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誘拐から  作者: 高束奏多
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最終章

 ***


 あれから一か月。八月八日

 生まれて初めて、地元を離れた。

 軽くアスレチックと化した家は大家さんとひと悶着あったが、なんとか自分で撤去し、金銭で納めてもらった。大家さんとしても、事件になった以上、あまり大事にはしたくないだろう。

 心機一転。新天地でやり直すつもりで。

釈放直後は生活というより、毎日を浮遊していた。六年間の当たり前の日常を喪失し、どうしていいのかわからなかった。でも、一週間もすればさすがに、現実を直視しなればならなくなる。沖田さんが稼いでくれた貯金で食いつなぐのにも、いい加減無理がでてきていた。

 もといた小学校は休職扱いになっていたけど、きっちり懲戒免職になった。復職できるなどとは露も思っていかったけど、とりつく島もなかった。

宇都宮先生の件然り、あれ以来入学希望者は当然定員割れしている。地域での評判は最悪と言って差し支えない。僕に罪歴はないとはいえ、誘拐したという事実に変わりはない。小学校関係者等知る人にとっては簡単に分かることだ。そんな僕を雇用してくれるはずもない。

第一希望で公務員である小学校の先生になった僕にとって初めてのリクルート。慣れないことで、ただでさえ厳しいのに、辞めた理由を素直に話せば雇ってくれるところなどなかった。前科もちではないが、立ち位置としてはそうは変わらない。

四件目にして運よく、宅配業者で雇用してもらえることになった。せめてもの運転免許を持っていたのが功を奏した。大型免許は追い追いでいいとのことらしい。人手不足なのか、不安になるくらいあっさりしたものだった。ブラックの予感。少々自罰的だが、今の僕にはちょうどいいのかもしれない。

新しい土地、新しい環境。

これからは一人だ。

横断歩道を女子高生たちが楽しげに歩いてきた。

「知ってる?メリルさんのおまじない。好きな人とずっと一緒にいられるんだって。」

「違うよ。メルさんでしょ。」

僕の学生時代にもこういうのが女子の間であった。以前の職場の小学校であった気がする。いつの時代も変わらない。

ガラにもなくつい感傷に浸ってしまった。なんというか、あれ以来過去を想起してしまうことが多い。

すれ違いざまに、女子高生のその一人と目が合ってしまった。どことなく似ている雰囲気がしたがそんなことはない。 

振り返ってみたが、過ぎ行く後ろ姿は全くの別人。

点滅する信号。

明日へ向けて、歩を進めた。

 

***


「あの子かわいくない?」

女子高生の群れが横を過ぎて行った。

しかし、興味はすぐにどこかへ行ったようで、話題は恋バナに。

騒ぐしか能のない連中は不愉快だ。

それより、

 その人は色が変わった信号を前に慌てて小走りになった。

 その姿に思わず頬が緩んだ。

 いとおしくて、愛らしくて、早く逢いたい。

 「ただいま。これからも、私が側にいるから。」


 完


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