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魔法少女の繋がり

「ねえ、ある魔法少女について聞きたいんだけど」

「へえ、私以外にも気になる娘がいるんだ」

 探るような口ぶりながら、パフェを食べる手は止まらない。一方の刹那は面接試験に臨むかのように姿勢を正している。

「デッドリーパー。そう呼ばれている魔法少女を知らない」

 パフェの最後の一口を運ぼうとしていたが、その動きが止まった。


 刹那はその様子を見逃さなかった。机の上に半身を乗り出す。しばらく天を仰いでいたマシュだったが、

「知らない、かな」

「本当に知らない? あのデッドリーパーよ」

「もちろん、存在自体は知ってるよ。でも、会ったことは無いし」

「魔法少女同士、情報網でもあるかと思ったけど」

「そんな都合よく、魔法少女同士で繋がれるわけじゃないよ。せっちゃんだってそうでしょ。世界中の人間みんなと友達なわけではないじゃん」

 マシュは必死で弁明する。インターネットを使えば世界中のみんなと友達になることは不可能ではないが、そういうことを言っているのではない。刹那とて、有名テレビタレントの個人情報を教えてほしいと言われても返答しかねる。同じ魔法少女とはいえ、赤の他人だったということだろう。


 肩を落とす刹那。すると、マシュは顎に手を添えて唸った。

「でもさ。あの子とは友達になれそうにない。直感だけど、そんな気がしたんだよね」

 おちょくっていた態度から一変し、重々しい口ぶりになる。刹那でさえ息をのんだほどだ。出会って幾何もないが、彼女が嘘を言っているのではないことは十分に伝わってくる。


「ねえ、逆に聞いていい? どうしてデッドリーパーのことが気にかかるの? あの子と関わるのだけはやめといた方がいいよ」

「忠告はありがたく受け取っておくわ。でも、どうしてもあいつは私の手で倒さないといけないの。なぜなら、あいつは私の家族の仇だからよ」

 刹那はグラスを握りしめる。冗談抜きで握りつぶしてしまうところだった。マシュは口を開閉していたが、結局二の句を告げずにいた。


 しばらく沈黙が続いていたが、刹那はやおら立ち上がった。

「どうやら、私が欲しかった情報はこれ以上望めそうもないわね。とりあえず、いい店を紹介してもらったことはお礼を言っておくわ」

「そう。じゃあ、今日のところはお暇だね」

 物欲しそうにマシュはゆっくりと腰を上げる。そして、そそくさと出口に向かおうとしたのだが、刹那は手早く袖口をつかんだ。


「あれ? なんだかんだ言ってお別れが寂しい」

「冗談でしょ。あんた、まさか食い逃げするつもり。魔法少女だからお金を持ってないなんて屁理屈は通用しないわよ」

 「えへぇー」と本気で逃げようとしていたかどうか判別できない微妙な笑顔を浮かべる。刹那は拳を握りしめており、即座に殴打するのも辞さないつもりだった。


 ちなみに、MSBの隊員には毎月報酬金が支払われている。一般的な女子高生のひと月の交際費としてはおつりが来るくらいだ。加えて、刹那はろくに消費する機会のない私生活を送っている。二人分のカフェの料金なら余裕で支払うことはできる。実際に払うかどうかは別だが。


 舌を出したマシュだったが、おもむろに懐から財布を取り出した。モコモコの毛皮がついており、都会のOLが持っていそうな代物だ。

「まさか私が食い逃げするわけないでしょ。ちゃんとお金は持ってるよ」

 ちらりと数枚の福沢諭吉がこんにちはしていた。思わず刹那は顔をひきつらせる。

「あんたそれ、ちゃんとしたお金でしょうね」

「私を狸の妖怪と勘違いしてない? れっきとしたお金だよ」

 むしろ、魔法少女が正規の日本紙幣を有していたことが驚きだった。実は葉っぱでしたと煙に巻いてくれた方がしっくりくる。


 刹那も遅れじと財布を取り出そうとするが、マシュはウィンクして手のひらを広げた。

「こんな時は年上がおごるのがエチケット、でしょ」

「おごってくれるのなら、ご相伴にあずかるわ。ってか、あんた、実年齢いくつよ」

「ひ、み、つ」

 シーっと人差し指を唇に添える。刹那と同年齢のように思えるのだが、あくまで「魔法」少女だ。ファンタジー小説を基にするなら、数百歳ぐらいごまかしていても不思議ではない。


 結局、マシュが料金を支払い、二人は店を後にした。店員と気さくに話し合っていた様子は、普通の人間となんら変わりなかった。

 空には茜がかかっており、どこからかカラスの鳴き声が聞こえる。カフェの本来の集客層である学生たちもちらほらと姿を見せ始めた。

「もっと遊びたいけど、そろそろお暇しようかな。また会えるといいね」

「勘違いしないでよ。あなたとはあくまで敵同士。次は絶対に倒すから」

「もしかして、ツンデレ?」

「ば、バカにしないで」

 刹那としては本気で宣戦布告したつもりだったが、マシュは微笑ましく手を口に添えるのだった。


 「じゃあね」と軽快にスキップしながらマシュは人ごみへと消えていった。情報収集という本来の目的からすると、得られた情報は乏しい。マシュ、そしてデッドリーパー。両者とも一筋縄ではいかないということぐらいだ。むしろ、休養しようとしたのに、余計に疲れたまである。


 それでも、なぜだか悪い気分はしなかった。マシュの姿が完全に見えなくなるまで、刹那はじっと立ち止まるのだった。

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