第四章 青年期解決編 ⑥
「この後はどうするの。」
「服でも見ようと思っているのだけれど、付いてきてくれるかしら。」
「付いていかなくてもいいの。」
にらまれた。
駅と隣接する商業施設。
僕は服に全く興味ないし、沖田さんの服にはもっと興味ない。それでも、感想とか言わされて、そして、却下されるのだろう。女性の群れに中年男が十七の少女に連れられて。ある意味地獄のイベントだ。
「このビルの三階におすすめの店があるの。」
促されるままに、エスカレーターに乗り、三階についた。
「あれっ、佐藤先生ですか。ですよね。ご無沙汰しています。」
栗毛色の巻いた髪と口調のせいで年齢よりも若くみえるが、確か僕より五つ上だったはず。職場ではあまり、プライベートな話はしたことはないけど、受け持つ学年が一緒だったから、仕事の話はよくした。
よりにもよって、このタイミングで知人に会うなんて、沖田さんも思いもしなかっただろう。
「江藤です。覚えていらっしゃいますか。」
「あぁ、もちろん。」
「急に休職ですもの。びっくりしました。今はデート_ですか。」
沖田さんのほうを一瞥した後、再び僕の方に視線を戻した。この年齢差だ。いぶかしんでいるのだろう。
どうしよう。言葉が出てこない。
「佐藤春香です。」
誰だよ。と思ったが、親戚の設定か。僕の勤めていた小学校で沖田ネルの名前を知らない、覚えていない先生はいない。ネルという下の名前の珍しさというだけでなく記憶に残っていかねない。このあたりの対応も対策済みかアドリブなのかはともかく社会的コミュ力は評価せざるをえない。
「母が体調を崩しているので、兄は実家に戻っているんですけど、今は少し落ち着いているので、私のわがままに付き合ってもらっていて。」
「そうでしたね。お母様の体調不良だとか。変なこと聞いてごめんなさい。」
「いえ、とんでもない。僕もいきなりだったのでびっくりしました。江藤先生もお買い物ですか。」
ふふと笑みをこぼした。嫌な予感がしたけど、そんなことはなく。
「私はデート中なの。私もかな。」
沖田さんの方を見て、いたずらっぽく笑った。
「彼、先生もよく知っている人よ。」
「同じ先生ですか。」
「もうすぐ来るから、会えばわかるわ。きっとびっくりするわ。ほらっ来た。」
この人ごみの中では、こっちに来ているからといって、なかなか識別できない。
「こっちよ。」
楽しげに大きな声を上げた。
それに反応するがごとく、男がこちらを捉え、向かってきた。痩身で小柄な男性。こんな先生いただろうか。
僕は江藤先生の顔を見た。分からないというサインのつもりで。
江藤先生は察してくれた。名前どころか顔もわからないという失礼極まりない恥はさらさずにすんだ。




