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誘拐から  作者: 高束奏多
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第一章 少年期事件編 ⑨


先生は何も言わずにコンビニの袋を差し出してきた。これが、さっき後ろでガサガサ音がしていた理由か。

中に入っている、おにぎりやペットボトルが透けて見える。

朝食のようだ。

そういえば、一昨日の午後から何も食べていない。昨日はあの後丸一日寝入ってしまったのか。緊張感のない自分が信じられなかった。

おにぎりの封を切って渡してきた。

何も言わず、右手で受け取ってかじった。

いつの間に買ってきたのだろうか。

それを言うならこの手錠もだ。最初からあったなら、昨日のうちから使っていただろう。私が、ロープを抜け出すなんて思ってもみなかったのだろう。きっと、昨日の午後、私が眠っている間に買ってきたのだ。そして、私も飼うなんて全く笑えない。

それにしても、手錠が簡単に買える世の中には不信感しかない。警察を除いて誘拐犯以外に需要があるとも思えない。それに、手錠を買いに行っている間に私が目を覚ましていたらどうしたのだろう。流石に、先生もそこまで馬鹿ではない。ロープなりで今度こそ縛ってから、出かけたのだろうがー。

そんなことを考えている間に、おにぎりを食べ終わった。正直、味はよく分からなかった。中の具材が何かなど気にも留めなかった。それでも、少しは落ち着いた。

ペットボトルに手を伸ばし、開けようとして、左手がついてきていないことに気付いた。

先生がペットボトルを取り上げて、ふたを開けてくれた。

おにぎりを食べている間、ずっと見られていて、居心地は悪かったが、意外と気が利くらしい。

「ありがとう。」と言いかけたが、それはやめた。言う必要はない。


ここまで、丸二日近く、この家で一緒にいるが、会話らしいものは未だに一つもない。お互いに名前を呼んだが、その返事はいずれもなかった。

そもそも、会話という点に限っていえば、ここに連れてこられる以前から、小学校でもしたことはなかったけど。したことがあるのは、せいぜい挨拶と授業内の応答くらいのものだった。

未だになぜ私がここにいるのか分からない。そもそも担任と生徒という以外に、接点と呼べるほどの関係性はおよそない。目的があるとすれば、それは小児性愛のようなものか、あるいは身代金の要求など親に対してのアプローチだろう。ただ、この二日間での先生からの対応から判断する限り、前者ということはまずないだろう。もちろん確証はない。それでも、そう信じることでしか恐怖をぬぐうことはできない。まだまだ、恐怖心は強い。それでも、昨日までの、あの途轍もなく気持ちの悪い恐怖というものはなぜか和らいでいた。

先生はしばしば私を確認しては、テレビを見て、また、振り返ってということを続けている。

テレビ番組で何をやっていても背景の雑音でしかなく、全然気にもならない。先生もどうしたらいいかわからないのだろう、ただ、眺めてるようにしか見えない。テレビ番組と出演者は次から次へ変わっていくのに、私と先生の間には何の変化もない。

当然のごとく、会話が生まれるはずもなかった。

時間だけが虚しく過ぎていく。


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