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誘拐から  作者: 高束奏多
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第一章 少年期事件編 ⑦

***


意に反して、ドアはあっさりと開いてしまった。そのせいで一瞬、戸惑ってしまった。しかし、ここで躊躇してもしょうがない。意を決して、ドアを開ききり、足を踏み出した。

後悔した。

普通に男性が座っていた。

彼も驚いた様子で、慌てていた。

目が合ってしまった瞬間、一目散に窓をめがけて走り出した。

そこで、ふと我に返ってしまった。

刹那の間にいろいろなことを考えてしまった。知っている人に似ている。でも、気のせいかもしれない。それより、なぜ、昼に家にいるのか。休みなのか。

失念していた。

誘拐された日が金曜日だったなら、今日は土曜日だ。二日寝ていたとしても、日曜日だ。いずれにしても、休みだ。タイミングが悪かった。ミスだ。至らなかった。

それよりも、あの人は_。

そこで、腕をつかまれてしまった。テーブルの階段まであと一歩というところで。家自体が大きくないということもあるが、それを差し引いても、やはり、女子小学生と成人男性では身体能力が違いすぎる。二つ目のミスだ。何がプランだ。全く思考が至っていない。

動揺と緊張。

おそるおそる振り返ってみる。

やはりだ。

 確信に変わった。

 知っている人だった。それもよく。

「佐藤先生・・・?」

 二の句は告げなかった。確信してはいても、名前を疑問調で聞いてしまうあたり、自分でも信じられないのだろう。

逃げようという気はとっくに無くなっていた。先生の握力で到底逃げ果せるとも思えないが。

先生も無言のまま、私を見つめるばかり。どうしたらよいのかなど、誰にもわかるはずもなく、ただただ、気まずい時間が流れていた。


このような場面ではよく、「何時間経過しただろうか。あるいはそれほど経過していないのかもしれない。」というような表現が使われるが、実際に経験してみてどうだろう。確かに、耐え難い時間を長く感じるが、感じるというだけだ。おそらくは数秒程度に過ぎないだろう。

重々しい空気にも少しは慣れ、もう一度口を開いた。

「佐藤先生」

返事はなかった。

誘拐した犯人が知った顔だなんて思いもしなかった。知らない人だったなら、もっと必死で抵抗しただろうし、怖かっただろう。

今は恐怖よりも疑問の方が感情の大部分を占めている。ひょっとしたら、誘拐ではないのかもしれない。でも、連れ去れたのは覚えている。あるいは、連れ去られた後、先生が助けてくれたのかもしれない。

いや、そんなはずはない。

ロープで縛られていたのだから。

心にゆとりが出て、考えれば考えるほどに、先生への懐疑心は強くっていく。

 そうすると、どうだろう。

 最初は犯人に対して恐怖を抱いた。犯人が知人と知ると疑問という感情が上回ったが、知人=悪意を持った犯人と理解ると、当初の恐怖よりもさらに大きな恐怖が押し寄せてくる。

 知らない人が犯人だったなら、どれだけよかったことだろう。恐怖と不安だけで済んだのに。

知っている人が連れ去った犯人というのは、ただの恐怖ではない。この途轍もなく気持ちの悪い恐怖によって、胃の中のものをすべて吐き出してしまいそうになる。幸いということは決してないが、すでに一日近く何も口にしていないため、吐き出すものなど何もなかった。普段であれば空腹を感じるはずだ。空腹を感じる余裕などあるはずもなく、ただただ気持ちの悪い嫌悪感によって、眩暈がし、そして、ゆっくりと視界が暗くなっていった。




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