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赤い靴履いてた女の子

 刹那が乗車した便のまさに一本前に六花は乗り込んでおり、一足先に現場である園部駅に到達していた。西代長官より知らされた地点へ、地図アプリを活用しながら急行する。どうやら、国道のど真ん中に出現していたようで、周辺では交通規制が始まっていた。イライラしながらハンドルを指で叩く運転手をよそに、六花は車の列の脇を走り抜ける。

 そうして現場にたどり着いた時には、既にB班の面々は戦闘態勢を整えていた。

「遅いわよ、六花。どこで何してたの」

「遅れてすまないッス。刹那先輩とデートしてたッス」

「なるほど。その浮ついた格好はその証拠なわけね。私だって、非番だったら永藤隊長とあんなことやこんなことをしたかったわよ。まずは一緒に服を買って、食事して、遊園地デートして。それで夜はゴールイ……」

「佳苗、そんなこと言っている場合じゃないから」

 隊員に袖を引っ張られ、ようやく佳苗は我に返る。茫然としている六花の前にライフル銃とインカムが放り投げられた。


「西代長官から連絡は行ってるでしょ。あいつが今回のターゲットよ」

 装備を整えつつ、六花は目標を確認する。おさげ髪の地味な印象の少女だった。一見すると、近所の女子中学生と大差ない。


 唯一、特筆すべき点を挙げるとするなら、赤いハイヒールを履いていることだろうか。OLならまだしも、学生ぐらいの彼女が身に着けるには不相応に思えた。とはいえ、容姿のアンバランスさなど問題にならなかった。リズムよく足踏みをしているのだが、その度に地響きが轟いているのだ。

「あかいくつ~、は~いてた~、お~んなのこ~」

 足踏みに合わせて歌うように、うわごとを呟いている。例に漏れず、意思疎通は期待できそうにない。


 六花がインカムを装着すると、西代長官より通信が入った。

「どうやらB班全員が揃ったようだな。既に連絡はしたかと思うが、今回の敵はコードネームクリムゾンソックス。靴の魔法少女とでもいうべきか」

「メジャーリーグのチームみたいな名前ッスね」

「現状、道路陥没以上の被害は報告されていない。だが、これ以上野放しにするわけにもいくまい。作戦はあらかじめ伝えておいた通りだ、健闘を祈る」

 六花の冗談をスルーし、西代長官は事務連絡を終える。周囲を観察すると、魔法少女の仕業と思わしき陥没があちらこちらに確認できる。


「あかいくつ~、は~いてた~、お~んなのこ~」

 歌いながら右足を地面に叩きつける。それだけで大型車が百台規模で通り過ぎたくらいに道路がえぐれている。

「まったく、道路工事の手間を増やして。はた迷惑なやつね」

「佳苗。一つ思ったッスけど」

「急にどうしたのよ、六花」

 深刻な顔をする六花に、佳苗は身構える。

「赤い靴履いてた女の子は異人さんといい爺さんのどっちに連れられたッスかね」

「どうでもいいでしょ、そんなの!」

「いや、気になるじゃないッスか。どこぞの国の工作員に連れられたかもしれないッスよ」

「外国の爺さんってことにしときなさいな」

「おお、その案はなかったッス。アルムのおんじみたいな人なら安心ッス」

「っていうか、何の話をしてるの?」

 二人のコントに他の隊員は呆れるばかりだ。ちなみに、正確には「異人さんに連れられて」である。


 二人してバカをやったところで、魔法少女は襲撃を待ってはくれないようだった。ステップを踏みながら接近するや、近くにいた隊員に蹴りかかったのだ。

 隊員はすんでのところで回避したが、あまりの風圧にたたらを踏む。地面をえぐることのできる脚力だ。まともにヒットしていたら、あばらの二、三本は持っていかれただろう。


 銃を構えつつ、六花たちは西代長官の指示を思い返す。

「相手は見ての通り、並外れた脚力によるキックを得意技としている。だが、裏を返せばそこが弱点ともなる。集中的に足元を攻撃して戦力をそぎ落とす。そうすれば、あとはいくらでも対処できるだろう」

 B班を出撃させた理由の一つは、相手の弱点が分かりやすいという点を考慮してのことだった。無論、長官からの指示がなくとも、六花たちの狙いは決まっていた。


「あからさまに弱点をさらしている相手、苦戦する余地はないわ。早々に戦火を挙げて、永藤隊長と同じA班に昇格する足掛かりにするんだから」

 殊更に息巻いていたのは佳苗である。キックという近距離戦主体の相手であれば、なおさらライフル銃が使えるこちらが有利。標準を合わせ、引き金を引こうとする。


 だが、クリムゾンソックスは思わぬ行動に出た。屈伸運動の要領でひざを曲げたかと思うと、上空へと飛び上がったのだ。

 その高さはゆうに五メートルは超えるだろうか。そう、彼女たちは失念していたのだ。地面にクレーターを作れる脚力の持ち主であれば、当然跳躍力も異常であることに。


「佳苗、危ない!」

 隊員からの勧告で我に返り、佳苗はすかさずダッシュで退避する。数秒後に、佳苗が元居た場所に飛び蹴りが炸裂した。呼びかけがなかったなら、直撃により重傷は免れなかっただろう。

「あいつ、バッタの改造人間みたいな攻撃してくるッスね。やっぱ一筋縄ではいかないみたいッス」

「感心している場合じゃないでしょうが。まったく、遠距離から撃ちまくってれば勝てると思ったのに、計算が台無しじゃない。あんな方法で距離のハンデを打ち消すなんて、聞いてないわよ」

 憤慨しつつも、佳苗はライフル銃を連射する。しかし、またも上空に逃れられてしまい、地面に無意味に銃弾を浴びせることとなった。


 戦況としてはクリムゾンレッドの独壇場であった。地上を素早く走り回ったかと思いきや、唐突に大ジャンプを披露する。まったく予想できない動きに、MSBの隊員たちは翻弄されてばかりだ。

 おまけに、攻撃を受けたら病院行きという認識もあり、回避もおろそかにできない。戦闘開始から十数分が経過しようとしているが、いまだにかすり傷すら負わせることができずにいた。


「随分と苦戦しているようじゃない」

 肩で息をしている佳苗に、唐突に声がかけられる。その主は刹那だ。

「先輩! どうしてここに」

「私が魔法少女を逃すわけがないでしょ」

 スマホをちらつかせながら、刹那は自慢気に言い放つ。電車が一本遅れたぐらいの差異で到着できたのは、純子の賜物である。

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