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誘拐から  作者: 高束奏多
64/72

第四章 青年期解決編 ⑩

 ***


 同時刻

 一つとなりの取調室

 「それじゃあ、いろいろ聞くけど大丈夫かな。」

 「えぇ、大丈夫よ。」

 「沖田ネルで間違いないんだな。六年前に失踪した。」

 「そうよ。」

 「佐藤俊夫に誘拐され、六年間監禁されていた。そうだな。」

 この刑事だけでなく、警察全体として先生が悪者という認識でシナリオができている。そのことがたまらなく不愉快だ。確かに、私を連れ去って家に手錠で繋いだ。その一面だけ見れば、そうなのかもしれない。でも、そうじゃない。

 「違うわ。順を追って話すからよく聞きなさい。」

 自分で話していて、言葉の語気が強いと思った。敬語を使わないとかそういうことじゃない。多分、この口調にあつらえたような表情をしている。さっきの先生への評価を引きずっている。落ち着かなくては。

 「まず、私の親に会ったことはあるかしら。」

 「あぁ。ある。国会議員の沖田陸だな。」

 「どんな印象だった。」

 「印象ねー。正直六年も前だし、はっきりとは覚えてないけど。」

 「じゃあ、お母さんは。」

 「それも、しっかり覚えているわけではないけど、きれいでおしゃれな人だったと記憶している。かなり、憔悴していたから話は一度もしなかったと思うけど。それが何か事件に関係あるのか。」

 「えぇ。事件のきっかけよ。DVが。」

 「家庭内暴力、お父さんがか?にわかに信じられんが。」

 「でしょうね。けど、そうよ。私は暴力こそふるわれたことはなかったけど、お母さんには毎日だった。家の中での暴君ぶりと言ったら、それはもう。だから、お母さんはお父さんには何も言い返せないような状態になっていたわ。お母さんのこと、さっきおしゃれだったと言っていたわよね。」

 「あぁ、言った。どんな服だったかなんてさすがに覚えてないけど、そういう印象がある。」

 「普通、実の娘が誘拐されているという状況で、警察の人に対し、わざわざそんなところに気を配るものかしら。」

 「まぁ、それは確かに。」

 「多分、お父さんの指示ね。そんな時でも娘より世間体が大事なの。何も言わなかったというのも、憔悴していたからではなく、お父さんにそうするように言われたからよ。あと服装は長袖を着ていたんじゃないかしら。夏なのに。」

 「そんな気がしなくもないけど。」

 「もう一度行ってみると、いいわ。多分長袖だから。そして、その下には十中八九あざがあるはずよ。六年で暴力という習慣が治ったとは思えないし。」

 「家へはいずれ誰かが行くよ。君が発見されたことを報告しないといけないから。それで、仮に家庭内で暴力があったとして、それと事件がどう繋がるんだ。」

 真面目な顔で聞き返した。

 「当時、そのことを先生に相談していたの。」

 これは嘘だ。でも、事実と異なるタイプのばれる嘘ではない。先生もDVのことは知っている。相談はしていないが、なんとか記憶違いということにはできる。

あらかじめ、先生と口裏を合わせておこうとも考えていた。でも、不器用な先生にそんなことができるとは思えなかった。むしろ、ばれてしまった時、嘘によって警察の心証を損ねてもいけない。


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