望するかぁ。それならばそれまでだぁ。だが、もし、立ち上がってくるようなら。ククク、楽しみだなぁ」

「腐ってる! そんなことのために六花を!」

「せん、ぱい」

 次第にその声はか細くなっていく。


 六花のことは当初、うざったい後輩にしか思っていなかった。憧れているだかなんだか知らないが、勝手に付きまとってきては、あれこれ世話をやいてくる。刹那はMSBに仲良しごっこをしに来たわけではない。正直、金魚の糞などいらないのである。

 しかし、屈託もなく接してくる後輩と日々触れ合っていくうちに、情が沸いてくるのは人間の性だろう。邪見に扱う時もあるが、彼女を疎ましいと思うことは次第になくなっていった。


「六花を、放しなさい!」

 怒号を浴びせるが、デッドリーパーは呵々と笑い飛ばす。それどころか、首を掴む手に力を入れた。鎌でとどめを刺さなくとも、窒息で事切れるのが先だろう。体が痙攣を始め、一刻の猶予もない。


 ふと、刹那の胸の奥底が熱くたぎった。前にも似たような衝動に襲われたことがある。あの時はどうにか抑え込めたが、今度ばかりは堪えきれそうにない。

 まるで獣のような叫びで刹那は吠える。その勢いは、昏倒していたマシュが飛び起きるほどだ。

「六花を! 六花を放せ!」

 機械人形のように同じ文言を叫びながら、刹那は睨みを利かせる。その勢いにさしものデッドリーパーも怯んだ。


 実のところ、楽勝で終わらせられるから、おちょくってやろうとしただけの道化であった。刹那は昔わざと逃した獲物であるとはいえ、それまでの存在だ。深い憎悪があるわけではない。

 だから、刹那の身に起きている変化はデッドリーパーを以てしても予想外だったのである。

「てめぇ。なんだよ、その姿は」

 思わず、そう呟いてしまうほどに。


 刹那の右腕がアメーバのように変容し、一つの武器を形成していく。それは彼女の愛刀である倶利伽羅丸とうり二つ。そして、MSBの戦闘服がパージしたかと思うと、一瞬で別の衣装が再構築される。早着替えなんてちゃちなものではなく、「変身」としか言えない様変わりであった。

 しかも、その衣装がまた独特であった。マシュが洋風のドレスとするならば、刹那のそれは和装。これから切腹を施さんとする袈裟装束は、この場においてはさながら処刑人のようであった。


 劇的な変化を最初から目撃していたのなら、ソレが刹那であると断言できたであろう。だが、初見で今の刹那を目撃したのであれば、こう称するしかない。

「魔法少女、だと」

 あまりにも異様な風貌はその発言通り、魔法少女に他ならなかった。


「どういうこと。刹那が魔法少女に変身した」

 この状況下、完全に観客と化していた佳苗は困惑の声を漏らした。これまでに遭遇した魔法少女とは雰囲気からして違う。確かに人間ではあるのだが、その佇まいはどこか人間を超越していた。


 刹那は一言も言葉を発することなく、右腕の刀を掲げる。その後のデッドリーパーの反応は野生の勘とでも言うべきものであった。掴んでいた六花を突き放すと、一目散にガードレールの上へと飛び乗った。


 ほんの数秒後。デッドリーパーがいた場所で大太刀が振るわれる。もし、油断して留まっていたのなら、そのまま両断されていただろう。

「外した、か」

 その時に初めて刹那が声を発した。いつもの彼女よりも更に冷淡な声音であった。


「どういうことだ、これは」

 スマホのカメラを通じて遠隔で現場を監視していた西代長官は驚愕の声をあげた。本部の隊員たちにもざわめきが広がっていく。

 人間が魔法少女になる。そんな事例はこれまで聞いたことがない。いや、そもそもあれは本当に刹那のなのか。


 あまりにも不確定な事象が起こりすぎて、西代長官はインカムを握りしめることしかできなかった。ややあって上層部から通信が届いた。こういうことに対しては決断が早いのだなと内心悪態をつきつつも、内部隊員に通達する。

「上からの命令だ。これより先のデッドリーパーとの戦闘の様子は決してマスコミにリークするな。くれぐれも内密に頼むとのことだ」

 今頃、情報統制に奔走していることだろう。舌打ちしつつも、西代隊員は呟く。

「刹那。本当に大丈夫なんだろうな」

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