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誘拐から  作者: 高束奏多
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第一章 少年期事件編 ⑧

***


ニュースキャスターの声を感じながら意識が覚醒した。

聞こえてくる限りでは、毎日見ている番組とは局が違ったが、そう思ったのは一瞬だった。

CM前の番組テロップで今日が日曜日、そして時刻は朝であることを知った。

野球について話していたが、そんなことは本当にどうでもいいことだ。

どうか、昨日までのことが夢であってくれと、わずかな希望を胸に、うっすらと、そして、ゆっくりと目を開けてみる。

分かってはいたことだ。

がっかりはしない。

あんなにはっきりと体験したことが夢であるはずなどなかった。

まだ、我慢できる。

起きたということを悟られないように、目を閉じて、耳を澄まし、気配を感じることに全神経を注いだ。

 一縷の願いはまたしても、叶わなかった。

ガサガサというビニール袋のこすれる音がした。すぐそばには、先生がいることを知った。

日曜日である以上、先生は休みだ。せめて、コンビニにでも出かけていてくれたらと思ったがそんなにうまくはいかない。

そこで、手首の違和感に気付いた。

振り返って見なくてもわかる。手を動かしてみなくてもわかる。

てっきり、またロープで縛られているのだろうとはじめは思ったが予想は外れた。この、手首を拘束してくる、硬くて冷たい肌触り。

床に当たって、金属音を立ててしまった。

椅子を引く音。

床がしなる音。

一歩一歩近づいてくることを感じるのはあまりにも容易だった。

足音が止んだ時、目の前に何かがいる気配をはっきりと認識する。

目をきつく閉じているにもかかわらず、意外とわかるものだと、改めて人間の感性の鋭さを知る。

正しくは、人間の感性ではなく、動物の生存本能だろう。

自分の鼓動が相手にも聞こえるくらい、大きく速くなっていく。

「沖田さん」

その声は、あまりにもいつも通りの優しい声だった。とても、犯罪まっただ中にいる者の声とは思えなかった。

「沖田さん」

もう一度名前を呼ばれた。

どうしたらいいか分からなかった。でも、寝ているふりを続けて、白を切ることは無理だ。

再び目を開けて、ゆっくりと上半身を起こした。案の定、左手首には銀色の手錠が光っていた。その相方はというと食器棚の引き出しの取っ手につながっていた。きっと、天下の大泥棒なら、関節を外して、抜け出すのだろう。あるいは、靴の裏に仕込んだ針金で機用に開錠してしまうのかもしれないが、普通の女子小学生にそんな真似ができるはずもない。昨日のように機転で抜け出すことは諦めよう。

そして、正面には佐藤先生。

誘拐されてから、二度目となる先生との対面。この環境下で、恐怖以外に何を感じればよいのだろうか。

ニュースキャスターの声がやけに遠くに聞こえる。


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