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マシュマシュ島

「さっきの店員と知り合いだったんスか」

「ちょっと前に偶然会っただけよ」

「それにしては妙に親しかったッスよ。本当に知り合いってだけッスか」

「妙なことを追求しないでよろしい」

「アタッ! 角はやめてくださいよ、角は」

 探りを入れてくる六花を、刹那はメニューを使って黙らせた。別に嘘は言っていないのだが、六花の疑念が深まっているのは間違いあるまい。


 正直、マシュの扱いについては決めあぐねている部分もあった。いずれは倒す相手であるのだから、六花にも素性を明かして協力を仰ぐべきであろう。だが、本願であるデッドリーパーの情報を探るためと仮定すると、マシュには自由に泳いでもらっていたほうが都合がいい。徹底抗戦に入りでもしたら、情報を得るどころではなくなるからだ。


 頬杖しながら思考にふけっていると、目の前でメニュー表が揺らされた。

「さっきから押し黙っちゃって大丈夫ッスか。せっかく、人気のスイーツバイキングに来たんだから、楽しまなきゃ損ッスよ」

「そ、そうね」

 有力な手がかりが手に入っていない現状、悩みすぎても仕方がない。マシュの生活の拠点ともいえる場所が特定できたと考えれば大きな前進だろう。素直に後輩の好意に甘えることにして、刹那はメニュー表を開いた。


 色とりどりのメニューとにらめっこしている間に、六花は慣れた様子でケーキやらパイやらを皿に盛りつけていく。一般的なバイキングと同じように、自分で任意の商品を取りに行く方式だ。適当に配膳しているようで、食欲を誘う見目鮮やかな配列となっている。

「子供のころからスイーツでお腹一杯になってみたかったッスよね」

「あなたは今でも子供なんじゃないの」

「それを言うなら、先輩も子供ッスよ」

 ビシリとチュロスを突き付けて主張する。成人年齢に達していないという意味では子供ではある。それに、六花の意見は分からないでもない。刹那もまた、スイーツの山を前にそわそわと腰を浮かせているのだ。


 六花に負けじと刹那も盛り付けを完了させたところで、さっそく実食する。正直、味は期待していなかったのだが、程よい甘さで次々と口に入れたくなる。普段、食後にしか食べることができないものを、こうも無遠慮に食べつくしていいのか。そんな妙な背徳感と特別感がフォークをグイグイと進ませていく。


 テーブルに所狭しと並べたはずが、制限時間の半分を過ぎる頃には、あらかた食べつくしてしまっていた。六花はお腹をさすりつつも、お代わりを取りに席を立つ。刹那がミルクティーで一息ついていると、マシュがポットを片手に近寄ってきた。

「お客様、お茶のお代わりはいかがですか」

「あんたの手ほどきは受けない。と、言いたいところだけど、もらうわ」

「素直じゃないんだから」

 マシュからもらったお代わりに口をつけていると、別のお代わりを仕入れてきた六花が戻ってきた。


「そういや、その子ってせっちゃんの友達?」

「せっちゃんはやめて」

「いいじゃないッスか。わたしはその呼び方好きッスよ。呼んでみてもいいッスか」

「ぶっ殺すわよ」

「呼び方ぐらいいいと思うんスけどね。あ、そうそう。わたしは先輩とはどういう関係かッスよね。一言でいえば、MSBの先輩後輩関係ッス。でも、将来は唯一無二のパートナーになるッスよ」

「あんたもまた、仁藤みたいなこと考えてたのね」

「あいつと一緒にしないでくださいッス。そりゃ、まあ、あいつが永藤隊長を思うのと同じくらい、先輩のことを」

 最後のほうはもにょもにょと聞き取れず、しまいには口の中にケーキを無理やり放り込んでごまかされてしまった。


「それよか、マシュさんでしたっけ。あなたは先輩とどういう関係なんスか」

「んーとね。友達、かな」

「違う」

「えー、友達でしょ。そうだよね、ね、ね」

 巨大な胸が迫ってくるものだから、刹那は椅子から落ちそうになるのを必死にこらえる。


「友達だとすると、珍しいッスね。マシュって、外国人の名前だとしても珍しいじゃないッスか。っていうか、外国の方ッスよね」

「まあ、そうかもね。南の方にある、会う人みんながマシュという島出身ってことにしといて」

「それ、どこのハメハメハ大王よ」

 冗談だとは思うが、六花は「考える人」よろしく熟考している。一抹の不安を覚えながらも、刹那は残っていたケーキを口に入れた。


「マシュといえば、最近現れた魔法少女も同じ名前だったッスけど、関係ないッスよね」

 刹那はむせた。口いっぱいに頬張っていなくて助かった。マシュからミルクティーを注いでもらい、一気に飲み干す。

「先輩、汚いッスよ」

「あんたが妙なことを言うからじゃない」

「ええー、でも、気になるじゃないッスか。マシュなんて、太郎とか花子みたいなよくある名前じゃないッスよ。しかも、魔法少女と同じなんて。何かあると考える方が自然ッス」

 MSBに選出されるだけあり、勘の鋭さは油断ならない。どう弁明したものかと刹那は眉間にしわを寄せる。


「だから言ったじゃない。島の人全員がマシュっていう島から来たって」

「そんな島、本当にあるんスか」

 そう言いつつ、スマホのブラウザを立ち上げる。ググる気満々だ。純子に頼んで架空の島を捏造してもらうか。いや、いくら彼女でも数秒ででっち上げのウェブページを作るのは無理だろう。


 有効打を見いだせず、刹那はテーブルを指で叩く。

「えっとね、マシュマシュ島っていうの。知らない?」

「そんな幼稚園児向け番組に出てきそうな島は知らないッス」

 刹那は心の奥で「あんたは黙ってろ」と叫んでいた。明らかにそんなふざけた名前の島は実在しない。

 いっそのこと、六花には本当のことを明かすか。刹那を妄信している彼女であれば、事態が妙な方向に動く可能性は低いだろう。


「六花、話があるの。彼女はね」

 いざ決心して切り出した途端、六花のスマホが着信音を鳴らした。慌ててスマホを落としてしまいそうになりながらも、六花は通話に応じる。

「もしもし。西代長官ッスか。お疲れ様ッス」

 西代長官の名前が出た途端、刹那もまた険しい表情を取り戻し、聞き耳を立てる。

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