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戦闘訓練

 魔法少女の襲撃は毎日あるわけではない。数日の間隔で出現することもあれば、数週間ほど音沙汰がないこともある。

 出動要請がない間、MSBの面々は遊び惚けているのかと言われれば、もちろんそんなことはない。来るべき時に備え、訓練に勤しんでいるのだ。


 この日は刹那の所属するA班が集合し、基礎体力トレーニングが行われていた。MSBは十数人規模でいくつか班分けされており、中でもA班は支部で最強と目される。「央間支部の暴れ馬」との異名もある刹那が属しているだけでも他の班は及びもつかない。加えて、統率力に関して西代長官のお墨付きをもらっている永藤桜もいるのだ。全国規模で見ても突出した実力を持つといっても過言ではない。


 部隊から更に五人の組を作り、屋外訓練場のサーキットを周回する千メートル走の真っ最中だった。仲間内とはいえ、誰が一番速いかの競争となるため、自然と熱も入るものである。

 西代長官が号砲を鳴らすと、隊員たちは一斉に走り出す。誰も彼も少女らしからぬ走力だ。高校生向けのインターハイはおろか、オリンピックに出場しても通用するだろう。最後にゴールした隊員でさえ、世界記録に匹敵する記録だった。尤も、実際に出場しようものなら、ドーピングで即失格となる。


 次々と隊員たちが訓練を終えていく中、ひときわ大きな歓声があがった。とある二人の隊員がスタートラインに立ったからだ。

「永藤隊長、頑張ってください」

 黄色い声援を受け、永藤は笑顔で手を振る。ストレッチをするに合わせ、トレードマークのポニーテールが揺れる。


 その隣に立つのは刹那だ。一切気にする様子もなく、さっさとクラウチングスタートの姿勢に入る。

「あなたと走るのも久しぶりね。前は負けたけど、今回はそうはいかないわよ」

「これは訓練。勝ち負けは関係ないわ」

「相変わらずつれないわね」

 永藤は苦笑するが、刹那は素知らぬふりだ。鼻にかかる態度に、永藤の取り巻きである隊員は露骨に嫌な顔を見せる。


「お前ら、さっさと位置につけ」

 西代長官の注意を受け、刹那達はスタート位置につく。もはや二人だけの勝負となっており、残り三人は肩身が狭そうだ。

 号砲が鳴るやいなや、刹那が真っ先に先頭に躍り出た。ペースが完全に百メートル走のそれだ。他の隊員は言わずもがな、永藤でさえも置き去りにする。


「訓練でさえ猪突猛進ね。でも、それがいつまで持つかしら」

 走りながら永藤はほくそ笑む。三人の隊員を引き離しながら、刹那ともつかず離れずの距離を保っている。

 勝負を仕掛けたのは半分を過ぎた辺りだった。予想通り、刹那の速度が徐々に落ちてきている。対して、永藤の体力は未だ順風満帆だ。ギアを上げるのと同調して、取り巻き隊員の声援も加速する。


 背後から急接近してくる永藤を察知し、刹那は更に速度を上げる。永藤ははっとした表情を浮かべた。「バカな、どこにそんな体力が」と思っているのだろう。とはいえ、空元気で走っているようなものだ。二人の距離はどんどんと縮まってきている。

 ゴールまで残り二百メートルほどだろうか。隊員たちの声援を受け、永藤はラストスパートをかける。手加減なしの全力疾走だ。万全の体力ならまだしも、消耗している刹那は逃げ切れまい。


 しかし、そんな目論見はもろくも崩れ去る。刹那との距離を詰めるどころか、逆に離されていく。序盤から全力疾走してもなお、更に加速できるだけの体力があるというのか。隊員たちの声も次第にトーンダウンしていく。

 もはや、刹那に迫ることができたのが奇跡というワンマンショーだった。僅か二分足らずの間に隊員を希望から絶望にたたき落とし、刹那はゴールインを果たした。


「相変わらず滅茶苦茶な体力してるわね。完敗だわ」

「そりゃどうも」

 永藤のねぎらいに対し、素っ気ない態度をとる刹那。「生意気じゃない」と他の隊員たちから反感の声が出る。いつものことなので、刹那は気にした様子もない。もう少し仲良くできないものかと、西代長官は頭を抱えるのだった。


 次の組への号令を出そうと、西代長官は手を挙げる。すると、所持していたスマートフォンからけたたましい警報が鳴り響いた。画面を一瞥するや、隊員たちに集合をかける。

「訓練の途中ではあるが、日輪町にて魔法少女の出現が確認された。既に被害も出ているそうだ」

 魔法少女という単語が出たことで、隊員たちの顔が引き締まる。特に、刹那は身を乗り出さんほどの勢いだ。

 日輪町は支部がある央間市から車で数十分の距離にある。警察のようにどこかしこに拠点が配置されていない以上、刹那たちが最短で駆けつけられる部隊となる。それまでは警察や機動隊が足止めをすることになるが、あくまで時間稼ぎにしかならないだろう。


「敵魔法少女の情報は追って連絡するが、かなりの強敵らしい。なにせ、君たちA班の出動が要請されたからな」

「私たちを指定で呼び出すなんて、よっぽどの相手みたいね」

 永藤の言葉に、隊員たちは気を引き締める。そこには、先ほどまでのワチャワチャした少女らしさは微塵もない。

「訓練の途中で消耗している君たちを出すのは申し訳ないが、通報情報を確認する限り、他の部隊では対抗できそうもない。速やかに出動準備を整え、エントランス前に集合してくれたまえ」

「了解」

 敬礼とともに、隊員たちは走り出していく。刹那が先行していたのは言うまでも無い。

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