マシュVSデッドリーパー
「なんだぁ、てめぇは」
「マシュだよ。せっちゃんの友達ってところかな」
「魔法少女のくせに人間の友達だぁ? ふざけた野郎だぜぇ」
「ふざけてなくて大真面目なんだけどな」
心外とばかりに腰に手を当てつつ、マシュは降下する。刹那はふらつきながらも倶利伽羅丸を突きつける。
「助けてくれたことは礼を言うわ。でも、これは私の勝負よ。邪魔立てはさせないわ」
「だから、この子はヤバいんだって。私が友達になるのが難しそうって感じてるんだもん」
「何を根拠にそんなこと。っていうか、友達になんかなる必要はないわ。こいつは私が倒すから」
「てめぇら、勝手にグチグチ言い合ってんじゃねぇぞ」
デッドリーパーは旋風を巻き起こすように鎌を一閃する。すかさずマシュは飛び退る。そして、触手をうねらせて威嚇した。
「せっちゃんをいじめるなら容赦しないよ」
「しゃらくせぇ」
デッドリーパーへと迫る触手。それらは鎌で一刀両断にされる。だが、即時再生して執拗に体をからめとろうとしている。
いきなり獲物を横取りされて憤慨する刹那だったが、介入する余地を失っていた。触手と鎌。どちらの攻撃速度も目で追うのが精いっぱいだった。いや、追える方が異常なのかもしれない。六花に至っては「何をやってるのか分からないッス」と白旗をあげていた。
戦況としてはデッドリーパーが優勢であった。ありとあらゆる方向から触手が襲来するが、それらをすべてぶった切っていた。すぐに再生されるから痛手にはなっていないものの、無限に再生できるとも限らない。防戦一方となっている以上、先に限界が来るのはマシュだろう。
「一筋縄じゃいかないと思ったけど、予想以上だね」
そのことを悟っているのか、マシュは渋面を浮かべる。いっそ、単純な殴り合いに持ち込むか。いや、彼女の最大の優位性である触手を捨てるのは悪手だ。奇しくも刹那と同じ結論に至っているのだが、デッドリーパーには奇策を用いないと勝てそうにない。だが、現状のマシュに触手以上の奥の手など存在しなかった。
一方のデッドリーパーは有頂天だった。別の魔法少女の乱入は予想外だったが、そんじょそこらの人間をいたぶるよりは数倍楽しめる。刹那とかいう人間も骨があったが、こいつはそれ以上かもしれない。
そのため、自然と鎌を振るう手に力が入るのだが、結果的にマシュを窮地に追い込むことになっていた。打開策を探りながら戦っているマシュに対し、デッドリーパーは余計なことを考えずに全力でぶつかっているのだ。どちらが劣勢になるかは明白だろう。
「これは、どういうことだ」
西代長官からの報告を受けて現場に到着した永藤は、開口一番に驚愕した。さもありなん。デッドリーパーと刹那が戦っているとばかり思っていたのに、相対していたのはマシュだったのだ。
「ちょっと、どんな状況? なんで触手の魔法少女がいるのよ」
「私に聞かないで」
がなりこむ佳苗を刹那は雑に扱う。いちゃもんをつけられたが、真っ当に相手する余裕はなかった。
実のところ、デッドリーパーを狙い撃つには好機といえた。奴はマシュとの戦闘に注意を払っており、さすがにライフル銃を相手にする余裕はないだろう。
だが、精鋭の隊員四人が揃ったところで手が出せずにいた。一つには、長官より「デッドリーパーに攻撃するな」と命令されていること。変に刺激して、こちらを一網打尽にさせられたら一気に作戦が瓦解する。むしろ、隊員の頭数が揃うまでマシュとバトルしてもらった方がいい。
そして、もう一つは単純に圧倒されていたからだ。両者ともに人間離れした勢いで連撃を放っている。彼女らに介入するなど常人には不可能といえた。
刹那たちが観戦を強いられている中、マシュとデッドリーパーの接戦は続く。だが、その拮抗は突如として崩れる。
脇を狙ってきた触手をデッドリーパーはおもむろに掴む。予想外の行動にマシュの動きが一瞬鈍る。これこそ、デッドリーパーの目論見だった。
力任せに触手をたどりよせ、強引にマシュを至近距離に招き入れる。互いの息がかかる範囲にまで接近してしまっては、触手は効力を発揮できない。実のところ、触手を切り離すことはできなくもなかったのだが、咄嗟のことだったので反応が間に合わなかったのだ。
そして、鎌により一閃される。かと、思われたのだが、マシュを襲ったのは徒手空拳だった。どてっぱらに一発をもらい、マシュは反吐を吐いて崩れ落ちる。
急転直下の顛末に、刹那たちは絶句していた。デッドリーパーといつまでも接戦ができるとは考えていなかったが、予想外に早く決着がつけられてしまうとは。
いくらマシュが再生能力に優れているとはいえ、殴る蹴るの応酬に対応しきれていない。もちろん、並みの人間の暴行なら屁でもないのだが、相手はデッドリーパーだ。マシュでなければとっくの昔にこと切れている。
そして、勢い任せの蹴りを受け、マシュはビルの壁に叩きつけられた。
「魔法少女だから歯ごたえがあると思ったが、そうでもなかったなぁ。期待外れだぜぇ」
「そんな。マシュが負けたッスか」
六花が悲痛な声をあげる。壁を背にしたマシュはピクリとも動かない。討伐すべき相手とはいえ、こんな結末を迎えるなんて。刹那もまた衝撃を隠しきれず、だらりと腕を下げていた。




