第四章 青年期解決編 ⑯
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七月八日
警察署内のモノクロな廊下を碓井刑事に付き添われながら歩いている。
僕は誘拐犯で監禁犯だ。刑事にはありのままを話した。有罪を確信していた。それがなぜ、こうなった。
警察に連れて行かれ、一日目を病院で明かした。二日目は署内で過ごし、そして釈放された。四十八時間以内に送致しなければならないというタイムリミットに間に合わなかったのだ。
警察が僕の家を訪れ、逮捕した時点で、ある程度僕を送検する算段でいたはず。それなのに、できなかった。おそらく、ではない。確実に沖田さんが何かをしたのだ。病院で検査をしたのもその何かのうちの一つなのかもしれない。でも、その何かが何なのかは分からいし、特に知ろうという気にもならなかった。
「本当に帰ってもいいのですか。」
「残念だが、かまわない。送ってはいかないからな。」
そういう碓井刑事は本当に歯痒そうだった。
「はい。これから、また捜査されるということは。」
「おそらくはない。佐藤先生に関してはお咎めなしだ。」
「関しては」という言葉がひっかかった。これでは沖田さんはお咎めがあるような、そんなニュアンスだ。成人の僕は未成年を誘拐し五年以上も監禁した。一方で、沖田さんは未成年だし、監禁したのもほんの四か月。監禁という事実に「ほんの」というようなことはないかもしれない。それでも、どう考えても僕の方が罪は重いはず。何をどうしたらこういう顛末になったのかは分からない。もう一度考えてみたけど、やっぱり沖田さんのことについては聞かないことにした。これから、ニュースで処遇を目にするかもしれない。その時でいい。
警察署の玄関まで来た。こんな玄関だったのか。いきなり、パトカーで連れてこられた時は見る余裕はなかった。
ドアが開いた瞬間、夏の蒸し暑い風が僕を現実へと引き戻した。
「見送りはここまでだ。」
碓井刑事はすぐに僕に背を向けた。
「はい。」
それ以上の言葉は必要ないし、慣れ合う必要もない。
僕もすぐに背を向け、歩き出した。
同じコンクリートで連なる道なのに、その敷地、その門を一歩跨ぐだけで風景が変わった。
寄り道をしたコンビニで昼ご飯を買った。こうしてコンビニでご飯を買うというのも四か月ぶり。レジの横で見つけた新聞、一部適当に取ると、僕たちのことが載っていた。週刊誌にも僕たちのことが載っていた。このご時世、わざわざ紙媒体で買わずとも、ネットで見れるのに。そのことに、気づいてスマートフォンの電源を入れた。ダメもとで試してみると、パスコードは昔僕が使っていた番号に戻っている。こんなことにまで気を回していたのか。




